第81話 勝利を我が手に
「燃えろ、炎よ。弾丸となりて敵を討て。ファイアボール!」
戦いの口火を切ったのは圭が放った魔法だった。
人間の頭ほどもある大きな炎の球が、回転しながらこちらに迫ってくる。
俺は床を蹴り、勢いを乗せた光の剣で火球を両断した!
これは俺の剣が魔力で生み出した武器だからできることだ。普通の剣では同じことはできないので真似はしないでもらいたい。
両断した火球が爆発しながら細かい火の粉となって虚空に散っていく。
その中を突っ切って、俺は圭との距離を詰めた。
光の剣を下段から斜めに振り上げる。
圭は──避けない。手にした剣を縦に構えて、俺の放った一撃を真っ向から受け止めた。
「貫け、氷の刃よ。全てを穿つ槍となれ。アイシクルランス!」
組み合いながら俺は魔法を唱える。
頭上に出現したたくさんの氷の槍が、雨のように圭めがけて降り注いだ!
圭は俺の剣を力で押し返し、その反動を利用して振るった剣で氷の槍を残らず叩き落とした。
氷が砕け、きらきらと光を反射しながら床に散る。
それを踏み締め、俺は圭との間合いを狭めた。
圭の手を狙って光の剣を繰り出す。
圭はそれを剣で払い除け、左の掌をこちらに向けて翳した。
「抱け、神の腕。堅固なる束縛を与えん。ウィンドチェイン!」
俺の周囲の空気が軋む。
不可視の力が俺の全身に纏わり付き、俺は腕を伸ばした体勢のまま動きを止めてしまった。
「油断したな、真央」
圭がにやりとした。
俺から一歩分距離を置き、俺の手首を狙って剣を振り下ろす!
手首を斬って剣を握れなくするのが狙いなのだろうが、そうはいかない。
俺は神経を動かなくなった腕に集中させた。
ばちん!
輪ゴムが弾けたような音を立てて、俺の腕は自由を取り戻した。
腕に魔力を流して、掛けられた束縛の魔法を解いたのだ。
圭の剣が俺の手首を薙ぐ、その寸前のところで俺は腕を引いて剣をかわした。
ふっと全身に纏わり付いていた魔力の枷が消える。魔法の効果が切れたのだろう。
俺は大きく一歩踏み込み、魔法を破られて驚愕している圭に肉薄した。
「甘いぞ、圭!」
言うと同時に右足を振り上げる。
俺の爪先は圭の手首を思い切り蹴り上げた。
圭の手から剣がすっぽ抜ける。弧を描いて飛んでいき、壁に当たってちゃりんと落ちた。
「な……」
「戦う術が剣と魔法だけだと思ったら大間違いだ!」
そのまま、俺は両手で圭を突き飛ばす。
身体のバランスを崩した圭が仰向けに倒れる。
俺はすかさずその上に跨り、光の剣の刃を圭の喉元に押し当てた!
ぐ、と圭の喉から潰れた声が漏れ出る。
俺はふーっと息を吐いて、圭の目を見据え、言った。
「……勝負ありだ」
「…………」
圭はまっすぐに俺の目を見ていた。
ゆっくりと、光の剣を持っている俺の手を握る。
ぐっ……と喉から引き剥がそうと指先に力を込めて、
諦めたように、その力を緩めた。
「……俺は勇者だ。誰にも負けない力があるって、そう思ってた」
静かに、口を開く。
「お前にも勝てるって、思ってたのに」
「俺も勇者だ。今はこんな格好してるけどな」
俺は自分の身体に視線を向けた。
料理人の制服は、派手に動き回ったせいで皺になっていた。
こんな取っ組み合いには向かない服装で、よく此処まで戦えたものだ。
それが勇者の才能というやつなのだろうか?
まあ、何でもいい。
圭との勝負に勝ったのだ。こんなにも嬉しいことはない。
これで、人間と魔族の和解が現実のものとなったのだ。
「約束だ。俺と一緒に、人間と魔族が手を取り合うところを見届けろ」
「……分かったよ」
俺が言うと、圭は観念した様子で頷いたのだった。




