第56話 ドーナツ
使用済みの皿が山積みになっている。
食事を終えて厨房に戻ってきた俺たちを待っていたのは、大量の洗い物だった。
食べたら片付けなくちゃいけない。それは分かっているが、この量は半端ではなかった。
普段の量の比じゃないぞ、これ。
まあ、脱力したところで俺たちが洗わなきゃならないことに変わりはないから、皆で協力して片付けたけど。
本当に今日はお疲れ様って感じだ。
顔に疲れの色が見え隠れしている皆のために、ちょっとしたデザートを作ってやろう。
俺も疲れてはいるけど、何か労わってやりたい気分なんだよな。
俺が甘いものを食いたいってのもあるんだけど。
皿が片付いて綺麗になった調理台に、材料を並べていく。
小麦粉。ベーキングパウダー。卵。砂糖。バター。
「何してんだ、マオ」
俺が料理の準備を始めたので気になったのだろう、シーグレットが腕を組みながらこちらに寄ってきた。
「今日は皆よく働いただろ。俺からのプレゼントってことで、菓子を作ってやろうと思ってな」
「菓子?」
「甘味だよ、甘味」
言葉を交わしながら、調理器具の準備を進めていく。
湯を沸かして、ボウルに注いだら──準備完了だ。
それじゃあ、作っていくとしますかね。
ボウルに卵と砂糖を入れ、湯せんにかけながら混ぜる。
卵液が人肌になったら湯せんから下ろして、もったりするまで更に混ぜていく。
ここで小麦粉とベーキングパウダーを加えて、さっくりと混ぜたら──
溶かしバターを入れて、さっと混ぜ合わせて、と。これで生地の完成だ。
鉄板に生地をリング状に垂らして、石窯に入れて焼く。
時々様子を見ながら生地をひっくり返して焼き、生地がふんわりとしたら石窯から取り出す。
これで、完成。パウンドケーキの生地で作ったドーナツだ。
俺の料理の様子を見ていた料理人たちがごくっと喉を鳴らした。
この菓子は焼きたてが表面がさくっとしていて一番美味しいから、熱いうちに皿に盛り付けて出してやる。
「みんな、今日はお疲れ様。俺からのプレゼントだ」
「食べていいの?」
「ああ、いいぞ。ただし一人一個な」
皿にわっと一斉に手が伸びた。
「熱っ、だけど、美味っ」
「甘くて美味しー」
「こんなの食べたことないよ、流石マオだ」
皆笑顔でドーナツを頬張っている。
うん、その顔。作った甲斐があったよ。
「パンに食感は似てるな。だが味は全然別もんだ。こいつは美味いな」
ドーナツをじっくりと味わいながらシーグレットが俺の顔に注目した。
「マオ。暇な時でいいからお前の知ってる甘味のレシピをこいつらに教えてやってくれ」
「甘味の?」
「甘味は王がよく御所望なさるからな。お前がいない時でも料理を出せるように、こいつらを鍛えてやってほしいんだよ」
ああ、魔王は異世界の甘味に目がないからな。
俺が何か作ってると厨房に突撃してくるくらいだし。
俺じゃなくても菓子作りができるように厨房の連中を鍛えてやるのは、ありかもしれない。
菓子は材料の計量とか手順が面倒だから、教えるなら簡単なものからだけどな。
「分かった。休憩時間にでも、簡単なやつから教えるよ」
「皆、聞いてたな。甘味作りをマオに習って、各自ひとつは甘味を作れるようになれ。分かったな」
菓子作りのレクチャーか。思いがけない役割を背負うことになったな。
皆が菓子を作れるようになったら俺の負担も減るし、気長に少しずつ教えていこう。
一ヵ月後にどれだけ皆の腕が上達してるか、見るのが今から楽しみだ。




