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3.

 ずっと朝日がそこにあるまま、ずっと朝のまま、夜を迎えた。

 表現としてはおかしいが、そうとしか言えない。

 進む道としては取り敢えず、多少遠回りになろうとも電車の路線伝いに進む事にしていた。コンビニとかにも寄りやすいだろうし。怪我をしたりしても、救急車も呼べないし、助けも来ないのだ。風邪を引いたとしても、自分一人で何とかするしかない。

 そして、死ぬ時も一人だろう。……。

 もし、実家にも誰も居なかったら、それまで結局誰にも遭えなかったら、僕はどうするのだろう? どう思うのだろう?

 死ぬのだろうか。自殺するのだろうか。そこで諦めるのだろうか。

 自殺は、簡単に出来る。拳銃も手に入れようと思えば、多分、手に入れられる。飛び降りるより、溺れるより、睡眠薬を飲むより、密室で練炭を炊くより、とても簡単に自殺出来るその道具を、今は簡単に手に入れられると思う。

 まあ、それは置いておこう。

 自殺するかしないかと言われたら、多分するだろう。でも、それは今じゃない。


 コンビニで好き勝手に飯を漁って食う。惣菜やら、アツアツのままの揚げ物やら。レンチンは出来ないから、弁当系は食べなかった。現金にしたら、1000円以上は普通に掛かる程度に。ゴミも、散らかしっぱなし。宙に浮かせておいて、僕がここに居た、という事のアピールにもする。

 贅沢にミネラルウォーターで体も洗った。蛇口からはやっぱり水は出ない。

 汗も拭って、下着も換えて、腹も満たされて。歯磨きもした。寝床はどうするか、と少し考えた。

 得体の知れなくなった世界で、見知らぬ建物には入りたくない、と思った。ビジネスホテルでも、高級なホテルにでも、ルームキーを手に入れて入り込んで、ふかふかのベッドで寝れるとも思ったけど、それよりも、そんなホテルというでかい建物の奥深くに一人で入り込んで寝るというのは嫌な事だった。

 幽霊とかそういう怖さに似ているけど、ちょっと違う、そしてとても重い怖さ。

 得体の知れない場所だからこそ、開けた場所に居たかった。でも、寝るとしたら、このずっと続いている朝日の中では寝たくもないとも思った。

「我儘だな……」

 自分でもそう思った。まあ、それを言ったら最初っから器物損壊とか不法侵入とかばっかりしてる訳だけども。

 今、突然に世界が元に戻ったら、ブタ箱行きか。

 でも、ブタ箱行きでも、戻りたい、な。


 結局、コンビニの中の、休憩所というのか待機室というのか、そこに入って寝る事にした。外も近い。それに民家とかに入るよりは、見知っているこのチェーンのコンビニの方が落ち着く。

 そこにダンボールを敷いて寝る事にした。扉を僅かに開けて、薄らと光が入る程度にして。

 毎日大した運動をしていない自分が昼からずっと自転車をこいでいたから、疲れていて、早めの時間でも眠れそうだった。寝ていなくても、特にする事も無かったというのもあったけれど。

 この一人だけの世界で何かを読むのはストレスにしかならなそうだった。マンガは読めるかもしれないけれど、今日は止めておいた。

 ミネラルウォーターを側に置いて、横になる。リュックを枕にして、ダンボールとかを布団代わりにして。

 スマホは相変わらず圏外で、20時頃だった。次いでに走った距離はどの位だろうとスマホの機能で調べてみたけれど、やっぱり自転車だったからか地図の距離とは随分と差があった。

 スマホを消して、目を閉じた。明日、軽く走れば地方の都市に着く。誰か、居ると良いなとも思いながら、やっぱり誰かと会うのは少し怖かったりする。

 ここにはもう、法も無い。悪意があれば、何でもかんでも好き勝手出来る訳だ。人相手でも。

 それは、とても怖い事だ。でも、誰かと喋りたい欲求もとても強い。

 人と喋りたい、コミュニケーションしたいというのは、社会的生物だからだろう。だからこそ、人はこうして地球で今、一番繁栄している生物にもなって、そして、僕はこうして寂しい思いをしている。とても寂しい思いをしている。寂しい思いをしているのに、誰かと会うのが怖い。

 おかしい生物だ。

 そして、何となく呟いた。

「ここは、ゲームじゃない」

 決まった目的も無い。スタートは唐突に設定されて、ゴールはどこにも無い。

 そんなゲーム……あった。

 ふざけるな、と思った。くそったれ。

 ああ、帰りたい。

「帰りたい」

 込み上げてくる思いがあった。胸が重くなった。重くなっていって、重くなっていった。

 息が荒くなった。

 呟いてはいけないと思ったけれど、もう一度「帰りたい」と呟いた。

「帰りたい、帰りたい」

「早く。でも、いや、帰りたい。帰りたい」

「帰りたい。前に進まなきゃ。でも、休まなきゃ。嫌だ。帰りたい」

「僕は、帰りたい。元の世界に。元の世界が駄目なら、実家に。実家が駄目なら、僕は。僕は」

「僕は、どうして」

 

 気付けば、朝だった。

 喉が渇けば水を飲んで、ずっと呟いて。

 気絶するように眠るとは、こういう事なんだろうと思った。

 足は筋肉痛だった。でも、帰りたい。今日、ゆっくり休みたくまではない。

 水を飲んで、朝飯、適当に食って、準備をして、コンビニから出る。

 全く同じ朝日。全く同じ雲の形。風も無く、気温も変わらない。涼しい、とんでもなく快適な気温と湿度で、とんでもなく気持ち悪い。

「……行くか。行かなければ。僕は……帰りたい」

 筋肉痛の残る足をペダルに乗せて、サドルに尻を乗せて。自転車をこぎ始める。

 筋肉痛が心地良いなんて事今はありゃしない。

 でも、進まなければいけない。行かなければいけない。僕の、希望の為に。目的の為に。

 目の前には、段々と建物が増えて来る。

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