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10話 俺、最弱種族だけど鍛錬しまくったからそれなりに戦え……




 そうしてジルと相対している訳だが、その圧倒的な存在を前にして、圧力で心臓が破裂しそうだ。


「魔界侵攻部隊長さんがこんな所に何の用ですか? 色々と警備施設壊して貰いましたけど、しっかりと弁償してくれるんですよね?」


 俺に余裕があるようにみせるハッタリだが──


「ああ勿論だ。お前が人間界にとってまずい事さえしてなけりゃあしっかりと弁償してやるさ。もっとも、俺を見て迷わず引き返し、対敵用の警備施設を作動させ、そして今、お前の腰に刀を携えている時点でその可能性は低そうだがな」


 俺がシャル──魔族とのコンタクトがある事を、ジルは確信しているように思える。

 これは駄目だ、説得でどうにか出来る段階じゃない。


「ただでさえでかいこの家を捜索するのに邪魔されちゃ面倒だ。悪いがお前さんには眠っててもらうぜ」

「それは困ります。プライベートを覗かれるのは好ましくないですからね」


 

 ジルと相対するとなった時、俺は二つのパターンを想定していた。


 一つは説得を試み、あわよくば時間を稼ぐ作戦。

 これはジルが俺達の事を然程把握していない時に使える策だ。

 だがジルがここに訪れた際に、こちらに対して明確な敵意を持っている事が分かった。

 それに加え先程の発言。

 どうした所で、ジルを考えさせる事すら出来ないだろう。


 一つ目の策が完全ならば、危険な二つ目の策を実行する他に無い。


 ──ジルに刃を向け、完全に敵対する道。

 霊装神殿の時は刀が無くて戦えなかっただけで、刀があれば俺も少しは戦える。


 鞘に手を当て、ジルへ駆ける。


 この鞘に収まるは、名刀【天之叢雲(あまのむらくも)

 天霧に伝わる名刀で、その切れ味は剣型霊装に引けを取らない。

 霊装の普及化で名刀の価値は鑑賞用に落ちてしまったが、【天之叢雲】は今尚、他の霊装に対抗できる稀有(けう)な刀だ。


 ジルは数多の実戦を潜り抜けてきた歴戦の戦士。

 搦手を使った所で簡単にいなされてしまうだろうし、全力でぶつかった方がまだ勝機があると、そう俺は推測する。

 

 ──負けてこの家を探索されても大丈夫なようにしてあるしな。


 もちろん勝てればそれに越したことは無いが、相手はそんなに甘い相手じゃない。

 相対して改めて分かる。

 勝てる見込みは──0%だ。


 ──だが、一糸報いる位なら0じゃない。


「俺とまともに立ち会って、立っていられる奴はなかなかいないんだがな。その気概、流石は天霧の長男だ。だが……」


 そこで背中に手を伸ばし、斧を掴むジル。

 そのジルは目前にあり、もうすぐ俺の射程圏内に入ろうかという距離だ。


 そこで、俺は必殺技を使う。

 俺の目が充血していき、世界が遅くなる。

 

 ──天霧流戦闘術【集眼(ゾーンアイ)


 人間は自ずと集中力を分散して生きている。

 それは周囲の危険を感じ取り、即座に行動する為の生存本能だ。


集眼(ゾーンアイ)】は生存本能──周囲への注意力、聴覚や味覚といった感覚を一時的に遮断し、視覚から得られる情報処理能力を爆発的に強化する技だ。

 集中力を五感の一つである視覚に集める事で、視覚内での情報処理能力は通常時の十倍を超える。

 視覚外からの攻撃に全く対処出来なくなるという凄まじいデメリットはあるが、視界に捉えてさえいれば、【集眼(ゾーンアイ)】状態の俺は無類の強さを発揮できる。


 集中力、視界をジルへの一点に絞り込む。

 視線、構え、筋肉の動き、ジルを攻撃へと転じさせる要素を視覚内で全て計算し、ジルの攻撃を俺の未来と結合。


 そこから予測されるジルの攻撃地点は──地面。


 一点に集中力を集めたせいで時の流れを遅く錯覚している俺は、その真意を深く探る。


 ジルの霊装が雷を纏うものだというのは事前の情報として知っている。

 その情報を加味した上なら、地上に電気を流し、俺の動きを封じる位の事は想定出来る。

 このまま地を走り、ジルに突撃するのは危険だ。


 ──なら!


 斧が地面に接触する直前、俺は地面スレスレを跳躍する。

 足と地面との間は10cmも無い。

 この方法なら勢いを殺さず、かつ予期せぬ攻撃を避けられる確率が一番高い。


 更にこの距離なら、鞘から抜いていなかった【天之叢雲】の抜刀タイミングとしても最適だ。


 ──だが


『読みは悪くねぇな』

 そう、ジルの口は動いていた。


 斧が地面に触れたその瞬間 


 ──何も起こらなかった。


 何もない、ならジルの狙いは何だ?

