軍のこと
今回はちょっと少なめです!!
新キャラも登場しますよー!!
エマニュエルさんに案内してもらって、僕たちは最高司令官のいる『司令室』の前へとたどり着く。
途中、血の気の多いフランス軍人に絡まれたり、ヴィクテージが連れ去られそうになったりと……色々と大変だったけど、エマニュエルさんが全部対処してくれたお陰で助かった。
「元帥、エマニュエルです。失礼してもよろしいでしょうか」
エマニュエルさんが張った声で扉に向かって声をかける。
数秒して、『構わないわ』と、優しそうな女の人の声が聞こえた。
……えっ女の人?
ヴィクテージと僕は顔を見合わせる。
基本、戦後の軍でも女の人はあまりいない。それなのに、こんなところで女の軍人と出会うことになろうとは。
エマニュエルさんが扉を開けて中に入る。僕たちもそれに続いて軽く挨拶もしながら中に入った。
中で待っていたのは案の定、女の人だった。黒髪のショートにグリーンの瞳を持つ人で、どこか日本人と同じ雰囲気を持っている人だった。
ショートにしているからなのか、同時に『男っぽい』とも感じる。
「あらぁエマ、そっちの青髪の人は日本人?」
「どうやらそのようです。力になれるかもしれないと言われたものですから、一回連れてこようと思いまして」
青髪……僕のことだろう。というか、ヴィクテージはエメラルドの髪色だし、エマニュエルさんは金髪だ。日本でもこんな髪色はしていないのに、誰が僕以外を指すのだろうと、逆に疑問を持ってしまった。
「ふぅん……青髪、名前は?」
「歌仙埜牙狼です」
「あ、私はヴィクテージです」
ついでにという感覚でヴィクテージも自己紹介をする。
コルはというと、大人しくぬいぐるみのふりをしていた。
「ふふ、ヴィクテージの抱いてる子も、お名前を聞かせてちょうだいな」
『えっ、なぜ私が言葉の通じる龍だとわかったのですか?』
「気よ、気。で、お名前は?」
『コルと申します……』
「可愛いお名前ね……オーケー、わかったわ」
キィ、と椅子を鳴らして、テーブルに肘を置いてその人は言う。
『Étienne』と。
「えっちょっと待ってくださいよ……その名前って……」
ヴィクテージがとっさに声を上げる。
僕が疑問に満ちていると、ヴィクテージは僕にわかりやすいように説明を施してくれた。
要約すると、『エティエンヌ』という名前は、基本男の人につけられる名前なんだそう。
そう言われれば、と僕も納得をする。
日本名で僕の名前が女の子に使われていたらそりゃあ驚くよなってお話。
「そ。私はお父さんの命名でね。この通り、男みたいな格好でしょ?」
「た、たしかに……」
「心はバリバリ女の子だから、そこんとこよろしくねぇ」
『うーん、こう言うこともあるのですね……』
話を戻そうと、エティエンヌさんは咳払いをし、「さて」と一言呟く。
「力になれるって言ってたけど……それは本当なのかい?」
「場合によっては力になれるかもしれません。僕は魔法って言う、ちょっと不思議なものが使えますし、ヴィクテージは……」
「なによ、私も戦えるわよ」
『私も、戦うだけの力は充分あります』
「ふぅん……なるほどねぇ」
エティエンヌさんはなにかを考えている様子だった。
その目はまるで『これからどこの戦場に連れて行こうかしら』などと言うような、似たような視線をメイルがしていたため、思い出して冷や汗が出た。
簡単に例えると『味方の戦力を考えないリーダーの目』。適当に生きているわけではなさそうだけど、それでもそう思えてしまうのだから、視線って怖いね。
「うーん……じゃああんたらうちの部下と戦ってみる?」
「はえ?」
唐突の発言により変な声が出てしまう。この人今なんて言った? 戦うって言ったよね、それってつまり……。
「……力試しのお手合わせ、ってことですか?」
ヴィクテージがそう声を張る。
「そう言うことー。役に立つかどうかは戦ってから決めるよ。とりあえず、今日はここに泊まったらどうだい?」
『いいんですか?』
