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第51話 建国記念祭、何作る?

「──よし」

 建国記念祭三日前。休憩時間になる度に羊皮紙の束を相手に難しい顔をしていたシーグレットが、決意を露わにした面差しで頷いた。

 調理台の上を片付けていた俺を筆頭にした何名かの料理人が、揃って彼の方を向く。

 シーグレットは俺たちの方を見て、言った。

「建国記念祭に出す料理が決まった」

 随分悩んでたみたいだけど、やっと何を作るか決めたんだな。

 これまでに俺が訊いてもただ唸るだけだったから、大丈夫かなこいつってちょっと心配になってたんだよ。

 エプロンで手を拭きながら、俺はシーグレットの隣に行った。

「何作るんだ?」

 俺の問いに、シーグレットは手にしていた羊皮紙の一枚を差し出してきた。

 それには、シーグレットの直筆と思わしき色々な絵と文章が書かれていた。

 ……うん、全く読めん。

 俺は首を振りながら紙をシーグレットに返した。

「俺は魔族の文字読めないから。口頭で説明してくれよ」

「何だ、面倒臭ぇな」

 シーグレットは微妙に顔を顰めて、受け取った羊皮紙を調理台の上に置いた。

「メインにスピアホーンブルの生肉ステーキ。サイドにブルーカクタスのサラダとフライングエッグのスープ。それとお前が作るって言ってたから揚げとフライドポテト。後はデザートだな」

 スピアホーンブルとは槍みたいな角を持った牛の魔物で、敵視した相手を何処までも追いかけて角で刺そうとする習性があるおっかない生き物らしい。常時走り回っているので肉は脂身が少なく、あっさりとした味わいなのだそうだ。

 ブルーカクタスとは青色をしたウチワサボテンのような植物で、固そうな見た目に反し果肉は柔らかで瑞々しいのだとか。主にサラダに使われる食材らしい。

 フライングエッグとは卵のような見た目をしており、空をぷかぷかと浮遊する生き物らしい。黄身が濃厚で、鶏卵の代わりとしてもよく使われているのだそうだ。

 成程……祭だから普段お目にかけないような御馳走を作ると思ってたけど、随分と普通のメニューで勝負するつもりなんだな。

 生肉ステーキって、タルタルステーキみたいなものか?

 サラダとスープって、普段の食事で作ってるメニューと大差ない気がするけど、兵士からの文句は出ないのか?

 デザートって、この世界のデザートは果物の蜂蜜漬けしかないけどそれを出す気なのだろうか?

 不安要素たっぷりのメニューだな。

「何か、普段作ってる料理と変わらないような……」

「馬鹿言うな。スピアホーンブルもブルーカクタスも普段の料理じゃ出さないような高級品なんだぞ」

 ああ、食材の珍しさで勝負してるのか。

 あれだな、キャビアを使った寿司とかトリュフを添えたオムライスとかを出すような感覚か。

 まあ、シーグレットがそれで兵士たちを納得させられると思ってるんなら俺は何も言うつもりはないけど。

「因みに、デザートには何を出すんだ? 蜂蜜漬け?」

「そこはまだ考えてねぇ」

 おいおい、大丈夫かよ。

「お前みたいに珍しい甘味が用意できればいいんだがな」

 言って、シーグレットは何か物言いたげな視線を俺に向けた。

 ……ひょっとして、俺に何か作れって言いたいのか?

 この前の召喚事件で色々手に入ったから、作ろうと思えば作れるけどさ。

 パーティー向けのデザートか。真っ先に思い浮かぶのは生クリームをたっぷり使ったケーキだけど、流石に何百人分のケーキを焼くのは大変だし……

 ベーキングパウダーがあるから、ホットケーキみたいな菓子も作れるんだよな。

 ゼラチンがあるからゼリーだっていけるし。

 ……まあ、まだ時間はある。少し考えよう。

「……分かった、何か考えとく。作る時は皆にも手伝ってもらうからな?」

 皆の顔を見回すと、皆はさして面倒臭がることもなく頷いた。

「当日は分担して複数の料理を同時に作ることになる。しっかりと連携取って動くんだぞ。分かったな」

 ……それでも、俺が一番動くことになるんだろうな。から揚げに加えてデザート作りも請け負うことになると、確実に俺じゃなきゃできない作業ってのが出てくるわけだし。

 料理人たちが返事をするのを横で聞きながら、俺は複雑な表情をして後頭部を掻いたのだった。

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