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49話 私、ラウラ様の中にある見えない壁を、今でも切に感じます。


 一瞬で100メートルもの間合いを詰める【災禍の竜】(アスタロト)ですが、南の竜界へと消えた私達を追ってはきませんでした。

 アウラ様が命懸けで足止めしていたのでしょう。


 


 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜




 私達は無事に南の竜界へと移動する事ができました。

 ですが──


「何でミーシャを置いて行った……!」

「…………」


 リオン様は私を責めます。

 ですがリオン様は、アルマ様が私達を逃がす為に、自分の死を覚悟して【災禍の竜】(アスタロト)に立ち向かった事を分かっていたんでしょう。


「……っ! くそが……!」


 振り上げた拳が私に届く事はありませんでした。


「あぇぅ……ぐす……」


 ラウラ様もリオン様と同じく聡明な方です。


 反応は違えど、現実をわかっている二人に、子供だからと幻想を抱くような言葉は言いません。

 私は二人の親ではありません。

 二人を慰めるような事を言っても、抱いてあやしても、それは逆効果にしかなりませんから。

 



 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜




 それから一月が経ちました。

 どういう訳か、アルマ様があの場に残った日以降、北の竜界に【災禍の竜】(アスタロト)が現れていないという情報が私達の耳に入りました。

 それを聞いて──


「お母様、【災禍の竜】を倒したのかもです!」

「ええ……!」


 私達は希望を感じました。

 ──ですが、それも一時のもの。


「嘘……嘘なのです……!」

「この傷は……!?」

「……アルマ、様?」


 私達が一時的に借りていた家に、アルマ様の遺体が届いたのです。

 私達と同じく、北の竜界から南の竜界へと渡った人が偶然見つけて下さったようで、アルマ様の遺体は雪に埋もれていたそうです。

 そして、アルマ様の遺体は──


「首から、上が……無いのです…………」


 まるでハサミで切り取られたかのように、首から上が無かったのです。

 あの赤い輪による斬撃では、こうはならないでしょう。


 ですか、死んでしまった原因などどうでもいい。

 自分の母親のそんな姿を見せられて、幼い子供がまともでいられるはずがありません。


「あぁ……あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


 ラウラ様が無意識下で建てていた壁──自分の精神状態を守る壁が、この瞬間に壊れましたのでしょう。

 

「私は……私は……!」


 私は自分の中で迷っていました。

 ラウラ様を抱き寄せても良いものか、私にはわかりませんでした。

 ですが──


「大丈夫だラウラ、俺がついてる」

「お兄、様……? お兄様はどこにも行かないのです……?」

「…………ああ。俺はずっと、お前の側にいる」

「お兄様、どこにも行かないで……」

「ああ」


 それからラウラ様が眠るまで、リオン様はラウラ様を抱きしめ続けました。

 私なんかより、よっぽどリオン様は大人でした。




 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜




 本当に、リオン様は大人でした。

 私の範疇を遥かに上回る程に。

 いえ、これは大人と言えるのでしょうか?

 もう、私にも何も分かりません。


『アルマを殺した奴を殺しに行く』


 そう書き置きを残して、一人で何処かに行ってしまったのです。


「……これをラウラ様に見せたら、今度こそ壊れてしまう」


 その書き置きを隠そうと、後ろに振り向いた時でした。


「…………!?」


 そこには初めて出会った時の輝きを失い、()()()()()()ラウラ様の姿がありました。


「見て、しまったのですね」

「お兄様、いなくなっちゃったのです。ラウラの家族、みんな死んじゃっうのです。あはは、あはは、あはは」


 まるで幽霊。

 ラウラ様に対し恐怖という感情を抱く程に、その姿は空虚でした。


「あははははははははははははははははハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ」


 立ち尽くしたまま、笑って涙を流し続けるラウラ様。


「私は……どうすれば良いのですか……!」

 

 ──そんな時、私は思い出しました。


 『子供達は任せたわ』、というアルマ様の言葉を。


「……せめて、ラウラ様だけでも……!」


 私があまりに不甲斐ないせいで、リオン様は何処かに行ってしまった。

 その償いの意味も込めて、私はラウラ様を育て上げる事を決意したのです。




 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜




 それから数年後。

 戦争は終わり、ラウラ様の精神状態も安定してきました。

 ですが──


「ラウラの家族なのです? 血はつながってないですが、ミーシャ殿が私にとっての家族なのです!」

「そう、ですか……」


 精神が安定した代償なのか、ラウラ様は家族との思い出を、自分の奥深くへしまい込んでしまったのです。

 家族を連想させるものでも無い限り、彼女はその記憶に蓋をし続けるでしょうね。


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