第4話
これは、一匹狼の令嬢の話である。
王立学院の平等制度は弱体化し、
生徒が等しく勉める学び舎も、ついに弱肉強食の時代に突入した。
その危機的な教育現場の暴発に現れたのが、
愚と賢の令嬢
すなわち、一匹狼の女学生である。
例えばこの女。
群れを嫌い、権威を嫌い、束縛を嫌い。
魔道具士のライセンスと、上級魔法のスキルだけが、彼女の武器だ。
魔道具士ゾーイ・アーリントン、
またの名を「善と悪の魔女」
★☆★
世間はゾーイが思ったよりも広いのだと痛感する。
ゾーイはこの国の最年少魔道具士であり、地元じゃ負け知らず。そうだろ?
そもそも魔道具士は希少価値が高く、ライセンスを受ければ一生金に困ることはない、とさえ言われている。
だが、その希少ゆえに、貴族のお坊ちゃま・お嬢さまでは耳慣れない存在なのかもしれない。
ーー世間から「善と悪の魔女」とあだ名されたのかと思ったけれど…。
学生にはほぼ認知されていない事実を知り、ゾーイは喜んでいいのか悲しむべきなのか、判断に困った。
ーーまさか、「怪しげな道具を使ってリリアンや男子生徒を暴行した」と糾弾されようとは。
☆★☆
時を戻そう。
ゾーイはここ3か月、兄とじいやの説教のお陰でかなりまともに登校していた。寄り道することもなく、サボることもなく。せっせと商売のネタ探しをしていた。
リリアンへの嫌がらせが無くなることはなかったが、『探知機』で少なくとも失せ物は全て取り返していたようだ。
ゾーイはリリアンと仲が良いわけではない。リリアンを「商売のタネ」と見て、時々ストーキングすることはあったが、話すわけでもなく、連れションするわけでもなく、二人がつるむことはなかった。
そんなわけで、Sクラスでゾーイとリリアンは完全に孤立し、クラスメイトを苛々させていた。ゾーイが目に見えて虐められなかったのは、単に彼女に隙が無いからだった。クラスメイトから受ける仕打ちなど、ゾーイにしてみれば虐めにすら認識されない。
彼女は幼少期に義母と義姉から散々虐待された。それに比べれば、級友の嫌みや無視など猫の肉球で軽くパンチされた程度だ。ーーあれ?ドM?
なんにせよ、ゾーイは『甘やかされて育ったお坊ちゃま・お嬢さま』など歯牙にもかけない。ーーその態度が、相手をさらに激昂させるのだけれど。
だから、暇と金を持て余している貴族の令息・令嬢は、ある日突然恐ろしい行動に出るのだった。
★☆★
逢魔が時に、ゾーイは教室でリリアンと二人日誌を書いていた。
西日がまぶしい。ゾーイはカーテンを閉めた。
リリアンは美しい字で日誌を書く。それを見てゾーイは『誰でも美しい文字を書けるようになるペン』の発明を考え始めた。リリアンの文字をトレースすれば、その文字を書けるペンとか。その場合、魔道具に込める魔法の属性は…?
