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廃村

 霊山はその威容をもって聖地と称される。

 偉華国は特に国教を定めていない。基本的には多神教の様々な神に敬意を表するが、王家は自分たちの権威を神によって授けられたものとはしていなかった。西側の異国からは唯一神という考え方が入ってきたりもしている。それもあまたいる神々の一つとして祀られている。

 その状況で、多くの神や宗派が霊山には神威を認め、聖地と認定している。神殿を築いたところもある。巡礼地として信者に訪れることを勧めるところもある。

 様々な宗教活動が辺境を目指した。神官が弟子を連れて辺境へ向かい、それに従って技術者や物資が運搬された。神殿を建ててもそれを支えるには多くの人間が必要だ。修行や祈りを優先する宗教家をもともとの辺境の住民たちが支持しなければ、宗教活動は成立しない。

 霊山の神威を自らの派閥に取り込もうと人材と物資が注ぎ込まれた時期があったという。競うように宗教施設が建設され、その活動に伴う利権を狙った商人や役人がやってきた。その人と物資の流れに街道が整備され、宿場町ができた。

 だが、それは一時のことだった。辺境の自然は容易くその資源を人間には渡さない。都会から利益を求めて現われるような人間の手に負えるようなものではなかったのだ。

 まず冬の厳しさが人間を叩きのめした。備蓄が足りずに凍死する者が出た。冬が去ると、次の冬を越す自信のない者が次々と辺境から出ていった。裕福でない者が逃げ出す中、裕福な者は金にものを言わせて代わりの人間と物資を手に入れたが、次の冬を越すと代わりの人間も逃げ出した。貧しく辺境の知識がない者には、辺境の冬はまさに生死をかけるものだった。

 結局多くの移住者が去った。あとには建造物だけが残った。

 恐らくはそういう来歴の廃墟なのだろう。

 さすがの石虎も、夏の高く澄んだ天とそそり立つ霊山を背景に、その廃村が現れたときには息をのんだ。石で築かれた灰色の家が規則正しく並び、その奥に霊山の形を模したような一際大きな建物が控えている。

 碧天たちは石虎のようには驚かなかったようだ。

 重く垂れ込めた雪雲と、降りしきる雪が、廃村と同化したような色合いだったためか、小さく疼く傷口のためか、ようやく覚めてきた薬のせいか。ここまで望まぬ同行を強いられた疲労のためもあるだろう。

 家はすべて同じ形式で建てられており、奥の建物へと続く通りの中央に、一つだけ井戸があった。縦井戸の小さなもので、夏の間集落では井戸端は人が集まることが多いのだが、取水のためだけに作られたらしい。家の形が同じなのも、自然に形作られた集落ではなく、一つの団体が目的をもって作り出した村のようだ。

 毛長牛から降りた衛は、一番近い家の戸を開けた。中に牛を引き入れ、続いて石虎が降り、「降りろ」と命じた。(ハク)は自分で降りることができた。地面に足がついた途端、うまく力が入れられず、体が傾いだ。小刻みに体が震え、暑さと寒さが体の中をぐるぐる回っていた。

 「大丈夫か」石虎が腕を取って(ハク)の体を支えた。酪を入れた茶に似た『匂い』が(ハク)に向かって流れてくるが、どういう感情があるのかなどもう考えたくなかった。

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