16話 俺、雲の上で狐の巫女と出会いました。
それから数カ月が経ち──
「お、大きいね……」
空中都市へ向かうために、俺達は巨大なゲートの前に立っていた。
終戦後、他種族の協力の元、魔法と科学を合わせた技術──通称『魔術』が全世界で発展した。
ゲートはその最たる例であり、空間を繋げる事が出来る便利な魔術だ。
ゲートの設置には馬鹿にならない費用がかかるが、それを加味して余りある便利さがある。
ただそれに伴い旅客機が衰退し、開発されて僅か2年余りで旅客機を空で見かける事は殆どなくなり、空港──エアターミナルはゲートターミナルへと名を変え、主にゲートの管理や運用をする施設へと変わっていった。
ゲートで国を越えるのにしても手続きが必要だし、そういった国渡りに関する設備一式が揃っていた空港は、ゲートターミナルを1から作るより効率が良かったんだとか。
そして、俺達はゲートへと足を踏み入れた。
その先にある、あの学園に向かう為に。
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ゲートをくぐり抜けて入国手続きを済ませたら、そのまま屋内へ出る。
「す、すごい……!」
「これは……すごいな!」
ゲートターミナルから空中都市本島へと渡る連絡橋。
そこから見える光景に、俺達は思わず声を上げてしまう。
橋の下には雲が幾つも浮かんでおり、雲上にいるという事実に興奮を隠せない。
ここに来る前に調べたんだが、雲が下にある為、空中都市には雨が降らないそうだ。
水資源が心配だったが、人と同じ様に資源もゲートで運ぶ事ができるから問題無いらしい。
それでも、気圧とかの環境に問題が出るだろう。
……と思ったんだが、【巫女】と呼ばれる人達が【神域】という魔法を使用する事で暮らしやすい環境を維持しているらしい。
次は上を見上げてみる。
鮮やかな蒼空と、その蒼空で一際白く輝く太陽が美しい。
いつもより太陽が大きく見えている気がするのは気のせいでは無いだろう。
天候に左右されない──つまり、学園に合格すれば、毎日この景色が見れるという事だ。
合格したい理由が増えたな。
空中都市は全体が柔らかな白を基調とした地面で覆われており、その白が太陽の光を反射していて光っている。
これもまた、すごく綺麗だ。
そして最後に、蒼空を背景に建つ空中都市の象徴WGA。
端から見てもその存在は際立っている。
さて、入学試験はWGAで行うらしい。
時間に余裕はあるが、何分空中都市の地理には疎い俺達だ。
観光は後にして、まずはWGAに向かおう。
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道中を歩く事約数分。
WGAへと繋がるメインストリートを避け、裏道を通ってWGAに向かう俺達だが、慣れない土地で裏道を通ったせいで道に迷った。
本当、何をやっているんだ俺達は……
ちなみにメインストリートを避けた理由は単純で、普通に混んでいて、咲とはぐれる可能性があったからだ。
幸いにもWGAは何処からでも見えるから、俺達が近づいてはいる事が分かる。
試験までの時間に余裕があるし、それでゆっくり向かえば問題ないのだが──
「なんで人間がこんな所にいるんだよ!」
「魔法も使えない雑魚が、大人しく人間界に帰りやがれ!」
何故か、さっきから裏道は治安が悪いらしい。
普段は人間だからって、わざわざ声を荒げて煽ってくる奴は少ないんだがな……これならメインストリートを通って来たほうが早かったかもしれない。
各界上層部で平和条約が締結し、その象徴として空中都市が建てられた訳だが、それはあくまでも見せかけの平和。
個人の鬱憤が解消された訳じゃない。
特に人間の評価は最悪だ。
戦争の原因を作ったのは人間、そして戦争の被害が一番少なかったのも人間。
力も持たないし、不満をぶつける矛先は当然人間に向くだろう。
まあでも、ここまで来てWGAの入学試験をサボるわけにもいかない。
直接攻撃されない限りは何かをする気も無いし、そんな事をする奴も少ない。
──少ないだけで、居ないわけではないが。
「死ねっっっ!」
魔族の男が刃物で咲に斬り掛かる。
すぐさまそれに気付いた咲は、左脚を軸に回し蹴りを繰り出す。
その蹴りが咲の腹に入ろうかという瞬間──
「ストップ、ストーップ!」
どこからか聞こえた声に反応して、蹴りを止める咲。
だが、チンピラの斬り込みは止まらない。
このままでは咲に危険が及ぶ。
「きゃっ!?」
咲とチンピラの間に身体を差し込み、迫る刃物を手首をひねって奪い取る。
が──
「ストップです!」
刃物を奪い取ろうと伸ばした俺の手は、小さな白い手に受け止められていた。
俺に迫っていた刃物も同様に受け止められていてる。
「いきなり斬り掛かるとかダメですよ?」
そう言って、俺達を止めた主は魔族から刃物を取り上げる。
「巫女!? いや、その、す、すみませんでしたぁ!」
「まったくもう……」
逃げ出すチンピラ。
人間界で後ろから斬り掛かれば殺人未遂で捕まるが、他種族界の法律では、実害が出なければ捕まらない。
治安が人間界より悪いからな。
それくらいの事で捕まえてたらきりが無いんだろう。
それよりも──
「ありがとう、助かった」
「私がいなくても大丈夫そうでしたけど、私が止めたほうが遺恨が残らずに済みそうでしたからね。それにしても、お兄さん人間ですか? 珍しいですね! お名前伺っても?」
止めてくれた少女にお礼を言う。
「あぁ、俺は天霧夜だ。こっちは従妹の咲」
咲と俺の関係は従兄妹ということにしている。
天霧に分家は無いのだが、その辺りの血縁関係も公表してないから問題無いだろう。
天霧に隠し子がいると知れた時の方が面倒だからな。
「よろしくお願いします、夜さん、咲さん! 私は皇月夜、巫女を務める狐の獣人です。月夜とお呼び下さい」
「分かった、月夜って呼ばせてもらう」
美しい所作で礼をする月夜。
見た所、俺と同い年位か?
この空中都市の要である巫女を務めているらしい彼女には、人間への敵愾心は無さそうだ。
巫女について気になっていた事も出来たし、試験までの時間もある。
少し話してみようか。
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