表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
69/236

杜の交渉

 衛は呆然とそれを見ていた。

 そもそも怒った石虎が、碧天たちに詰め寄るのではないかと案じていたのだ。普段は気やすい振る舞いを見せているくせに、今までそういうことは時々あって、その度に石虎を取り押さえたり宥めるのは衛の役目だった。今回もまた、と思ったのだが予想が裏切られたために、衛の動きは止まってしまった。 

 立ち上がった碧天は別人のように見える。衛のところからは顔が背けられていて、表情はわからない。ついさっき言葉を交わした時と、女らしい服装も同じ、髪形も同じだが、雰囲気がまるで違う。体つきも、なんだか大きいような気がする。

 碧天は、地面に落ちた内刃の剣を左手で拾い、二三度振り下ろした後、腕を上に戻すときに柄から手を離した。剣は中空でくるりと回り、左手で再び柄が握られた。

 「やばい」衛の傍で杜の低い声がした。振り向くと杜は目を細めて、じっと碧天を睨んでいる。「あれは誰なんだ」

 言われた意味が分からず「誰って、商人だそうですが」思い浮かんだ答えをそのまま繰り返すと、杜は声を潜めたまま言った。「あの仕草だ」顎で示されるが、それが左手で剣を投げる一連の動作を指していることはわかるが、なぜやばい、という言葉になるのかがわからない。

 「近衛で採用されている剣術の流派は知っているか?あれは、その流派で、初歩の演武のさわりにやる動作だ。ああやって剣の使い勝手を確認していくんだ」「そうなんですか。近衛の演武なら、王都では有名なことなんでしょうね。王都から来たらしいので、知っているんでしょう」「あの流派は、必ず左手から始めるんだ。あいつは、左利きか?」

 「わかりません」頭を振った後、昨日碧天が右手で(ハク)の傷を縫ったことを思い出す。

 杜は独り言のように呟いた。「両手で同じように武器を扱って戦えるようにするんだそうだ」言い終えると、衛の反応を待たず、碧天のほうへ数歩進んで両手を肩の高さに挙げた。

 いつの間にかこちらに向き直った碧天が、左肘を脇にひきつけ、剣を握った掌を斜め上に向けた。

 「あんたの邪魔はしない。見逃してくれ」と、杜は言った。

 「仲間を見捨てるんですか」碧天は落ち着いた声で言い、右手で後ろの石虎と杜の後ろを指さした。

 「仲間じゃない」杜は両手を挙げたままだ。「ここで初めて会った連中だ。ここが避難所だと指示してきた仲介屋が一緒だっただけだろ。あんたらの事情も知らないし、こいつらの事情も知らなけりゃ、関わる筋合いもねえよ。俺の荷と毛長牛さえあればいい」

 「仲間を呼ばれると困るんですよね」碧天は軽く首を傾げて微笑んだ。途端に女性に見えてきて、衛は拳を握り締めた。

 「仲間なんかいねえよ。いたら一人でここに来ねえ」「ここで合流するのでは?」「だったら、ここで黙って待つだろ。一度ここから出る意味がない」「油断を誘うためとか」「あんた、全然油断してないだろ。そんな予想されてる時点で油断は誘えん」

 碧天の目が笑いを含んだまま、衛に向けられた。「衛さんは?それでいいんですか?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