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カタクリズム:中編  作者: ウナ
クガネ外伝
61/72

第6話 その者、クガネ

【その者、クガネ】







「さぁ、仕事の時間だよっ」


マウデスの名を持つ者たちがカイリの合図で一斉に動き出す

真っ先に馬車を飛び出したのはカイリだ


カイリは素早く馬車の上へと飛び乗ると同時に、

片手に4本ずつの投げナイフを一斉に放つ

そのナイフはこの広場の側面にある4つの小窓と、

背後側にある4つの小窓に吸い込まれ、中からは悲鳴が上がった


悲鳴を皮切りに状況は動き出す


瞬時に出入り口の鉄格子は降ろされ、

ファンブレ男爵をフルプレートの男2人が守る


入って来た側の鉄格子が降ろされた時に通過しようとしていた馬車が潰され、

乗っていた者が2人犠牲になったが、

重く分厚い鉄格子は馬車を貫通し、地面にまでめり込んでいた


本来であれば次の瞬間にハクテが正面の壁の小窓へと投げナイフを放ち、

4人は始末する手はずだったが、冷静さを欠いている彼女は、

自分を辱めたアイツしか目に入ってなかった


そのため、カイリが反転しながらナイフを8本抜き、

4本を正面の壁の小窓へ、更に4本をファンブレ男爵へと投げる


男爵への攻撃はフルプレートの男たちに呆気なく防がれるが、

これもまた予定通りである


リッキーとナードが走り出し、検問を行っている検問官へと突っ込んだ

カイリの身体を弄っていた男はリッキーによって喉を切られ、

ナードは隣の列の検問官2人を始末する


リッキーは身を低くして加速し、ナードの援護に入り、

カイリは次の馬車の上に乗ってナイフを構えた


すると、壁の小窓から一斉に矢が放たれる……予想通りの展開だ


そうなる事が分かっていたカイリは即座に馬車を盾にし、

矢の雨が終わった瞬間に再び馬車に乗り、小窓を狙う

こうした彼女の援護によってリッキーとナードは検問官を始末してゆく


一方、ハクテは……


自分を辱めた検問官の膝裏を特殊な鎌のようなダガーで切りつけ、

立てなくなった男に跨り、邪悪な笑みを浮かべて笑っていた


「きししっ、きししっ、おっまえぇ~」


「ひぃっ」


ハクテの尋常ならざる表情に恐怖した男は、

何とか逃げ延びようと腕だけでもがくが、

2本のナイフで地面に打ち付けられ、激痛と共に動けなくなる


「なぁ、お前さぁ、そんなに私とヤりたいの?」


「あ、ぐ……あぁ」


「ヤりたいのかって聞いてんだろっ! 答えろよっ!」


腕に刺さったナイフをグリグリとねじられる

堪らず絶叫を上げるが、男は必死に答えた


「がああ、うぐっ……は、はい、そうです!」


「そっかぁそっかぁ~、きししっ」


何を思ったのかハクテは上機嫌になったようだった

男はこれはもしや助かるのでは? と勘違いするが、

彼女がそんな事で至上の楽しみである"殺し"を止める訳がない

その時、ハクテへと2本の矢が迫る


『邪魔すんなっ!!』


少女とは思えないドスの利いた怒鳴り声が響き、

矢は鎌状のダガーで弾かれる


そして、男に背中を向けたハクテは、

小ぶりなお尻を男の腹へと下ろし、何やら始めている

男は一瞬理解出来なかったが、

彼女が自分のベルトを外している事に気がついた


「おら、おらっ! さっさと脱げよ!」


「な、なにを」


「いいから出せっつってんだろっ」


あっという間に下半身は露出させられ、

恐怖と痛みから縮まっているモノを掴まれた


「おい、おっ立てろ、今すぐ」


「む、無理ですよぉ!」


「チッ……しゃあねぇな……ま、いっか」


面倒そうにそう言うと、彼女は手に持つ鎌状のダガーを振り下ろす

下腹部から振動が伝わり、次に来るのは死を感じる激痛だった


『がああああああっ! ああっ、ぐああああああっ!!』


「きっしっしっ、すっげぇ血ぃ出たぁ~♪」


挿絵(By みてみん)


