勇者ブチギレ
「参った。」
リュートがそう言うと、茶髪ポニーテールの少女が爽やかな笑顔を浮かべた。
負けた後なのになぜか見ていて嫌な気分にならない、そんな笑顔だ。
「やっぱり【マスターエナジー】無しだとこちらに分があるわね。」
レイはそんなことを言う。
「そうだよな、剣術スキルが高いってわけでもないし、ステータスでは勇者に勝てないもんな。」
おそらくユキヒロも武闘大会に出てくる。同じSランク冒険者のユキヒロ相手では、何とか対策を練らなければすぐに負けてしまうだろう。
「それにあのバカ兄、リュートが出るって聞いたときからなぜか妙に気合いが入っていたわよ。」
それを聞いたリュートは少し嫌な予感がしていた。
「おい、リュート!」
午後の授業が終わりニーネの特訓のためにダンジョンに向かおうとしていたリュートは呼び止められる。
振り返るとそこにはプリン頭の勇者がいた。
「ユキヒロさん、こんにちは。」
リュートは挨拶を返す。
「聞いたぜ、魔闘と武闘に出るんだって?」
「はい!ついでに技闘も出ます。」
「3つもってすごいな、1つ提案があるんだが。」
ユキヒロはニヤリと笑う。
「何ですか?」
「俺が武闘と魔闘を優勝したらレイを俺のパーティーに返してくれないか?優勝できなかったら一生パーティーを組んでいい。」
もともとレイがリュート達のパーティーに入ったのは、学園にいるユキヒロ達とパーティーを組むのでは、日程が合わなかったからであった。
レイが学園に入って特別科になった今、その問題もない。
「レイの気持ちは?」
(その条件は色々おかしいだろ!)と思いながらリュートは大事なことを尋ねる。
「そりゃ喜んで『お兄ちゃん大好き!』って抱きついてくるに決まってるだろ!無条件でこっちに戻さずにやってる俺の優しさに感謝しろよ。」
『お前の頭の中でレイは一体どうなってんだ?』と心の中でツッコミながらリュートは答えた。
「いいですよ、ただし俺が優勝したら...」
そこでリュートは言葉を溜める。
「ライリがそっちのパーティーに入るとかか?いいぞ」
リュートは、そんなことを言うユキヒロを少し挑発するつもりで次の言葉を放った。
「俺がレイと付き合ったり結婚しても口出さないでくださいね。」
「なんだとゴラアアア?」
ユキヒロの怒りの声が校舎に響き渡った。何事かと周囲に生徒が集まってくる。
(やべ、怒らせすぎたな。)
そう思ったが後の祭りだ。リュートは胸ぐらを掴まれた。
「あんた達何やってんの?」
そのとき、ユキヒロの後ろからレイの声がした。
「はっ!わが愛する妹よ!今お前のために悪しき敵を成敗しているところぐはっ」
「落ち着けバカ兄」
いつものごとくボディーブローが決まる。
レイはこれまでの成り行きをリュートから聞く。
もちろん挑発のために先ほどの発言をしたことも話したのだが、レイはニヤリといたずらっぽい笑顔を浮かべてこう言った。
「私のために勝ってね。リュート様。」
「なっ…お前えええええ!妹に何をしたああああああ!」
何もしてないし、レイの発言はもちろん冗談だったのだが、ユキヒロを怒らせるには十分すぎるものだった。
この日から三大大会が開かれる日まで、ユキヒロは血の滲むような特訓をした。




