第45話 王道のメニュー
「むぅ……」
休憩時間。誰もいなくなった厨房で、羊皮紙を調理台に広げたシーグレットが一人で唸っていた。
料理長は大変だな。
「何見て唸ってるんだ?」
「何だ、マオか」
厨房に入ってきた俺にちらりと目を向けて、シーグレットは手にしていた羊皮紙をばさりと調理台の上に置いた。
「近々、建国記念祭があるもんでな」
「建国記念祭?」
建国記念祭とは、その名の通りこの国が誕生した日を祝う国祭なのだそうだ。
山のような御馳走を並べて、飲んで歌って馬鹿騒ぎをする祭らしい。
「大量の食事を用意しなきゃならねぇのさ。何度もやってることだが、またこの日が来たかと思うと気が重いぜ」
記念日を祝うに相応しい料理を城中の兵士が食べる分用意しなければならないとかで、厨房は今までにないくらいに忙しくなるらしい。
それこそ、一年で最も忙しくなる日なのだそうだ。
確かにオードブルのような料理を何百人分と用意しなければならないとなると、忙しくなるのも当たり前だよな。
「さて、今回は何を作るかね……」
成程、唸っていたのはメニューを何にするかで悩んでいたからか。
「今までは何を作ってたんだ?」
「それこそ色々だな。レッドブル料理にしたり、フラワーアリオン料理にしたり……目新しい料理が好まれるから、大抵は祭のために新しく考案した料理になる。だから頭を使うんだよ。普段作ってる料理じゃ皆納得しねぇからな」
日本じゃ祝い事に出す料理ってなるとパターンが決まってるけど、こっちの世界じゃそうじゃないんだな。
俺が日本で食べてた料理を出せば、一応目新しい料理になるし皆も納得するんじゃないか?
俺がそんなことを考えてると、シーグレットが俺の顔をじっと見て口を開いた。
「毎度お前に依存するのも料理長として思うところがあるが、オレはネタ切れだ。厨房を助けると思って、何かいい料理を知ってたら教えろ」
「いい料理……なぁ」
俺は眉間に皺を寄せながら腕を組んだ。
祝いの席で食べる料理だから、つい手を伸ばしたくなるようなメニューがいいよな。
手軽につまめて、それでいて飽きの来ない料理。
うーん。
俺の視線が、自然と冷蔵室に続く扉に向いた。
此処、いつでも肉の在庫だけは豊富にあるんだよな。それだけ肉を使ってるってことは、魔族は肉が好きなんだろうな。
手軽な肉料理。肉……
……そうだな。から揚げなんてどうだろうか。
仕込みは必要だけど工程は少ないし、難しい料理じゃないから大勢でやれば一気に大量に作ることができるだろう。
から揚げは大人も子供も大好きなメニューだし、その方程式は魔族にも当てはまると思いたい。
コロッケを作った時に思ったことだけど、この世界では揚げるって調理法は馴染みの薄い手法らしいし、目新しい料理に見えるはず。
よし。それでいこう。
俺はシーグレットの方を向いた。
「鶏肉を大量に用意できるか?」
「鶏肉?」
シーグレットは冷蔵室の方を見た。
「在庫はあるはずだが……大量に必要だってんなら仕入れてやる。何かいい料理を思い付いたんだな?」
「ああ」
俺は不敵に笑んだ。
「手軽で美味い、それでいて食い応えのある料理を作ってやるよ」
「ほう」
調理台の上に散らばった羊皮紙をまとめて、シーグレットは言った。
「建国記念祭は五日後だ。肉以外にも必要なものがあったら今のうちに言え。仕入れはすぐにはできねぇからな」
「分かった。何かあったら言うよ」
夜のまかないで試しに作ってみるか。厨房の連中の評価は聞いておきたいからな。
そうと決まったら、仕込みだな。今からやっておけば夕飯に丁度いい時間に仕込みを終わらせられるぞ。
俺は鶏肉を取りに冷蔵室に向かった。