噴水のように吹き出す血は、ハクテの服や顔を汚す

そして、くるりと反転したハクテは、

手に持つ棒状の肉片をオモチャのように振り回して笑う


「きししっ、きししっ、けっさくぅ~」


彼女の下でもがき苦しむ男に血の雨を降らせながら、

少女は狂気と恍惚に満ちた笑みを振りまく


「お前さぁ~、これでもしゃぶってろ♪」


男の口に肉片を無理矢理ねじ込み、両手を使って口を閉じさせる

言葉にもならない声を上げるが、腕は串刺しにされ動かず、

足は神経を切断されてまともに動かなかった


「おいちぃでちゅかぁ~? お前のナニはよぉ!」


何度も何度も無理矢理噛まされ、口の中いっぱいに血の味が広がる

そこで男の意識はフッと消えた……限界だった

激痛、精神的苦痛、死の恐怖、全てが限界を超えたのだ


「あれ? どうした~? まだ死んでないよな?」


ペチペチと頬を叩くが反応はなく、

小さなため息をついたハクテは男への興味が失せ、

手に持つ鎌状のダガーを喉に当ててスッと横へ引く


「仕事しないとなぁ……」


少し面倒そうに立ち上がり、広場の状況を確認すると、

あらかた片付いているところだった


「あちゃぁ……やっちゃった……後で姉さんに怒られる」


待ち受けている仕置に軽い身震いをしつつ、

ハクテは遅めの仕事に取り掛かる


それから数分後には広場の検問官は全滅し、弓矢隊もまた全て絶命していた

本来であれば関所の奥から援軍が来る頃だが、

不思議と援軍が現れる気配はなく、広場には静寂が訪れていた


「予定通りみたいだね」


カイリが口角を上げて満足気に言うと、彼女らは次の仕事へと移ってゆく

荷馬車へと戻った彼女らは、荷台に積まれている大タルを下ろす


大タルからはワインの香りが漂っているが、

中に入っているのは普通のワインではない

通常のものよりアルコール度数がかなり高く、火すら付くほどだ


大タルを広場の主柱まで運び、ナイフで蓋をあけてぶちまける

その作業が終えた頃にファンブレ男爵が逃げた通路から1人の男が姿を現した


「引き上げるぞ」


返り血をマントから滴らせる男……クガネだ

彼は援軍とて現れるはずだった兵をあらかた始末し、

ファンブレ男爵の首を持って現れたのだ


その後、クガネにより開けられた門から堂々と外へと出た彼らは、

荷馬車を捨て、馬に乗り次の目的地へと向かう……


クガネ達が去ってから6日後


今回の関所襲撃事件を聞きつけた近隣の貴族が兵を派遣し、

その惨状に苦虫でも噛んだかのような顔になるのだった


関所内の広場はまだいい、ほぼ普通の戦闘の痕跡しかない

1名だけ無残な死体があり、見た男性は何とも言えない気持ちになったが、

その先にある兵の詰め所を見た者たちは更なる地獄を目の当たりにした


死体という死体が残っていないのだ


肉片……辺りに散らばっているのは肉片だらけだった

一部人間の形を保っているものもあったが、ほとんどは肉片だった

異様な悪臭が充満しており、その光景を見た者は嘔吐する


「人間のやる事じゃねぇ……」


ある1人の兵士がそう呟く

その場にいた誰もが頷くしかなかった


ファンブレ男爵領関所襲撃事件


後に犯人が判明し、クガネという名をラルアース全土に広めた事件だ

残虐非道、冷酷無比、鬼畜の所業……その言われようは散々だったが、

衝撃的な事件のため、ラルアース全土に広まるのは早かった


爆殺のクガネ


子供でも知る彼の名は恐怖の象徴とも言えるものとなったのだ


・・・・・


・・・



クガネ達がファンブレ男爵領から離れて3日が経過し、

次の目的地であるライネル家の治める領土ジャトロフ峠へと到着していた

位置としてはファンブレ男爵領から南下し、

宗教国家カナランとの国境付近に位置している


峠というだけあって山の中にある地方だが、

大規模な鉄の鉱脈が発見され、数百年前にライネル家が開拓したのだ


鉱山の街として有名になり、人も集まり、物流も生まれる

こうしてライネル家は財を築いたというわけだ


しかし、この開拓は一筋縄ではいかなかった


当時のライネル家は貧困との戦いだった

領土は山ばかりのため、作物は育ちにくく、住むのにも一苦労だ

山の恵により何とか生活は出来てはいたが、

領民の生活は豊かとは無縁のものだったと言えるだろう


そこへ発見された鉄の大鉱脈だ

鉄は需要も高く、働き手も多く必要となる

これは領民の生活水準が飛躍的に向上すると計算したのだ


本腰を入れて始まった開拓……それは前途多難だった

