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去就

評価していただいた方、ブックマークしていただいた方、ありがとうございます。とても嬉しいです。

 話を振られた衛は一瞬考えた。杜は衛たちの仲間ではない、と言ったがそれは嘘だ。ここを知っている時点で同じ組織に属していることは確かだし、だから衛としては杜の手助けを期待した。しかし、基本的にはそれぞれが請け負った任務を銘々が果たすもので、仲間と言えども手助けを義務付けられてはいない。衛自身も逆の立場なら、ある程度面識のある仲間ならともかく、初対面の杜や張を助けるかどうか怪しい。杜は自分よりも年長者だから、組織内でも衛たちより立場としては上の可能性がある。助力を強制するわけにもいかない。杜が一人で行くというなら、止めることはできなかった。

 杜はそれ以上何も言わず、毛長牛を繋いでいる家へ向かった。さっきべらべらと喋っていたのに、話が決まった途端に一言も言わないとは、現金なものだ。

 杜が家の中に入って行き視界から消えると、碧天が「衛さんはどうしますか」と、壁にもたれかかって気を失っている石虎を見た。

 杜のように一人でここから出て行けと?杜の言うように本当に碧天が手練れならば、ろくな戦闘経験がない衛には勝ち目がないだろう。だが、さすがに気を失っている石虎を置いていけない。「どうしますかって、俺の希望を聞いてくれるんですか」「内容によっては」「石虎に何をしたんですか」碧天は肩を竦めた。「怪我をしてないか、見てもいいですか」「怪我はさせましたよ」碧天の返答に、思わず「あなたは医者でしょう」と言ってしまった。

 「私は医者ではありません。治療するときにそういうこともありますが、それは治療を受ける人を安心させるためです」衛は少し躊躇ったが、石虎に近づき、屈みこんで様子を見た。「右の手首を傷つけました。少なくともしばらく武器は握れません」利き手の機能を失えば、武器だけでなく他の仕事や生活の動作も難しくなるだろう。火薬を投げたのも碧天に違いない、と衛は思った。

 家畜小屋の扉が開き、杜が毛長牛を一頭、引いて出てきた。杜はその背に跨り、毛長牛はおとなしく歩き出す。杜はさらに毛長牛の胴を軽く蹴ると、毛長牛は走り出した。その後ろ姿を見送って「毛長牛って走れたんですね。初めて見ました」と碧天が言った。「確かにあんまり走らないです。でも敵に襲われたときには走りますよ。山犬とか、数頭に襲われると」「敵…」と呟くと、碧天はふふふと笑い出した。

 「笑いごとですか」衛はちょっと呆れたが、思い返してみると、あれほど無口だった杜が、急に饒舌になり、話が決まった途端に牛を引き出して、脇目も振らずに去ってしまったことを考えると「そんなに逃げ出したかったのか」と思わず零れた。「一目散、という感じでしたね」と碧天が明らかににやにやしている。「怖かったんですよ、きっと。あなたが手練れだと言っていたから」

 碧天がきょとんとした表情で衛を見る。「手練れ?私が?」「そうです、あなたがその剣を投げていたのを見て、有名な流派のやり方だと」

納得したというように碧天が頷く。「買い被りですよ。王都の子供はね、特に騎士やら近衛兵なんかに憧れるような子供は必ず真似するんです。そこらの木切れを拾っては投げて受ける仕草をね。あれくらい、誰だってできますよ」

 何をのんびり喋っているのだろう、と衛は思った。石虎の怪我を手当てしなければ。張の火傷も。石虎の右手首を触ろうとして、碧天が止めた。「触ると痛むと思います。添え木を作ってください」その言葉に従うべきか迷ったが、自分の知識でも添え木は必要だと判断できたので、適当なものを探しに家畜小屋へ行くことにする。

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