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 翌朝。

 牧野林家の朝ごはんはパン。おかずは目玉焼きだったり焼いたソーセージだったり。付け合わせにトマトやレタスやキュウリ。

 パパとママはコーヒー。レンとリンは牛乳。


 リチャードはレンの部屋で一緒に寝た。お客用の布団を一式運び込んだ。

「……ベッドじゃない……」

 リチャードは呆然とつぶやいた。やはり西洋風の人。床で寝るという発想はないらしい。

「安心しろ。踏みはしないから」

 たぶん、そういうことじゃない。

「おれの部屋なんだからな。リチャードは居候だ。ベッドは譲らん!」

 リチャードは不承不承布団に入った。土足ではないし、素足で歩いているからギリセーフといったところだろうか。


 その割に、朝起きてきたリチャードは案外すっきりとしていた。

 またレンのTシャツとハーフパンツを借りて着ている。日中用のカーゴタイプのパンツだ。パジャマとは違う。

「よく寝てたぜ。疲れたんだろうな」

 レンが言った。

「はい、思いのほかよく眠れました。ぼく、布団は硬いほうが好きです」

 あまり褒められた気はしない。お客用の、あまり使っていない軟らかい布団のはずなんだが。


「そう、よかったわ」

 ママは今日も上機嫌だ。

 牧野林家は住宅街のど真ん中にあるから、夜は静かだ。車の通りも少ない。

 ずっと遠くの方から、バイクの爆音が聞こえるけれど、安眠が妨害されるほどじゃない。それから風向きによって、電車の音が聞こえることがある。リンは深夜の静寂の中、かすかに届くその音が好きだ。銀河鉄道みたいで、ちょっと遠い気持ちになる。

 家族も寝静まり(ほんとうに寝ているかどうかは定かじゃないが)たった一人の時間、というのも特別だ。




「リチャードは嫌いなものある? アレルギーとか」

 ママが聞いた。

「あれるぎー」

「食べたら具合が悪くなるものよ」

「……ピーナッツを食べると、頭痛がして体がかゆくなります」

「あらそう、じゃあピーナッツは抜きね。まあ、ごはんに使うことはないから安心して。お菓子は気を付けてね」


「食べなくていいのですか」

「食べちゃダメよ」

「そうなのですか」

「アレルギーだからね」

「あれるぎー」

「下手したら死んじゃうから」

「え!?」


「体に合わない食べ物ってあるのよ。リチャードみたいに頭痛を起こしたり蕁麻疹が出たりね。ひどいと呼吸困難を起こして死んじゃうのよ。だから、絶対に食べちゃダメ」

「そ、そうだったんだ」

「アレルギーって知らなかった?」

「はい、はじめて聞きました。我慢して食べていました」

「わー、そうだったんだ。これからは食べちゃダメよ」

「はい、教えてくださりありがとうございます」


 リチャードはピーナッツアレルギーだった。


 それでー、とママが冷蔵庫を開けて見せる。

「お昼ごはんはリンが帰ってきたら用意するからね」

 冷凍チャーハンだが。あと、朝とおんなじサラダ。

「牛乳やジュースは好きに飲んでいいわよ。あとアイスもあるし、プリンもあるから。あとこっちにポテチやクッキー」

 食料のありかをリチャードに教えている。


「それから、ピンポンが鳴っても出ないでね」

「ぴんぽん」

 あー、といってレンが玄関に走っていって、外からチャイムを鳴らした。

 ピンポーン。

 リチャードがびくっとした。

「これね。ヤバいヤツも来るからね。出なくていいから」

「わかりました」


「クマよけスプレーは玄関に置いてあるから」

 レンが持ってきた。防犯用に買ったヤツだ。

「クマよけ?」

 リチャードが赤いスプレー缶をしげしげと見ている。

「ヤバいヤツが無理やり入ってきたら、これをシューッとするんだ」

「しゅー?」

「あれ? スプレー知らん?」

 リチャードはこっくりとうなずいた。

「そっかー、知らんかー」

 レンはそう言って、洗面所から制汗スプレーを持ってきた。

「これとおんなじだよ。ほら、シュー」

「わあ」

 リチャードがいちいちびっくりする。

「やってみ」

 渡されると素直に受け取るリチャード。おそるおそるボタンを押した。

 シュー。

「はあ、いい匂いがする」

 シトラスだね。レンがにやりとした。

「ちょっと腕上げてみ」

 レンのまねをして素直に腕を上げたリチャードの腋にシュー。

「ひゃあっ! つ、冷たい!」


「気持ちいいだろう? クマよけは使っちゃダメだぞ。のたうち回って苦しむからな。なにしろクマを撃退するヤツだからな」

「これはクマに使うもの?」

「うん。あと敵にも使う」

「敵。魔物?」

「いいや、一番怖いのは人間だ」

「……そうなのか」

「ヤバい人間が来たら、これを吹き付けろ。そうやって倒すんだ」

「うん! わかった!」


 ほんとかな。ちょっと不安だなと、リンは思った。


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