あちこちにガスが吹き出し、何人も犠牲になった

更に、落盤、地滑りなど不幸は続く

それでも諦めずに手に入れたのがジャトロフ峠の鉄鉱山である


だが、それも遥か数百年前の出来事、

今のライネルにその当時の男気があるかと言われれば無いだろう

富は人を堕落させ、ライネルの牙は今や見る影もない


鉄鉱山もかなりの範囲を掘り尽くし、山は半分ほど削れていた

しかし、山が削れた事により交通便は良くなったとも言える

その分、物流面が活発になり、ライネル家は更なる富を得ていた


ジャトロフ峠にある鉱山の街ウラル


現在も鉱夫や職人が多く住み、

彼らの生活を支える酒場や飲食店などが立ち並ぶ、活気のある街だ


険しい山の中でもあるため魔物の類も多いが、

ドラスリアの冒険者が多く在留しているため安全は確保されている

冒険者は仕事が多い地域に集まる傾向があるのだ


ラシュフォード領の方が広く、払いは良いと思われがちだが、

かの家は私兵を多く抱えている、そのため冒険者の仕事は極端に少ない

ライネル家やトレイド家のような中途半端な大富豪の方が稼ぎやすいのだ


そんなウラルの街に流れの冒険者を装って訪れた一行がいる

まだ顔も名前も知られていないクガネ達一行だ


偽造の3等級証明書を提示して冒険者組合に仲介してもらい、

主な雇い主であるライネル家へと訪れる

この街でやっていく冒険者の大半は、

これから世話になるライネル家に挨拶に行くのが定例となっていた


しかし、ライネル家当主が全ての冒険者と顔を合わせるかと言えば否である

そこまで暇なわけもなく、命を狙う輩がいる可能性も考慮し、

冒険者と顔合わせをするのは決まって次男のイケル・エギ・ライネルなのだ


イケルは次男な事もあり、基本的には何もしてない

ただ遊んで暮らしていると言っても過言ではないだろう

そのせいか、たるんだ腹が目立つ体型をしており、

目に余る不摂生さに現当主ブッフォン・エギ・ライネルが仕事を与えた


ブッフォンは人の事を言えるような体型をしていないが、

現当主であるこの男は人には厳しく自分には甘いのだ


唯一とも言える仕事を与えられたイケルは、

組合から連絡があると、女を抱いている最中でも冒険者と会う事を優先する

彼はそれだけが存在意義なのだ、それを失えば居場所などないと言えよう


ライネル家を訪れたクガネ一行は応接間に通される

室内は白を基調とした随分と可愛らしい内装だが、

1つ1つの家具は一級品であり、清潔さも保っている


清潔さを保つ……これが案外に難しいのだ

特に白い家具は汚れが目立つため、難易度は更に上がるだろう

それが出来ていると示す事が家の力を示す事へと繋がるという訳だ


応接間に入ってきたイケルは臆病な性格なのか護衛を4人ほど連れていた

本来であれば一貴族の継承権第2位のイケルを狙う輩などいないだろうが、

ライネル家と言えばかなりの富豪である、誘拐の類はあってもおかしくはない


彼が連れてきた護衛はおそらく冒険者だろう

3人は腕利きの剣士といった風貌で、1人は背格好から魔法使いだ

この組み合わせならばおそらく生の魔法使いだろう


組合の女性がクガネ達を紹介し、簡単な挨拶を済ます

イケルは白いソファにふんぞり返りながら渡された書類に目を通していた

裏稼業のドワーフに作らせた3等級証明書は完璧だ、バレる事はない


「3等級か……ふむ」


イケルが値踏みするような目を向けてくる

主にカイリに対してだが、その目には情欲の色が見て取れる


「お前たちのチームに魔法使いはいないのか?」


中年の割に高い声のイケルが聞くと、

目のあったカイリが「はい」と一言だけ答える

彼女の声が好みだったのか、機嫌を良くしたイケルは、

1つの提案をしてくるのだった


「魔法使いを与えてやろうか? その方がやりやすかろう?」


肩書だけとは言えイケルはこの街の冒険者を管理する立場にもあるため、

使えそうなチームの生存率を上げるためにこういった提案を稀にする

彼の思いつきでの発言だが、後でしわ寄せが行くのは組合の方だ

組合の女性が苦笑していると、クガネがテーブルに足を乗せた


「必要ない、俺を誰だと思っている」


汚れ一つない美しい白いテーブルに足を乗せ、

これでもかというほどの大きな態度で言うクガネに対し、

不快感を全面に出してイケルは顔を真っ赤に染める


「無礼な奴め……まぁ、自信があるのは悪いことではないぞ」


しかし、イケルは怒りはしなかった