「もちろんよー! せっかく来てくれたんだもの、それなりに配慮はするさ! ちょっと待っててね!」
そう言い、携帯らしきものを取り出して、エティエンヌさんは誰かに電話をかける。
「あっ親父ー?」
「!?」
「!?」
『!?』
三人同時に驚いて、三人同時に一歩引き下がる。
途端に変わった口調もそうなのだが、それよりも一番気になったのは……。
「お、お父さん? 今さ、お父さんって言ったわよね……?」
「いるのかよ……こえぇ、おっかねぇ……」
『ま、マジですか……』
僕らのその光景を見ていたエマニュエルさんが一言言う。
「……彼女の父、同じ軍の最高司令官なんだよ。だから、上に報告って言ったら必ずああなるんだ……」
ひたすらにすごい。エティエンヌさんもそうだけど、この光景をあたかも当たり前かのように見ているエマニュエルさんもすごい。
僕だったら絶対に抜けているよ、そんな軍。
「おう、分かった。はーい。……オーケーだって! エマ、来客用の部屋の空き一つあったでしょ、そこに案内してやって!!」
「分かりました。では、失礼します」
「失礼します……」
軽くお辞儀をして、ヴィクテージとコルに続いて部屋を出ようとした時。
「あ、埜牙狼」
不意に僕のみ呼ばれ、扉のノブからエティエンヌさんに視線を変える。
「夜八時、ここね」
そう言われ、少し考える。
……えっと、二十時に司令室に来いと、この人は言っているわけだな。
「……分かりました」
そう言い残し、司令室の扉は完全に閉じられた。
***
食事も終わり、午後の二十時。
部屋でまったりしていた僕は立ち上がり、部屋を出ようとする。
「どこ行くの?」
ヴィクテージに止められ、僕は「言えない」とだけ答える。
「なんで言えないの? 私たちパートナじゃない」
「逆に聞くけど、なんで僕の名前を言わないの?」
「……!! そ、それは……」
ヴィクテーは言葉を詰まらせる。
彼女は、僕を『あんた』と呼ぶ。
その理由がどうしても分からなくて、僕は少し強い口調で言い放った。
「あのなヴィクテージ。パートナーっていうのは信頼し合える存在だと僕は思ってるんだ。お互い信頼し合えてるなら、君は僕の名前を呼ぶんじゃないのか?」
「……」
「理由があるなら隠さず話してほしい。僕が出ている間に、理由をまとめてほしい。いいね?」
「だったら私もついて行く」
エティエンヌさんがそんなこと許してくれるだろうか。
ヴィクテージを見ると、目にほんの少し涙を浮かべながら僕を凝視している。
「……来るなら、来てもいいと思う。でも僕は知らないよ」
あの緑の瞳で、今まで何を見てきたのか……それは僕には分からない。
かと言って今の彼女に尋ねても、はぐらかされるだけで終わりだ。
その理由で彼女の傷を抉るようなら、このままなにも聞かない方がマシだ。
***
「おー、来たねー……ってありゃ? ヴィクちゃんとコルも来たのかい」
頭にコルを乗せてエティエンヌさんのところに行くと、第一声がこれよね。
覗きこむようにヴィクテージを見るエティエンヌさん。
僕の後ろに隠れるように引っ込んでいるヴィクテージをなだめ、僕はエティエンヌさんが向かう方向へとついて行く。
しばらく歩いて着いたのは、外だった。
静かな夜の空間は、どこか魔法大戦争の戦地を思い出させてくれる。
「埜牙狼、あんた魔法使えるって言ってたよね?」
腰に手を当てながらエティエンヌさんは言う。
「えぇ、まぁそうですけど……」
「それなら見せておくれよ。最大の魔法をさ」
奥から何かが近づいてくる。
足音、それも複数人どころじゃない、もっといる。
「……やっぱり、こう言うことだったんですね」
「どう言うことよ?」
「力試しさ。今ここでね」
口ではそう言っていたが、とても予想外だ。
こんなことになることならヴィクテージを無理矢理にでも置いていけば良かった。
「さぁ、やり合おうか。日本人の魔法使いさん」
御一読お疲れ様でした!!
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