70話 俺、模擬線に挑みます。
「ふっ……せいっ……!」
一日鍛錬をサボれば、それを取り戻すのに一週間は掛かる。
『継続は力なり』とよく言うが、まさにその通りだ。
ホテルに泊まろうとそれは同じ。
ここでも鍛錬をサボる訳にはいかない。
今日はVIPが宿泊するからか庭の使用は禁止されているらしく、それならばと学園長に頼んで、ホテル内の運動場を借りて鍛錬中だ。
ある程度広けた場所でなければ、この木刀を振り回すのは危ない。
咲特製のこの木刀は、重さが限りなく現物の刀に近い。
こんなものが壁に当たろうものなら、壁が凹む可能性があるからな。
普通の木刀でもそうだが、この木刀を使う時は特に気を付けなければならない。
「あと、100! ……ん?」
そうして素振りを続けていると、運動場に一つの気配が入って来た。
(敵意は無い、か)
その上こちらに近付いてくる様子もないし、俺はこのまま鍛錬を続けさせてもらおう。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「ふぅ……」
素振りを終え、先の気配に振り向くと──
「お疲れ様です、夜様♪」
そこにいたのはミーシャさんだった。
「マイル様から、夜様がここで鍛錬していると聞いたのです。それでちょっと気になって遊びに」
「なるほど」
別に見られて困るものでもないし、何の問題もない。
成り行きでそのまま話していると──
「夜様、良ければ私と模擬戦をしてみませんか?」
ミーシャさん側からこんな提案が。
「この前の戦いを見ていて、少し気になった事があるのです」
「気になった事?」
「確証は無いですが、その癖を直せば夜様はもっと強くなれるかと……」
元々強い人と戦う機会は欲しかったし、俺としては願ってもない提案だ。
「それに、私も少し試したい事が出来ましたので、夜様にはその実験台になって貰おうかと♪」
「あ、あはは……」
よく分からないが、この人の言動には時々寒気を感じる。
まあでも──
「当然、受けさせてもらいます」
「助かります♪」
強い人と戦える機会はそう多くない。
色々と吸収させてもらおう。
俺達は戦闘準備につく。
「いつでも大丈夫です」
そう声をかけると──
「一つだけ、宣言させてもらいます」
「何ですか?」
「私はこの試合中、一度しか魔法を使いません。勿論それには強化魔法も含めます」
「…………何が狙いですか?」
エルフは魔族程ではないものの、かなり魔力に秀でた種族。
そんなエルフのミーシャさんが、この戦闘では魔法を一度しか使わないらしい。
「二回以上魔法を使った場合は、その時点で私の反則負け、夜様の勝ちとしましょう」
「……分かりました」
確実に、ミーシャさんは何かをしてくる。
意味もなく自分に不利な条件を出すような人じゃない。
(逆にそう思わせる作戦か……?)
だが思わせた所で、どうにもならない。
とにかく今は──
「色々と、学ばせてもらいます!」
この人を倒す事だけを考えよう。
「【感覚拡張】」
ミーシャさんの魔法は一度切り。
その一度切りのチャンスを使うとしたら、やはりトドメの攻撃魔法が定石だろう。
それさえ躱してしまえば、ミーシャさんに遠距離攻撃の手段は残されていない。
ミーシャさんは近接戦闘も強いから何とも言えないが、こちらが有利になるのは間違いないはずだ。
(何にせよ、俺に遠距離攻撃の手段は無い。まずは距離を詰めなければ……)
そう考え、ミーシャさんに向かって駆け出したその瞬間──
「がふっ……!?」
俺の身体が、とてつもない勢いで壁に叩きつけられた。
「何、だ……今の……!」
「咲様の義手の機能の一つ、【空気砲】です♪ 空気の圧を相手にぶつけて吹き飛ばす『範囲型』と、空気を一点に集中して射出、あらゆる物質を貫通する『一点突破型』の二種類から選べます♪ 流石に後者は危険過ぎるので使えませんが、前者なら模擬戦でも大丈夫ですね♪」
「くっ……だが、これで魔法は──」
「まだ使えますよ。これはあくまで義手の機能の一つ。周りの空気を取り込んでぶつけただけですから♪」
……なるほどな。
今のは魔法にばかり目が行き過ぎて、こういう新技の警戒を怠った俺が悪い。
あの戦いから、咲の義手というあからさまな変化があったのだから、警戒は出来たはずだ。
咲がただの義手を作るとは思えないしな。
たがまあ──
「まだ、大丈夫だ」
不意は突かれたが、身体に問題は無い。
今度はこちらの番だ。
70話!
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