「アーリントン様?」
「え?ああ、すみません。リリアン嬢の字がとても美しいので、つい見蕩れてしまいました」
ふふ、ありがとうございます、とリリアンは柔らかく微笑む。ーー彼女は虐めを受けていても、こんなにも美しい。
ーーああ。だから余計に…。
女の嫉妬というやつだ。美しいというのも気の毒だな、と自分を棚に上げてゾーイは思った。
教室内を掃除して日誌を書き上げたので、そろそろ帰ろうか、とゾーイが声をかけたとき、突然バタン!と扉が開く音がした。
ーーこれは…。
ゾーイは咄嗟に魔道具を取り出し、机に固定させる。
教室に入ってきたのは、6人の男性。下卑た笑いで二人に近付いた。
「お、すげー美女!」
「結構スタイルもいいぜ」
「ヤル気出る~!」
そのヤル気はいらん。ゾーイは呆れ顔で男たちを眺める。
「なにかご用ですか?」
「おお。お前たち二人を犯せ、とご所望でな」
「どうせなら、お互い気持ち良くなろうぜ」
「お断りいたします」
ゾーイは触れようとしてきた男をかわし、逃げる。チラッとリリアンを見ると、身体は大きく震えていたが、目は死んでない。逃げるか、反撃するか、考えを巡らせているようだ。
ーー賢明ね。
ゾーイは「いやっ!」とか「やめて!」とか言って相手を刺激しながら、魔道具に上手く映るように逃げまくる。ーーまあ、狭い教室内だから、すぐに取っ捕まったけれど。
「へへ、大人しくしなっ!」
「いやぁっ!」
先に掴まったリリアンが泣き叫ぶ。全くアホな男というものは、力づくで何とかしようとするんだから!とゾーイは強く非難するが、自分もあえなく掴まって身体をまさぐられ始めてしまった。
ーー頃合いかな。
ゾーイは胸のブローチに触れて叫ぶ。
「助けて!じいやっ!」
その刹那、ドォン!と轟音が響いた。ドアを派手にぶち壊し、赤い彗星の登場である。
「悪い子は居ねがー?」
「ここです!悪い子はここにいます!」
呆然とする男6人を指差して、ゾーイは指摘する。あっという間に赤い彗星からのお仕置きが始まった。ついでに背後関係も白状させて、とお願いする。
ゾーイは乱れた服を整えてリリアンの側に行くと、リリアンは白い胸を剥き出しにして気絶していた。
ーーあらら。少し遅かったかしら。
リリアンの青白い顔色と涙のあとを見て、ゾーイは握り拳を作る。
暴力と暴行は、ゾーイが最も嫌う所業だ。これは、実行犯と計画犯双方に、キツいお灸を据える必要がある。
ゾーイは眠るリリアンの頭をそっと撫で、服装を整えさせてじいやを待つ。
待つこと30分。鼻水と尿で服を濡らした男たちを縛り上げて、じいやはゾーイに報告した。
「この暴行は、ソーントン公爵令嬢とシモンズ侯爵令嬢の仕業です」
「シモンズ侯爵令嬢は、リリアン虐めの急先鋒ね。ソーントン公爵令嬢は…なぜかしら?」
「身分卑しきジジイには、全く分かりませんわい」
「身分高い人間がこのザマでは、世も末ね」
肩をすくめてゾーイは言った。ひどいしかめっ面だとじいやは苦笑する。それからじいやはリリアンをそっと抱き上げて労るように運び始めた。
「では、お嬢様は正義の味方ですな」
「そうよ。愛ある限り闘いましょう、命燃え尽きるまで」
「…それは、正体がバレたらカエルになってしまいますぞ」
「あら、面白いわね。それを魔道具に出来ないかしら?」
先頭を歩きながら、ゾーイは楽しそうに話す。世界は不思議に満ちあふれている。彼女はそれを片っ端から魔道具にしてみたいのだ。ーー彼女の作る魔道具の半分は、需要がほとんどないものだけれど。
リリアンを救出して意気揚々と引き上げる二人の姿を、遠くから見ていた人間がいたことには、残念ながらゾーイもじいやも気が付かなかった。
翌日、リリアンは体調不良で学院を欠席した。ゾーイは元気に登校したが、教室に入るとクラスメイトがざわついた。神経が太いゾーイは、気にせず席につく。
「突然だが、これから全校集会が開かれます。生徒の皆さんはホールに移動してください」
教師の呼びかけで、生徒はガタガタと席を立ち大ホールに向かう。この時点でゾーイは感づいた。ーーこれは、昨日の事件のことだな、と。
ゾーイは教師に呼ばれ、教師に連れ立ってホールに向かう。目的地に到着すると、やや乱暴に教師に押されて壇上に上がった。
ステージには、ふんぞり返る令嬢が二人と兄がいた。それと、昨日の暴行犯6人。ーー役者は揃った。
まるで演劇のヒロインのように、大きなジェスチャーとともにソーントン公爵令嬢が言い放つ。
「ゾーイ・アーリントン。私たちは貴女を断罪します。罪状はーーリリアン嬢を暴行、あるいは暴行示唆、並びに男子生徒への暴力ですわ」
おったまげー!
寝耳に水たぁこのことだ!
あーパロディネタが古い。




