第82話 これからの時代
「ケイ」
戦いを終えて立ち上がる俺と圭の元に、王様が静かに歩み寄ってきた。
「御主はよくやってくれた。儂の……クロエミナ王国の誇りじゃよ」
「王様……? 何で、此処に」
王様の姿を見て驚く圭。
どうやら、圭は王様が此処にいることに今になって気付いたようだ。
王様は圭の肩を優しく叩くと、微笑んだ。
「もう、人間と魔族が争う時代は終わったんじゃ。戦う必要はないんじゃよ」
「…………」
王様に諭されて、圭はテーブルの方にいる魔王の方を見た。
魔王はケーキを食べながら、こちらの遣り取りの様子を見つめている。
「……本当に」
圭は肩を落として、言った。
「魔族は、クロエミナ王国と戦うのをやめたのか。俺は……俺たちは、何のために此処までを旅してきたんだろう」
「歴史の証人になるためさ」
俺はそっと圭の背中に触れた。
そのまま圭の身体を抱き寄せて、テーブルを見つめた。
「昔、人間と魔族は仲良く暮らしてたんだ。その時と同じように、もう一度全てをやり直そうって時代になったんだよ」
今は、王様と魔王が肩を並べて食事を楽しんでいるだけだけど。
これからは、全ての人間と魔族が同じように交流を深めてこれからの時代を築いていくことだろう。
それを、俺は此処で皆と一緒に見届ける。
俺たちの関係が手本になるように、この城で暮らしていくつもりだ。
そう、約束したことだしな。魔王と。
「圭、魔族との暮らしは悪いもんじゃないぞ。毎日色んな発見があって面白いからな」
「……真央は、今までそうして過ごしてたのか」
圭は横目で俺の姿を見て、何を思ったのか、ふっと笑った。
「似合わないな。お前の料理人姿」
「ほっとけ」
俺は圭の頭を軽くこづいた。
二人でくっくっと笑い合った後、唐突にあっと圭が声を上げる。
「そうだ、アッシュ! 俺の仲間が、城の入口で戦ってるんだった」
「ちょっ……そういうことは早く言えよ!」
俺は圭の身体から手を離して、入口の方に振り向いた。
こちらの方にまでその空気は伝わってきていないようだが、此処が再び騒動になるのは時間の問題だろう。
せっかくこの場が収まったのに、いらないことで再度騒ぎになるのは御免蒙りたい。
「圭も来い、やめさせるぞ!」
俺は圭の手を引いて、その場を駆け出した。
圭の言う通りに城の入口付近で衛兵と激戦を繰り広げていた人間の戦士たちを、俺と圭は懸命になって止めた。
皆、人間と魔族が和平を結んだという話を半信半疑で聞いていたようだったが、圭の言葉で最終的には納得してくれた。
衛兵たちの方は戦えないことが不満そうだったが、俺が次の食事の時に特別な料理を作ってやるからと説得したことが功を奏したようで、何とか剣を収めてくれた。
死者はいなかった。後少し止めるのが遅かったらどうなっていたかは分からなかったので、本当に間一髪だったと言えるだろう。
これで、ようやく戦いは完全に終わったのだ。
俺は空に浮かぶ大きな満月を見つめて、安堵の息を吐いたのだった。