どこか余裕のある態度で自身もテーブルに足を乗せる


「お前ら、先輩として言ってやるがいい」


顎で合図を出すと、背後に立っていた剣士の男が半歩前へと出る

獲物を狙うような鋭い目つきでクガネを見下ろし、ニヤッと不敵な笑みを見せた


「お前ら、俺たちが分からないのか?」


剣士の男がそう言うが、クガネには誰だかは分からない……が、

リッキーだけは知っていたようでクガネへと耳打ちする


「……ほぅ、2等級なのか、それはすごいじゃないか」


クガネが関心したように言うと、剣士の男はフンッと鼻で笑った

この男……2等級冒険者チーム【炎帝の盃】のリーダーで、

名はモールド・ワンタレと言う手練の剣士だ

年齢こそ20そこそこだが、その実力はかなりのものである


2等級とは冒険者の中でも一握りの歴戦の猛者たちだ

他国まで名が知られるほどの武勇の数々を持っていなくてはなれはしない

一方、3等級とは数も多く、名すら知られていない者が大半だ

そのため、2等級の名を聞けばだいたいの冒険者は尻込みする


だが、2等級という存在がいてもクガネの態度は変わりはしない

むしろ挑発するように不敵な笑みを浮かべ、1人1人の顔を見て行く


「それなりに腕に自信があるようだが、まだガキばかりじゃねぇか」


クガネのその態度に怒りで剣を抜きそうになるが、

モールドはまだ余裕の笑みを崩さずに笑ってみせた


「すまないね、若いのに2等級になってしまって……くくっ

 あなたは30手前といったところかい? その歳でまだ3等級なのかい?」


彼の言葉で炎帝の盃のメンバーが笑い始める

だが、クガネの態度は変わりはしない


「ふっ……弱い犬ほど吠えるとはよく言ったものだな」


『てめぇっ!』


剣に手をかけ身を乗り出そうとしたモールドは、

イケルの手でぴたりと止まる


「そこまでだ、くだらん……実にくだらん」


呆れたように言うイケルは、クガネを指差し、

2段階ほど低くした声で言う


「実力を示せ、口だけなら誰にでもできる

 いいか? お前ら冒険者というのはだな……」


「俺を指差すな」


「は?」


クガネの一言で場の空気が凍ってしまう

それは失礼な物言いだったからではない、彼の放つ殺気だ

本当に室内温度が2度ほど下がったのでは? と、

思うほどヒヤッとする殺意が部屋中に広がった


誰もが言葉を失い、呼吸すら忘れて動けずにいる

隣にいる仲間であるはずのカイリですらそうなのだ

2等級冒険者の炎帝の盃のメンバーはもちろん、

その殺意を真正面から受けたイケルはガタガタと震え始めていた


しかし、イケルはまるで金縛りにでもなったかのように動けはしない

指差すなと言われたが下げる事すらできない

本能からくる恐怖が彼の自由を奪い去っていた


頃合いか……


クガネがスッと音もなく立ち上がり、室内にいる者達全ての視線を集める

そして、彼は懐から取り出したダガーでイケルの腹を浅く刺した


チクリという痛みから動けるようになったイケルは悲鳴を上げて後ずさる

それとほぼ同時に炎帝の盃のメンバーが飛び出し、

イケルを守るように盾となった


『こ、殺せぇっ!!』


ダガーは2ミリ程度しか刺さっていなかったが、

腹を押さえながらイケルが叫ぶと、彼の腹がボコッと膨らむ


「ひ、ぇ?」


自身の腹が急に膨らんだ事に驚き、慌てて手で押さえつけようとするが、

ボコボコッと膨らんでゆき、そして……弾けた


「なっ!?」


モールドが驚き、その全身でイケルだったものを浴びている

たった数ミリ刺されただけだった、それは間違いない

だが、イケルの無駄に脂肪の詰まった腹には大穴があき、

背骨まで見えてしまっている


まるで……腹の中が爆発したような……


その考えが浮かんだ瞬間にゾッとする、自身で想像してしまったのだ

それと同時に、どうやったのかを考えていた

明らかに魔法の詠唱は無かった、となればやはりあのダガーだが……

モールドはそこまで考えて1つの答えを出してしまう


『アーティファクトかっ!!』


アーティファクト……たった1本で戦況をひっくり返してしまうほどの武器

2等級冒険者でも持っている者はごく僅かであり、

所有者の大半は英雄と呼ばれる猛者揃いだ


モールドはアーティファクトの実物を見た事はなかった

だが、今の現象は説明がつかない

たったあれだけの傷で人間が吹き飛ぶのだ、まともであるはずがない

そして、炎帝の盃の仲間の魔法使いがモールドの言葉に続く


「ば、爆炎のダガーだと!?

