思惑
衛がお茶を器に注ぎ、まず石虎に手渡した。そのおかげで碧天の発言の余韻は少し和らいだかのように思えた。
衛は続いて碧天に茶碗を差し出した。白の前に碧天が陣取っているので、そうするのが自然だったのだろう。碧天はお茶を受け取り、衛に笑いかけた。碗に向かって息をそっと吹きかけ、一口啜る。
「…熱いですね、火傷なさいませんように」と呟き、碧天はその器を白の手に載せた。「もう一杯、いただけますか」と言って、衛に手を伸ばす。
白は手の中のお茶を見つめた。立ち昇る湯気が鼻先を温める。表面に酪の油がゆるりと渦を巻く。碧天が確かに口を付けたな、と思いつつ、俄かに喉の渇きを覚え、恐る恐る口に含む。
確かに沸騰していたはずだが、衛から碧天へ、手渡された僅かの間に外気が冷ましたのか、少しだけ熱いくらいの適温だ。知らず知らずぐいぐいと飲んでしまったようで、気がつけば碗の中身は空だ。
「こちらをどうぞ」すかさず碧天が自分の茶碗を手渡してくる。既に少し飲んでしまったらしく、半分ほどの量だ。碧天の飲みさしでなく、もう一杯注いでもらえばいいだけなのに。碧天は白から取り上げた碗に、自分で茶を淹れた。
白の顔に血の気が戻ったのを見計らい、碧天は立ち上がって、蘇順の傍らへ行き、その顔色や鼻先、耳先、指先を確認した。王都で医術を学んだようだが、寒冷地での医者の振る舞いも少しは知っているらしい。
こいつは難しいことになった、石虎は内心で舌を打つ。
そもそもこんなはずじゃなかった。初雪が降ったし、蘇順はともかく白はまだ落ちていない。少し関心を持った程度で、それもまあ新鮮でよかったのだが、これで一気に警戒されただろう。うまく隠れ蓑にする案は潰れたな。ここから挽回するのも楽しそうだけれど、時間がかかるだろうし、まず蘇順が邪魔だ。
碧天はまさに予想外の獲物だ。
白を助けに来るとは、それほど付き合いがあったのか?
「お嬢さんと白は仲がいいんだな。わざわざ助けに来るなんて」「それほど親しくはありません」碧天はあっさりと頭を振る。「毛長牛が倒れているのを見たのです。ここまでの道中で、あの牛が白さんのものだと知っていました。白さんはあの牛をとても大切にしていましたし、あの牛は他の毛長牛とはちょっと見た目が違っていたので、覚えていたのです」「ありゃ、雑種なんだよ。少し毛が短くて、体高が少し高いだろう?」「そうですね。白さんが探してもいないので、手分けして探すことになったんです。私が白さんを見つけたのは、偶然です」
果たして偶然かどうか。何らかの六感を使ったとしても不思議ではない。碧天自身でなくても、団徳の誰かが捜索に向いた六感を持っていたかもしれない。石虎の知る限りそういう人物はいなかったはずだが、秘匿されることも多い情報だ。
「それでも探しに来たんだろう。親しくなくても来たなら、あんたは親切な人なんだな」「お褒めいただき、ありがとうございます」碧天はけろっとしたものだ。
石虎の『匂い』に違う系統のものが混ざり始めた。甘いのだが重い。ねっとりと濃い甘さ、くどいような過剰な甘さだ。
「あんたは親切な人なのに、報われないなあ。白は俺たちの手先だったんだから」




