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第47話 休憩

 中庭は体育館並みの広さがあり、綺麗に剪定された植木や花壇によって美しく整えられた公園のような装いをしている。

 上からは穏やかな日差しが差し込み、休憩をするには絶好の場所だ。

 兵士もずっと任務に当たっていると気分転換がしたくなるのか、そこかしこで地面に直に座って休憩している姿が見受けられた。

 俺は丁度良く日陰になっている花壇の傍に行き、胡坐をかいてそこに座った。

 部屋でごろ寝をしてるのもいいけど、たまにはこうして外に出て風に当たるのもいいもんだな。

 ふう……と深呼吸をする。

 と、急に目の前に黒い影が立ち塞がった。

「マオ」

 フランシスカが、俺のことをじっと見つめていた。

 フランシスカって、魔王の妹ってことは王女だろ? 王女が供も付けずに一人でこんな場所に来るってありなのか。

「何してるの」

 相変わらずの淡々とした物言いで俺に言葉を掛けるフランシスカ。

 俺は自分の胸をぽんぽんと軽く叩きながら、答えた。

「何って……見て分からないか? 休憩してるんだよ」

「そう」

 それで納得したのかどうかは定かではないが──

 フランシスカはそっけなく返事をすると、俺の膝の上に向かい合わせの形でちょこんと座った。

 見た目より随分と軽いんだな。こいつ。

 蜘蛛の糸のような彼女の細い髪が、そよ風にさらさらと揺れている。

 綺麗に手入れされてるんだな、と俺は思った。

「お祭の料理、貴方は何を作ってくれるの」

 ルビーのような瞳を大きく見開いて、小首を傾げながら彼女は尋ねる。

 祭……っていうと、建国記念祭のことか。

 シーグレットは飲んで歌って馬鹿騒ぎをする祭だって言ってたが、フランシスカも祭の日ははしゃいだりするんだろうか。

「皆が見たことないような料理を作るよ。いつも目新しい料理を作ってるってシーグレットも言ってたからな」

「美味しい?」

 フランシスカはずいっと身を乗り出して俺の顔を覗き込んできた。

 魔族とはいえ、見た目は見目麗しい女の子だから、顔を近付けられるとどきっとするな。

 こんなふうに女に迫られるなんて経験、今までにしたことなかったぞ。

 まあ、幼女なんだけど。

「人間よりも美味しい?」

「俺は人間なんて食ったことないから分からんけど……美味いぞ。俺の故郷じゃ大人も子供も皆が好きな料理だったからな」

「そう」

 俺の言葉に、フランシスカは嬉しそうに笑った。

 何だ、普通に笑うこともあるんだな。なかなか可愛いじゃないか。

「私、楽しみにしてる。マオの作る料理。あんなに美味しい料理、他の料理人じゃ絶対に作れないもの」

「おう。期待してろよ」

「フランシスカ様。また一人で勝手に部屋を抜け出して──」

 遠くからぱたぱたと駆けてくる兵士の姿。

 ああ、やっぱり勝手に自分の居場所を抜け出してきてたんだな。

 こんな行動力のある姫だと、付き人もなかなか大変そうだな。

 フランシスカは兵士に連れられて、俺の前から去っていった。

 それと同時に、城中に鳴り響く鐘の音。

 時報だ。これが鳴ったということは、あと三十分で休憩時間は終わりか。

 何だか思ってたよりも休憩できなかったな。

 まあ、人と話ができたことはいい気分転換にはなったけど。

 俺はぐっと両腕を伸ばして、新鮮な空気を胸一杯に吸い込んだ。

 さて、そろそろ厨房に戻るかな。

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