 馬鹿な、あれはラーズで盗まれたはずじゃ……まさかっ!!」


彼は気づいてしまった、今目の前にいる男がその犯人だと

大英雄ドゥヴェルグ・アーグ・トールキンの襲った指名手配犯、

【ウテルケ・タラニス】その人だと


ドゥヴェルグは1等級にも劣らぬ実力を持つ大英雄だ

ワータイガーを1人で30匹も殺したと言われる化け物を相手にして、

互角に渡り合ったと言われている賊ウテルケ・タラニス……


その名は一時期冒険者達の間で話題になったのだ

ウテルケ・タラニスが冒険者だったら1等級は間違いないだろうな、と


気づいてしまった魔法使いの彼は、即座に杖を置き、

両膝をついて頭の後ろに手を回した


「命だけは……頼む」


仲間中で一番賢い彼の意外な行動に驚いたモールド達は、

これまで彼の判断で幾度も助かってきた事もあり、

黙って彼に続いて武器を手放した


モールドが最後だったが、彼は歯が鳴るほど噛み締めている

先程までバカにしていた相手に無条件で降伏しているのだ、

積み上げてきたものがある彼にとって悔しくないわけがない


ナードが彼らを縛り上げ、猿轡(さるぐつわ)を噛ませる

リッキーやハクテは2箇所ある扉から辺りを警戒しており、

カイリは窓から外の様子を伺い、脱出経路を探っている


クガネは念のためイケルが死んだのを確認をとってから、

爆炎のダガーを腰のホルダーに刺した


その様子を憎しみすらこもった眼差しで見ていたのはモールドだ

だが、今の彼には何も出来はしない

クガネは相手にすらしておらず、仲間達に指示を出している


くそっ、どうしてこうなった

何なんだ、何故ヤツがこんな場所に現れた?!

こんなデブ殺しても得にならねぇだろ!


このままじゃ俺たちは笑い者だ

夢の1等級になんて絶対になれなくなる……くそっ、くそっ!


