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水道水の備忘録。  作者: 水道水。
19/22

神経、こっちを向いて。

最近暗い話しかしてないですね。

でも、遺書は暗いものですよね。

二日前に理科の先生が、

「車酔いをするということは神経が鋭いということなので、誇っていいことなんですよ。」

と、授業中におっしゃられた。

自慢だが、道水氏は十三年の人生で一度も車酔いというのを経験した事が無い。

小学生の時の修学旅行で、隣の席の友達Mに

「私、車酔いが酷くて。高速道路に乗ったら腹痛も。」

というカミングアウトをされ、高速道路に乗っている最中に本当に腹痛と戦っている友達Mはみたことあるが、自分が酔う、という経験はしたことがない。

ついでにいうなら道水氏は、船にも飛行機にも乗ったことがあるが、もちろん酔わなかった。

そうかそうか神経が鈍いんだな私は、という今更が過ぎるような納得をした。

その数時間後、七時間目の代数にて、である。

道水氏は、最近家で一日二時間ほど、勉強の復習をするようになった。

そのため代数の成績が、『良くはないが、悪くはない』というレベルになった。

すこぶる悪い成績をおさめてのうのうとしていた去年よりは大きな進歩だと思っているし、この成績の上昇具合については先生にも褒められた。

そんな代数の授業、先生が応用問題として出題された問題を道水氏は、解けなかった。

問題は、応用問題として出題された問題を道水氏は解けなかった、という点ではない。

クラスメイトの五分の四が解けた応用問題を道水氏は解けなかった、という点にある。

つまり、道水氏は適応能力がすこぶる悪いのだろう。

神経の鈍さによって。

自覚はあるかないかで言えば、正直幼いころからあった。

道水氏は常に、喧嘩でヒートアップをして脳で考えるよりも先に手が動く、のような状態で生きているのだと思う。

神経の鈍さによって。

動作を自然と無意識の状態に行い、後から自覚症状が来る。

道水氏は当然、脳の信号が見えない。

そのことに気付いたのは小学三年生のときだったと思う。

それまで、『他人が自分の意見を尊重し意見してくれる』それが人間だと思っていた。

唐突に自分で信号が出せるんじゃないか、と思い、右手でグーとパーを繰り返せるのじゃないか、と思った。

道水氏は人間であるので当然動かせたが、その日初めて生きているんだ、と思った。

そんなレベルである。

昨日、班活動があった。

道水氏を含めて女子三人、男子二人の五人班である。

パワーポイントで資料作成中にふと、

「車酔いってしたことある?」

と、女子二人に聞いてしまった。

二人の返答によると、二人ともめちゃくちゃ酔うらしい。

「そっかそっか、私は酔ったことないんだ」

と、軽く返事をしながら、同い年の同じ性別の人間なのに、どうしてこんなに違うのだろう、と思わざるをえなかったが。

今日、体育祭の種目決めがあった。

去年は隣のクラスの友達がいたが、今は別のクラス。

つまり、道水氏は孤立状態である。

道水氏みたいなクラスの空気を下げるだけのブスがなにをすればいいのだろう、と思い、何にも立候補できずにいた。

当然学校行事ということもあり、クラス全員参加だった。

担任の代わりに代数の教師が、学級長が司会をして取り締まっている中、黙々と丸付けをしていた。

参加は絶対であるため、何にも手を上げずに動向を見守っていたら、女の学級委員長が道水氏の席に向かってきて、

「水さんはなにがいい?」

と聞いた。

正直、水道水という人間の存在がゴミなので、

「参加しないってことは出来ないの?」

と粘ったつもりではいたが、やっぱり強制参加だった。

普段なら学校では絶対に言わないような

「ほら私いても迷惑じゃん」等のネガティブ発言を繰り返してしまったが、強制的に一番人数採用が多いリレーに決まった。

学級委員長には多大なる迷惑をかけたと思う。

明日謝罪をするつもりである。

体育祭の役員決めの後は緊急事態宣言の影響だったので部活もなく、さっさと帰ろう、と思っていたら、サブバッグを忘れてしまった。

下駄箱でそのことに気付き、人混みをかき分け、教室につくと代数の先生がいた。

あいさつをして帰ろうと思っていたら、

「水さん、大丈夫だから」と何を言われたかは忘れたが、とにかく励まされた。

私の灰色の脳細胞は、誉め言葉ほどよく忘れる。

こういうときこそ、健常者であったら、と思ったことはない。

小学五年の時、色々とあって、リア充という言葉が似あうIちゃんと常に行動していた時期があった。

Iちゃんはポニーテールが似合う子で、字も綺麗でコミュ力があり、整理整頓がきちんとできる。

Iちゃんは、道水氏のなりたい人間像そのままであった。

Iちゃんのお母さんとお父さんが出会って結婚するというのは、幾億の確率で。

道水氏のお母さんとお父さんが出会って結婚するというのも、幾億の確率である。

その中から、卵と精子が結び付き、Iちゃんという人格が出来るのは数え切れないほどの確率で。

道水氏の両親に関しても同様である。

道水氏の両親は、道水氏という外れくじを引いてしまったのだと思う。

それでも、道水氏の両親は道水氏を育ててくれている。

そのことに常に罪悪感を覚える。

Iちゃんでなくてもいい。

ハイジみたいな、天衣無縫や純粋無垢といった言葉を体現したような人間でいい。

外れくじを引いて育ててくれている両親に好かれるような人間が、私の代わりに当たればよかった。

なぜ道水氏なのか分からない。

どこを見てもいいとこなしの人間である。

他人にもそう言われた。

道水氏でごめんなさい。

私でごめんなさい。

せめて顔じゃなくて絵画じゃなくて文じゃなくてなんでもいい、

神経、こっちを向いて欲しい。

道水氏の味方をしてほしい。

酔うとか酔わないとか分からないけど、こっちを向いてほしい。

死にたい。

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