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沙羅夢幻想 — 影と祈りの境界で —  作者: 梨藍
地上編 【閑話休題】
123/125

月と桜と太陽と:後編

一緒に花を眺めて


一緒に星を掴もうとして


一緒に笑って……


―― そうして、幾つもの季節を過ごして……


だけど、美しいと感じていた景色は、哀しい景色に変わってしまう


―― 私が、変えてしまった……


二人は、私を桜だと言った。


だけど、私にとってはユエが月で、由貴が太陽で……


光、そのもので……眩しくて……



※※※※※



ボクはただ、逢いたかったんだ。


ずっと見ていることしか出来なくて、とても歯痒かった。


由貴の家族が奪われる瞬間も、


力を封じられる瞬間も見ていた。


―― それでも……


由貴は笑っていた。


新しい“家族”に囲まれて。


時々、由貴のことを虐める様な嫌な人もいたけれど……


だけど、翠琉は違った。


どうして?


なんで??


翠琉は何もしていないのに……


その力が欲しいからと、首輪を付けて飼いならそうとする。


まるで、かつての〇〇のように。


自分たちより優れていると知っているから、

自分たちが優位だと思いたいから、

自分たちの劣等感を悪意に変えて……


絶対に、赦さないと思った。


でも、一番赦せないのは自分。


声を掛けたくても、

寄り添いたくても、


届かない。


絶対に叶えたい願いがあって、自ら望んだことだったけれど、それでも、悔しくて、歯痒くて……


だから、やっと由貴と翠琉が出逢ったとき、嬉しかった。


やっと、力になれる……やっと、ずっと伝えたかった言葉を伝えることが出来る。


―― そう、思っていたのに……


失念していたんだ。


ごめんね?

翠琉……ボクが、あなたにとって、一番の害悪だった。



※※※※※



「翠琉……判ってるよな?全部、翠琉の為だ……」


それは、あの、夏の日を境に毎夜繰り返される、儀式の様な行為。


一糸纏わぬ姿の翠琉の白い肌に、真耶つと指を這わせながら、そっと口付ける。


「白髪に、銀灰色の瞳……アレは、純闇属性のバケモノ……翠琉には毒でしかない」


そっと、耳元で囁かれる。


―― 違う……


と、心の中で悲鳴を上げる。


闇があるからこそ、光があるというのに……なぜ、その存在を否定するのか。


髪に、

額に、

まぶたに……


順に優しく撫でながら口付ける。

まるで、所有印を刻むように。


「あのまま、闇に触れていたら翠琉は死んでいたんだよ?」


それも、判っている。判っていたから、何も言い返せない。


ユエと由貴と共にある時間は、翠琉にとって唯一の光だった。

かけがえのない時間だった。


だけど、その想いに反するように、身体が衰弱していることにも気付いていた。


理由は判らなかった……否、判ろうとしなかった。


判りたくなかったのだ。


(いや……あの時間を失うくらいなら、もう、命も惜しくないと……思ってしまった……)


「判ってるよな?翠琉……翠琉が、バケモノではない、人でいられるのは……俺がいるから。翠琉は、俺のものだ……」


言いながら、そっと唇と唇が重なり合う。


―― ああ……


と、翠琉はストンと納得した。


(そうだ……私には、まだ……真耶がいる……)


真耶が、唯一の光なのだと。


淡く光る月の涙のように、流れ星が一筋落ちた。



※※※※※



ずっと、ずっと夢を見る。


広い広い草原

果のない澄んだ青い空


その向こうで微笑む人

懐かしいのに辛くて


名前を呼びたいのに

呼ぶべき名が判らない


そして

触れたくて手を伸ばしても


決して届くことはなかった


―― そして、場面が変わる……


いつもの、見慣れた神社の境内。


誰かが笑ってる。

誰かが泣いてる。


『約束だよ』


―― そう、約束した……


だから、行かないといけないのに。


どこに行けばいいのかわからなくて。


だから、きっと、あの日俺は誘われるように神社に向かった。


記憶の奥深く、俺ですら忘れてしまっている“約束”に導かれるように……



※※※※※



竜笛の音が、空に響く。


懐かしむように


惜しむように


遠くの空へ届くように ――……


だけど、そこには誰もいなくて


誰にも、届かなくて


懐かしい面影を捜しても、どこにもなくて


あれは夢だったのではないかと。


『来年も、再来年も、その次も、またその次の次の春も……ずっと、ずぅっと、一緒だよ』


春の香る風が、そんな声を運んできた気がして仰ぎ見れば、そこには月が浮かんでいるのだろうと、見えない両目で翠琉は仰ぎ見る。


結局、真耶の命も奪ってしまった。喪ってしまった自分は、バケモノそのものの様で。


4年前の夏の日から、翠琉は時折一人、訪れていた。

自らの手で終わらせてしまったというのに、どうしても捨てきれなくて。


だけど、どんなに捜しても見付かるはずがなくて。


(だから、もう終わりにしよう……)


―― 真耶の仇を取れば、この命は終わるのだから……


これはけじめのつもりだった。


……過去に別れを告げるために訪れた思い出の場所で、過去に決別するつもりだったのに。


現れた懐かしい気配を、侵食する闇の存在に気付いた瞬間……翠琉は、声を荒げていた。


「お前に用がある。出て来る気がないのならば、無理矢理にでも引きずり出してやる 」


目が見えない翠琉には、その気配で由貴がそこにいるのだということを判断しているだけで……


月の見守る夜空の下で、途切れたはずの運命が再度繋がった瞬間だった。


—―月と桜と太陽と<了>——


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