心の中でそんな悪態をついていると、

何を思ったのかクガネが彼に近づいてくる

そして、彼の猿轡を外し、抜け道が無いか聞いてきたのだ


「はっ、教えるわけねーだろ」


「そうか」


クガネはそう言うと、表情すら変えずに爆炎のダガーを抜き、

なんの躊躇いもなく一瞬で彼の喉を軽く突いた


「え、あ……嘘だろ」


チクリという痛みが走り、先程イケルに起こった悲劇を思い出す

恐怖から失禁し、これから自分がそうなると思った瞬間に気が遠のく……

が、喉が膨れ上がり、無理矢理意識が覚醒させられ、彼の喉から上は吹き飛んだ


肉片が飛び散り、頭部が音を立てて転がり、仲間の目の前で止まる

もはや息をしないモールドと目が合った仲間は小さな悲鳴を上げていた

悲鳴を上げた彼の猿轡を外し、クガネは同じ問いを投げる


「私達は聞いた事はありません……い、命だけは」


「そうか」


先程と全く同じ答えに彼は怯えるが、

クガネは彼には何もせずに立ち上がった


「おい、馬は見えるか」


カイリに声をかけ、彼女は頷く


「何頭だ」


「う~ん……正確には分からないけど、5以上は」


「そうか、ならば行くぞ」


爆炎のダガーを抜いた彼の行動の意味を理解し、カイリは窓際から離れる

それを察してか、ハクテ、リッキー、ナード達もカイリの元へと集まった


「そこのを始末しておけ」


クガネの一言はリッキーへと向けたものだ

リッキーにとってクガネの命令は絶対であり喜びである

彼は意気揚々とダガーを抜き、猿轡を噛まされている彼らに近寄る


彼らは逃げようと暴れるがリッキーがそれを許すはずがない

あっという間に喉を裂かれた3つの死体が完成し、

リッキーが死体の服でダガーを拭いていると、クガネが合図を出した


「行くぞ」


慌てて立ち上がったリッキーの目に写ったのは、

クガネが窓側の壁に爆炎のダガーを突き立てるところだった

先程までの小突く感じではない、力を込めて突き刺している


これは爆炎のダガーの効果を制御しているのだ

浅い傷をつけると爆発音が極小の爆発が起こり、

深く突き立てると近くのものを巻き込むほどの大爆発が起こるのである


すぐにその場を離れたクガネが、ソファを盾にするようにしゃがむと、

一瞬焦げ臭いような臭いがしたと思ったら、壁が大爆発を起こした

激しい爆発音と共に壁は吹き飛び、ボロボロと崩れている


煙が晴れる前に動き出し、瓦礫をひょいひょいと避けながら進む

騒ぎを聞きつけた領兵たちが集まってくるが、

クガネ達は既に馬小屋の方へと走っているため見つからない

そして、馬を奪った彼らは全速力で逃走を始めるのだった


混乱に乗じてライネル邸を脱出したクガネ達は、

そのまま街の外へと馬を走らせて姿をくらます


三大貴族とも言われるライネル家の襲撃事件は大々的に取り上げられ、

ドラスリア国内だけではなく、ラルアース全土へと広まっていった


一月後に、ファンブレ男爵領関所襲撃事件と、

今回のライネル家襲撃事件は同一犯との発表があり、主犯格の名が明かされる


その者、クガネ


挿絵(By みてみん)


どこから彼の名が漏れたのかは分からなかったが、

その名にラルアース全土が恐怖したのは言わなくとも分かるだろう

言うことを聞かない子供に「クガネが出るよ」と言い聞かせる

そんな光景が短期間ではあるが実際にあったくらいだ


名が広まったクガネの元に同業者が集まり始めるのも自然な流れであり、

気がつけば彼らの盗賊団爆殺は大所帯になり始めていた……


・・・・・


・・・



ファンブレ男爵領関所襲撃事件・ライネル家襲撃事件があってから7年


爆殺は大所帯になったのもあり、

村を襲い、貴族を襲い、悪逆の限りを行っていた


組織化された彼らを止められる者はいなく、

盗賊団は拡大を続け、今では200人近い人数がいる

もはや大盗賊団と名乗っても問題ないだろう


彼らはアジトを求めてネネモリへと渡り、ある小さな村を制圧した

その村を丸ごとアジトにしようというわけだ


その村の名は……ポロト


クガネの両親や育ての親達が住んでいた集落だ

200人近い盗賊の襲来にポロトの人達は大慌てだったが、

クガネの一言で盗賊の動きは止まり、1人で前へと出たクガネは言う


「今日からここは俺がいただく」


次の瞬間、クガネは何の躊躇いもなく両親を殺害し、

元団長や鍛冶屋のおじさんらも皆殺しにした


一瞬の出来事だったが、その神業とも言える殺人術に、

盗賊たちは大興奮し歓声を上げる……が、クガネの表情は曇っていた


彼は終わらせたかったのだ

遥か昔に憧れた人達がみすぼらしい最後を迎えないように、

せめて最後だけは一瞬で散らせたかったのだ……火花のように美しく


そして、彼ら大盗賊団はポロトの村を大改装し、

更に規模が大きくなろうと受け入れられる施設を建造していった


村の周囲には魔物の侵入を防ぐ壁を作り、

ちょっとした砦のような作りになっている


アジトが完成した頃には爆殺のメンバーは250人になっており、

クガネは30代半ばになっていた


全盛期というものを更新し続ける彼の悪行は、

ラルアースで知らぬ者はいないだろう

技は洗練され、鋭く、素早く、的確に相手を殺す


ありとあらゆる悪行をしてきたが、

クガネの心はどこか満たされなかった……いや、どこかは分かっている

分かっていて彼は見て見ぬ振りを続けていたのだ




そして、ある事に気づいた時、彼の運命は一変する







更新遅くてごめんなさい!

入院とか色々あって遅くなりました。


今、右手首捻挫してまして、次話も少し掛かるかもしれません。

お詫びと言ってはあれですが、おまけ絵でもお楽しみください。




シャルル&サラ

挿絵(By みてみん)




18世紀風のエイン

挿絵(By みてみん)




夏なマルロ

挿絵(By みてみん)




シルト&サラ

挿絵(By みてみん)




休日のオエングス

挿絵(By みてみん)




天使文字でカタクリズム

挿絵(By みてみん)





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