2-2 落ちた先は……?
「なるほど。一筋縄ではいかないというわけか……」
人の気配がまったくない廃ビルの一室で、クリスは壁にもたれかかったまま呟いた。他に物音が一切ないせいで、自分の声が反射してよく響く。
ぎゅるるるる、という気の抜けるような腹の音も、静寂に包まれた空間では一層際立って聞こえた。
「…………」
改めて周りを見回して、クリスは自分のいる場所を確認する。
教室一つ分くらいの広さの空間、壁は若干朽ちて鉄骨が見えており、床には瓦礫が広がっている。ユリアに吹き飛ばされて割られてはずの窓ガラスは、結界が解除されたことで元に戻っている。
ぱっと見た感じだが、放置されて少し時間が経過しているようなので、この建物に関してはそう簡単に人の出入りはないだろう、と推察する。
しかし、どの世界でもこういう場所は柄の悪い連中が住処としている可能性もあるが、今のところその気配もなさそうだし、そちらも心配はいらないだろう。
それにそういうヤツらがやってきたとしても、そういう輩相手ならば、痛い目を合わせてやっても、クリスの心は傷まない。
そんなふうに現状を分析していると、もう一度腹が鳴った。
「そういえば、朝にこっちにやって来てからずっとヤツらを監視していたせいで、何も食ってなかったな。とにかく、寝床はここでいいにしろ、まずは食料を調達してこないとな……」
とはいえ、この格好で外に出るわけにはいかない。クリスは決してこの世界に詳しいわけではないが、武器の類を堂々と携帯していることが問題であることは理解している。
まずはレイピアを腕輪の状態に戻し、身につけている衣装も元の状態へと戻した。
すると、クリスの格好は、下半身が紺色のスラックスに、上半身が白いシャツにその上には薄手のコートというカジュアルな格好に変化した。
タキシードなんかと比べれば、よっぽどこの世界に馴染んだ服装といえるだろう。こちらがクリスの普段着であり、タキシードはデバイス起動時における衣装変化の結果である。ユリアたちでいうところのフリフリのドレスと同じ扱いというわけだ。
「さて、それじゃあ行くか」
部屋を出て、クリスは重い足取りで廊下を歩いて出口へと向かう。
(結局、あの変態クンは一度も手を出すことがなかったな。怪鳥との戦いを見る限り、まったくの素人みたいではあったが、あそこにいる以上は、魔法協会の人間なのだろう。油断するわけにはいかない)
建物の外に出ると、冷たい夜風がクリスの肌をなで付けた。
(とにかく、いくらあいつらが強かろうと、僕は負けるわけにはいかない。魔導を守ることが僕の使命なのだから)
拳を握りしめて、改めて気合いを入れ直したクリスは夜の街並みに消えていったのであった。




