第58話 料理人のプライドにかけて
魔王が和睦のための晩餐会を開くという話は、瞬く間に城中に広まった。
「聞いたか? 王が人間と和睦を結ぶための会談を開くという話」
「聞いた聞いた。今まで戦争してたのに、急な話だよな」
兵士たちの話題はそのことで持ちきりだ。
急に転がり込んできた話だから、困惑しているのだろう。
厨房でも──
「人間をもてなすための料理を作れとの仰せだ」
いつも以上に気難しげな顔をして、シーグレットは唸っていた。
「王は何を考えてるんだ? 急に人間と一緒に飯を食うなんて言い出して……」
すまん、急な話でびっくりしてるよな。
その話が出る原因を作ったのが俺だとは言わずに、俺は知らん顔をしてシーグレットの話に耳を傾けていた。
人間と和睦を結ぼうと言い出したのが魔王だということにしておいた方が、俺としては都合が良いのだ。
その方が、魔族たちの人間を見る目が変わるだろうしな。
「人間を食う、なら分かるんだけどよ。こんなことは前代未聞だぜ」
「魔王も何か考えがあるんだろ。俺たちは言われた通りに晩餐会のための料理を考えようぜ」
晩餐会の日取りはまだ決まっていない。
遠く離れたクロエミナ国から人を招くのだから当然なのだろうが、色々と段取りを決めるのが大変なのだろう。
まあ、その辺りは俺が考えることではない。俺は普段通りに料理のことを考えるだけだ。
「まあ、そうだな。マオの言う通りだ。オレらはあくまで料理を作るのが仕事だ」
シーグレットは周囲で待機している料理人たちに、言った。
「オレらが作る料理の出来で会談の成否が決まると言っても過言じゃねぇ。人間に馬鹿にされねぇように、気合を入れて最高の一品を作れ。お前らの腕の見せ所だ」
『はい!』
姿勢を正して返事をする料理人たち。
うん、頼もしいな。
皆に負けないように、俺も頑張ろう。
「よし、それじゃあ昼飯作りを始めるぞ。さっき行商人が来て、こんなものを売っていたから仕入れたんだが──」
言いながらシーグレットが足下から箱を持ち上げて、どんと調理台の上に置いた。
箱の中には、大量の貝が入っていた。
「アラグレアクラムだ。今日はこいつで昼飯を作る」
アラグレアクラムは、見た目はハマグリのような大粒の二枚貝だ。
この分だと身も大きいだろう。酒蒸しにしたら美味そうだな。
ハマグリ……うん、そうだな。
貝の出汁を使ったシチューなんてどうだろう。
多分貝を焼いたりするのはこの世界の連中は普通にやってると思うんだよな。シチューなら目新しいだろうし、受けが良いと思うのだ。
決めた。そうしよう。
俺は鍋を取り出した。
「何作るか決めたの? マオ」
アラグレアクラムを手に取って見つめていたリベロが、こちらを向いた。
俺は鍋に水を入れながら頷いた。
「貝の旨味をじっくり味わえる料理があるんだよ」




