第52話 勇者、本気出す
建国記念祭当日。料理作りのために、俺たち料理人は普段より二時間も早く起きることになった。
グレンに言われて昨日は早く寝ることにしたけど、やっぱり慣れない時間に起きたから頭がぼーっとしてるな。
ちょっぴり寝癖の付いた髪を引っ張りながら、厨房へ向かう。
厨房では、シーグレットがいつにも増して忙しく料理人たちに指示を飛ばしていた。
「ベアレン、アシマはスピアホーンブルをミンチにしろ! アーバンとシルキーはブルーカクタスの皮を剥け、テムライとロッゾは──」
「おはようございます」
「グレン、マオ、やっと来たか! お前たちで最後だ、早く手を洗って持ち場につけ!」
ピリピリしてるな。一年で最も忙しい時だって聞いてはいるけど、本当に一息つく間もないくらい忙しいんだな。
俺は手を洗って自分がいつも料理をしている調理台へと向かった。
調理台の上には、三メートルほどはある巨大な肉がどかんと載っていた。
何だこりゃ……随分でかい肉だな。
形は鶏だが、大きさが規格外だ。こんなの何処から持ってきたんだろう。
「あ、おはよー。マオ」
肉に見とれていると、肉の陰からリベロがひょっこりと顔を出した。
「何なんだこの肉」
「これ? 料理長が仕入れたコカトリスのお肉だよ。マオが鶏肉が欲しいって言ったんだって? それで朝市で買ってきたみたい」
コカトリスって……あれだろ。見た奴を石化させる邪眼を持つ鶏の魔物だ。
俺が勇者として旅をしていた頃に一度だけ戦ったことがあるけど、凶暴な鶏って感じがして真っ向から戦いを挑むのは気が引けたんだよな。
肉になってもこの迫力。魔物ってのは凄いな。
って、感心してる場合じゃなかった。こいつを捌いてから揚げにしないと。
「リベロ、この肉を一口サイズになるように捌いてほしい。俺はその間に調味料の準備をするから」
「うん、分かったー」
これだけの量の肉を漬け込むのにトレイじゃ間に合わないな。鍋を使うか。
俺は大鍋に酒と醤油を大量に注ぎ入れ、摩り下ろしたにんにくと生姜を加えて合わせ調味料を作っていった。
リベロの包丁捌きは見事なもので、巨大だったコカトリスの肉はみるみるうちに一口サイズに切り分けられていった。
ああ、切り分けるのに風魔法も使ってるのか。通りで作業が早いと思ったよ。
やっぱり魔法が使えると便利でいいな。
切り分けられた肉は順次鍋の中へ。
肉を漬けながら、フライドポテトにするジャガイモを切っていく。
今回は大量に作らなきゃいけないから手間を考えて皮付きのまま作ることにした。
鍋に油を注いで竈の火にかけて、ジャガイモを投入していく。
肉を調味料に漬けてジャガイモを揚げて、の作業を繰り返して、大量のフライドポテトを拵えていった。
フライドポテトは大皿に盛り付けて、ワゴンへ。どんどん運び出してもらった。
そうしてフライドポテト作りが完了したとほぼ同時に、肉の仕込みも終わった。
後は一時間ほど漬け込んで揚げるだけだ。
肉が漬かるのを待つ間に……
俺はボウルと大量の卵を調理台の上に準備した。
同時進行でデザートを作る。リベロもいるし、そこまで手間のかかる菓子を作るわけじゃないから大丈夫だろう。
さあ、作っていくぞ。




