第12話 誰かの1番になりたい
(里奈視点)
私は、最初から悪い女だったのかもしれない。
でも。
最初に好きになったのは、私だった。
彼がまだ結婚する前。
仕事帰りの居酒屋で、弱音を吐いた夜。
「子ども、難しいかもって言われた」
そのときの顔。
悔しさと、情けなさと、怖さが混ざった目。
私は思った。
この人を支えられるのは、私だって。
彼は結婚した。
それでも連絡は途切れなかった。
相談も、愚痴も、全部私に来た。
奥さんより、私のほうが近いって思ってた。
“不妊”。
その言葉は、私にとって希望だった。
奥さんとは子どもができない。
なら、私が最後の可能性になれるかもしれない。
最低だよね。
でも、そのときは本気だった。
妊娠検査薬を買った。
当然、陰性。
それでも。
「できたかもしれない」
そう送ったとき、彼は動揺してた。
でも、少しだけ嬉しそうにも見えた。
私は止まれなかった。
嘘を重ねれば、現実になる気がした。
その直後、奥さんの妊娠。
頭が真っ白になった。
不妊じゃなかったの?
私は何を信じてたの?
さすがに無理だった。
これ以上嘘を重ねたら自分が惨めになる。
だから。
「流産した」
泣きながら送った。
本当に泣いてた。
嘘なのに。
だってその瞬間、全部終わったって分かったから。
私は、ただの“相談相手”だった。
唯一になれると思ったのに。
DNAの結果を見たとき。
99.99%。
完璧な数字。
私は、何者でもなくなった。
彼は父親になる。
奥さんは母親になる。
私は?
嘘をついた女。
帰り道、冬の風が冷たい。
本当は。
結婚したかった。
子どもが欲しかった。
誰かの一番になりたかった。
それだけ。
でも。
欲しいからって、奪っていいわけじゃない。
私は、自分で自分を追い詰めただけ。
スマホを開く。
彼の連絡先を消す。
これで、本当に終わり。
涙は止まらない。
選ばれなかっただけ。
でも、それを受け入れる勇気がなかった。
次に好きになる人には、ちゃんと正直でいよう。
たぶん、まだ無理だけど。
それでも。
私は、やり直したい。
(続く)




