第10話 封筒
ポストの音がしたのは、午後三時だった。
白い封筒。
差出人は検査機関。
思ったより、薄い。
こんな紙切れ一枚で、誰かの人生が変わるなんて。
私はリビングのテーブルに封筒を置いた。
まだ開けない。
夕方、夫が帰ってくるまで。
ドアの開く音。
「……届いたのか」
声が低い。
私は黙って封筒を差し出す。
夫は受け取るが、すぐには開けない。
指が震えている。
「怖いかもね」
私は静かに言う。
「俺は……」
言葉が途切れる。
数秒。
紙の破れる音。
夫の視線が文章を追う。
一行目。
二行目。
そして、止まる。
「……99.99%」
掠れた声。
私は何も言わない。
「父子関係を強く肯定する」
紙が、かすかに揺れる。
夫が顔を上げる。
そこにあるのは、安堵と、そして――
崩壊。
「俺の、子だ……」
ソファに座り込む。
両手で顔を覆う。
「……俺は」
震えた声。
「何を疑ってたんだ」
私は、静かに息を吐く。
「あなたは疑ってないよ」
彼は顔を上げる。
「疑わされたの」
里奈の名前は出さない。
でも空気がそれを指す。
「病院、行ったんだよね?」
夫は頷く。
「記録、なかった」
小さな声。
「その日、予約も、受診も……」
沈黙。
「流産も、妊娠も」
夫の拳が震える。
「全部、嘘だった」
その瞬間。
玄関のチャイムが鳴る。
夫と目が合う。
インターホン越しに映ったのは、
泣き腫らした顔の里奈。
「……話したいの」
夫の指が、応答ボタンの上で止まる。
テーブルの上には、DNA鑑定書。
揺るがない数字。
嘘と、真実。
ドアの向こうで、親友が待っている。
(続く)




