閑話 後、三十日
感想を頂きました。ありがとうございます。
真央は自分が魔王の隷属であるという自覚はありますが、忠実な下僕になったつもりは全くないので魔王相手に無礼な態度を取ることは普通にやります。今はまだツッコミを入れる程度で済んでいますが、そのうち手が出るようになるかもしれません。
「ケイ、そっちに行ったぞ!」
遠くからの叫びに応えるように、圭は体の前で剣を構えた。
牙を剥き出し、涎を垂らした巨大な狼が高速で迫ってくる。
圭は体を半歩分横に移動させてすれすれの位置で狼の突進をかわし、すれ違いざまに狼の首の付け根を剣で斬りつけた。
ぎゃん、と悲鳴が狼の口から漏れる。
そのまま狼は体のバランスを崩して地面の上を転がり、動かなくなった。
「……ふう」
「大分戦闘に慣れてきたな、ケイ」
巨大なハルバードを背負った巨躯の戦士が、圭に歩み寄り背中をぽんと叩いた。
手の甲で頬を拭い、圭は彼に微笑を返した。
「皆が俺に色々教えてくれたお陰だよ」
「そうだとしても、ケイは物覚えが早いと思うよ。魔法だって、最初はどうやって使うんだーってあたふたしてたのに今じゃぽんぽん使ってるんだもの」
「そうですね。物怖じしなくなりましたよね、ケイさんは」
法衣を纏った金髪碧眼の女性と革鎧で身を固めた赤毛の少女が顔を見合わせながら頷き合っている。
彼らは、圭と共に魔王討伐の旅をする仲間たちだ。
戦士のアッシュ。
弓術士兼斥候のアリア。
魔道士のゼフィール。
皆、歴戦の猛者とも呼べる者たちだ。
勇者とはいえ戦闘は全くの素人である圭にとって、彼らは偉大な先輩であり教えを授けてくれる師匠であった。
「そのうち、あたしたちの腕なんてあっという間に追い越しちゃうんだろうね」
「そうでなければ困る。ケイは魔王を倒す勇者なんだからな」
圭は後頭部を掻いた。
剣や魔法の腕前は仲間にはまだまだ及ばないが、こうして評価してもらえるのが素直に嬉しいのだ。
彼らのためにも、一日も早く一人前の勇者になろう、と思う。
すっと深呼吸をして、圭は腰の鞘に剣を戻した。
「魔王を倒すのは俺だけじゃないよ。皆と一緒に、倒そうと思ってるよ」
一人一人の顔を見つめて、彼は真面目な面持ちで言った。
「魔王は強大だと思う……だから、皆で力を合わせなければきっと勝てない。一緒に、戦ってほしいんだ」
「当たり前のことを言うな。それくらいの覚悟は持ってこの旅に参加してるよ、オレたちは」
ふっ、と笑むアッシュ。
遠くの空を見つめ、腕を組んだ。
「魔王の居城と言われている都まで、三十日……それまでの間に、オレたちはお前を可能な限り鍛えてやるつもりだ。お前も、音を上げずについてこいよ」
「ああ、宜しく頼むよ」
圭もアッシュに倣って遠くの空を見つめた。
この空が続く先に、魔王が居を構えている魔族の国があるという。
魔族の国に入れば、今までとは比較にならないくらいの激戦を繰り広げることになるだろう。
果たしてその時が来るまでに、自分は此処にいる皆を守れるくらいに強くなれるのか。
強くなろうという決意と、強くなれるのかという不安が入り混じった感情を抱きつつ、圭は自らを鼓舞するように頬を両手でぱちんと叩いたのだった。




