7 救援部隊
あれからどのくらいの時間が経ったのだろう。
長い時間が経ったような気もするしほんの数十分のような気もする。
ひたすら泣き続けて、もう戻らない仲間の死を嘆いているだけだった。
涙は枯れて心には喪失感だけが漂う。
だが、いつまでもこうしているわけにはいかない。
仲間の体をこんな場所に放置しておくのはあまりにも忍びない。
「しっかり弔ってあげなきゃ...」
冒険者が死は珍しいことではない。
どれだけ名を馳せた冒険者も次にその名を聞いたときには死んでいたなんてこともある。
迷宮で死ねば仲間の遺体は残っておらず、仮に郊外でも巨大な魔物に襲われて体ごと食べられるなんてことも珍しくはない。
こうして三人の遺体が残っているのも奇跡に近いのだ。
ちゃんとお別れを済ませないと...
「その人があなたの仲間?」
ラナレイの声がした
「いつからいたの...」
「今来た。やっぱり街にいる人の気配はもうなかった。結構探してみたけどやっぱり誰もいなかった」
ラナレイは淡々と語る。
きっとそうなのかもしれない。
私がガイスを探しているときも誰かの助ける声は聞こえなかった。
道に倒れているのは既に命を失った身体だけ。
本当に、この都市には生きている人はいないのかもしれない。
「竜はまだいるの?」
ついさっき私が襲われた赤竜は全く気配を感じなかったので聞いてみる
「それもいない。
あんなに大きい生き物ならすぐに見つかる。
でもさっきの赤いのは突然気配が現れた。もしかしたらまだいるかも」
...恐ろしいことを言う。
あんなものがまだいたとして、今の私にはどうしようもない。
どうしようかと悩んでいると...
ギィーン!!ギィーン!!
外から大きな音が聞こえてきた。
この音はたしか..
「この音は?」
「これは救援の鐘の音。たぶんここが襲われたときに城主かギルドの偉い人が近くの都市に魔力鳩を飛ばしたんだよ。
だから近くの都市から救援部隊が来て、それを知らせる合図みたいなもの」
「魔力鳩?」
「知らない?魔力鳩は連絡のとりたい場所や人同士の魔力をあらかじめ特殊な鳩に覚えさせて、その鳩に連絡したい内容を書いた手紙とかを持たせて運んでもらう手段のことだよ。
魔力鳩は通常の鳥類生物よりも速く移動ができて
特殊な環境で人工的に生み出すことができる便利な生物なの。
数年前に王都にいる魔法使い達が開発したって聞いた。今では王国内の全ての都市や街が魔力鳩を持ってるはず」
ともかく救援が来たのなら私も動ける。
都市の現状を伝えに行かないと。
「ひとまず救援に来た人達と合流しよう。そうしないとしっかり仲間を弔えない」
「そう。なら私はしばらく外にあった森にいるね。なんだか大変そうだから私のことは言わなくていいよ。あ、話があるから終わったら森に来てね」
「え?ちょっと待っ...」
一方的にそう告げて行ってしまった。
彼女にも話を聞きたいことがあったので連れて行きたかったのだが私だけで行こう。
「ごめんね皆。もう少しだけ待ってて」
そう告げて救援部隊の方へ向かう。
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「あの旗は...やっぱり、レスランからか」
ハルファスに一番近い都市だ。当然救援部隊もレスランから来るか。
救援部隊は既に生存している人達の捜索や救護を行っている。
しかし都市にはもう生きている人達は...
「あったぞ!報告にあった地下への入り口だが見たかった!すぐに避難民を助けるぞ!
第一部隊と治療魔法が使える冒険者の一部は救助活動に!それ以外は引き続き俺と共に辺りの警戒と捜索にあたってくれ!」
地下?もしかして都市の地下施設があったのか?
それに生きている人達がいたのか。ラナレイは気配はしないと言っていたが隠蔽魔法でもかけられていたのか。
「そこの君!君は救援部隊にはいなかったな。服装から見てこの都市にいた冒険者か?無事だったか!?」
救援部隊で指揮をとっていた人物がこちらに気づいて声をかけてきた。
「は、はい!私はこの都市にいた冒険者です。レスランからの救援部隊ですか?」
「ああ、俺の名はグラウス・フィンベル。王都アスランの聖騎士だ。別の任務でレスランにいたのだが、今は救援部隊の指揮官としての命を預かっている。
ハルファス城主からの伝令で救援にきた。君は無事らしいが他の生存者は見つかったか?」
(グラウス・ファンベル?たしかアスラン王国騎士の頂点とされる[守護聖騎士]の中のひとり〈雷聖〉のグラウス。この人が...)
守護聖騎士は冒険者の個人ランクでA、若しくはそれ以上も噂されている存在であると聞いたことがある。
そんな人物の登場で驚いて言葉を失う
いや、驚いている場合ではない。今は現状の報告をしなくては
「いえ、生存者のいる気配はありませんでした。それよりこの都市に地下があったんですか?」
「ああ。城主と一部の人間だけがハルファスの地下避難施設を知っていてな。民達の一時的な避難先としているという報告を受けている。
救援の知らせと同時に都市にある地下への入り口を書いた地図を我々が受け取った。
今は都市内の地上の生存者と地下へと避難している人々の捜索・救援にあたっている。
それより竜はまだいるのか?我々が来た時には既に竜らしき生物は見当たらなかった。
一体だけ死体となった黒い竜を発見したがあれは君が?」
「はい、私が倒しました。都市に残っていた私の仲間が既に大きなダメージを与えていたのでなんとか。
他の竜はおそらく都市にはいません。
けど、一体だけ巨大な黒竜が北の方へ飛んでいくのは見ました。急いで北の都市への連絡をした方がいいです」
「何!?わかった。至急北の都市方面に、いや王都にも連絡をしておこう。情報感謝する。
戦闘後で大変かもしれないが、君も救護活動に協力してほしい。人では多いに越したことはないからな」
「わかりました。なら私は都市の中の生存者の救助と探索に協力します。仲間の遺体もまだ都市の中にあるので」
「...そうか。では君は都市にいる生存者の救助の捜索を頼む。仲間の件もあるだろうから単独での行動で構わない。他の部隊には俺から伝えておこう」
「ありがとうございます」
私の仲間の遺体を優先したい気持ちを汲んでくれたのだろう。その気持ちをありがたく受け取っておく。
「そうだ、遅くなってしまったが君の名前を教えてほしい」
「エリナリーゼ・ミットナードです」
「聞いたことがない冒険..いや待て、
エリナリーゼ・ミットナード...何処かで...!
[最高の魔力の持ち主か!そうか、君が...」
どうやら彼は私のことを知っていたらしい。
王都の聖騎士に名前を覚えられる程にに私の魔力は珍しいものなのか?
「おっと、申し訳ない。今は救援任務に当たらなければな。都市のことについて詳しく話を聞きたいのでまた後で。それでは」
そう言って連絡用の煙玉をいくつか渡して部隊の方へ戻って行った。
守護聖騎士ほどの人物が私の名を知っていたのは驚いたが、今は私も仲間の埋葬を先に済ませたい。
そうして、私も三人の遺体を回収するため動き出した。