 斧の叩きつけられた地面を確認する。

 何も起こらない、再び正面を向──


「な!?」


 ジルが、いなくなっている。

 彼の得物である斧が、地面に刺さっているだけだ。


 跳躍と抜刀の勢いを止めきれない俺は、地面に突き刺さった斧の柄を、身体を捻って回避する。


 霊装は絶対に壊れないという性質を持つ。

 ここで柄に切りかかって【天之叢雲】の刃を傷付けるよりは回避した方が良い。


 そう判断しての行動だったが、一連の行動全てがジルに読まれてる事を、背中に加えられた凄まじい衝撃で察した。


「ぐっ!?」

「いい気迫だったが……まだまだだな」


 俺の意識はそこで途絶えた。




 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜




AnotherView:Gille Blood




「ヒヤヒヤさせてくれる、才能と努力はオルフィリア並だな」


 天霧の長男が地を見た瞬間、俺は斧の先端を軸にし、強引に空中へと躍り出た。

 そのまま体勢が崩れた所へと落下。

 首の辺りを強引に殴りつけて気絶させた。

 要は死角に移動して殴って気絶させただけだな。


 だが今の切り込み、あれはなかなか出来るもんじゃない。

 ある程度空いていた距離を詰めると同時に、意識──いや、多分視覚だけを強化したんだろう、目が一瞬で充血しやがったからな。

 その強化した視覚を俺へと集中させ【雷斧アルゴノート(こいつ)】の攻撃地点やら攻撃方法を予想してやがった。


 まあ、天霧の長男がここまで予想していた……っつうのも俺の予想だ。

 もしかしたら間違ってるかもしれん、ぶっちゃけ勘だしな。

 だが戦場ではこの勘が意外と馬鹿にできないからな、難しいもんだ。


 俺の勝因は、天霧の長男の戦闘経験が少なかった事だ。

 たった一回の切り込みだが、俺から言わせてみれば大きく二つはミスがある。


 まず第一に視線。

 狙った対象から視線を外して良い訳がない。

 俺が言うのも何だが、歴戦の猛者を相手にしたらそんなスキを見逃すはずがない。


 そして、第二に殺意の使い方がまだまだ未熟だ。

 10歳にここまで求めるのは酷な話だがな。

 駆け出しから切り込みまでの一連の流れに、まるで殺意を感じなかった。

 どんな勝負だろうが、殺意を持った相手と相対するならば、それ相応の殺意が無いと気圧される。

 その殺意が無いにしては天霧の長男はまるで気圧されて無かったが、それは持ち前の胆力が強靭なだけだ。

 殺意を持った相手と相対した時はピリピリした空気が流れるもんだが、その特有の空気は感じなかった。


 つっても、こんな事は実戦を重ねる毎に勝手に覚える事。

 ここまでの戦いができるのなら上出来だ。

 だが、俺には一つ気になる事がある。

 

 ──霊装を使わなかったのは何故だ?


 一時間前の報告で、霊装神殿が魔族に襲撃されたという報告を受けている。

 最奥に取り残された天霧の長男が、魔族──シャル・アストリアを背中に抱えて、神殿から出てきた事も。

 事情があるにしろ、その場で霊装を作って、それも強大な力を秘めた霊装を作らなければ、そんな状況を打開する事はできない筈だ。

 俺が舐められてた可能性は、俺から逃げた時のあの切羽詰まった表情から説明できない。

 違和感が拭えない、が──


「曰く付きの霊装、凄まじい戦闘の才能の持ち主、それが魔族の味方となりゃあ、尚の事ほっとく訳にはいかねぇよな」


 俺が来たのはそれを確かめる一点だ。


「じゃ、探索再開しますかね」


 



 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜





 なんつー家だ、部屋多すぎるだろ。

 ったく、一々各部屋に()()()を仕掛けるのも面倒くさいぜ。


 にしても、まるで形跡が無いな。

 それこそ、生活感すら微塵も感じられない。

 まるで始めから、何も存在していなかったの様な部屋ばかりだ。


 ま、とりあえず。

 一応全部の部屋に仕掛け終わったし、帰るとしますかね。


 ちなみに天霧夜を連れて行く気は無い。

 今の所物的証拠も無いし、なんの証拠も無く天霧を捕まえたとなると、色々と面倒が生じる。

 それに仕掛けた盗聴器が何かを拾う可能性がある。

 とっとと退散するとしよう。


「…………?」


 今何か視線を感じた気がしたが、気のせいか?

 視線を感じた方向を見てみるが──


「何もなさそうだな」


 今日はアイシャの三周忌。

 アイシャの為にも、俺が家に居てやりたい。

最後まで読んでくれてありがとう。

所でブックマークを忘れてないか? 鍛錬に磨きがかかるから、よければしてくれると助かる。(夜)

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