第80話 未来を賭けた勝負
何度も何度も剣を振るう圭。
それを、魔王は涼しい顔をして杖で全て受け止めている。
魔王にとってはこの剣戟も一種の戯れのつもりなのだろう。魔法を使う素振りを見せないのがその証拠だ。
生憎、俺にはその遊びに付き合えるだけの精神的余裕はない。
魔王の楽しみを邪魔してでも、圭に魔王を攻撃するのをやめさせる。あいつから戦闘する意思を削がなければ説得するなんてことは夢のまた夢だ。
俺は両者の間に割って入って、手にした光の剣を突き出した。
魔王と圭、二人の動きがぴたりと止まる。
その隙を突いて、俺は言った。
「圭。俺と勝負しろ」
「……何のつもりだよ、真央」
圭の視線が魔王から俺へと逸れた。
「言葉通りの意味さ」
俺は剣を持った手を下ろして、続けた。
「お前が勝ったら、俺はこれ以上は何も言わない。魔王と戦いたかったらそうすればいい。その代わり俺が勝ったら──」
す、と息を吸って、圭の目を見つめて、言った。
「戦うのをやめてもらう。人間と魔族が和平を結ぶところを、俺と一緒に見届けろ」
次に魔王に視線を向けて、問うた。
「魔王も、それでいいな。こいつと決着を着けるのをそこで見ていろ」
「…………」
魔王は杖を下ろし、静かに椅子に腰を下ろした。
あれは好きにしろ、という意思表示だ。魔王は俺の提案を呑んでくれたのだ。
圭は剣を引いて、頷きはせずに言った。
「……分かったよ」
踵を返し、部屋の入口まで移動して、立ち止まる。
剣を構え、声を張り上げた。
「本気で行かせてもらうからな、真央! 俺のやろうとしていることが間違っていないということを、証明してみせる!」
「マオ!」
背後から、俺を呼ぶ声。
シーグレットが、険しい顔をして俺のことを見ていた。
「男が言い切ったからには必ずやり遂げろ! 途中で退くのは許さねぇからな!」
「……ああ!」
俺は親指を立てて彼の言葉に応え、光の剣を構えた。
この勝負で人間と魔族の未来が決まる。
プレッシャーを感じないと言ったら嘘になる。高校入試の結果を知る時と同じくらい、胃がぎゅっと引き締まっているのを感じる。
これが、男の勝負というものなのか、と俺は思った。
人間のため。魔族のため。何より、俺と圭のために──
この勝負、必ず、勝つ!




