第5話 マウデスファミリー
【マウデスファミリー】
ラーズでの一件があってから10年の月日が流れていた
めでたくお尋ね者となったウテルケとメリィは、
名を変え、戦争孤児の3人の子供を引き連れて国外へと逃亡した
ウテルケ・タラニス……懸賞金・金貨92枚
メリィ・キャラガー……懸賞金・金貨83枚
彼らの人相書きと共に記載された懸賞金目当てで、
数多のゴロツキが彼らを探し、襲ってきたが、
全てを葬り、その数が20を超えた頃には誰も挑んでこなくなっていた
そんな人相書きも風化し、今ではほとんど見かけなくなっている
この10年、彼らはカナランとドラスリアを転々としながら、
ラーズで拾った孤児3人を徹底的に訓練し、
今ではそこらの盗賊では歯が立たないほどの腕利きになっている
2週間かけた仕事を終えた彼ら5人は、
ドラスリアの西の外れにある小さな村アルサイクに来ていた
数ある散村の1つである寂れた村だが、酒が美味い事では知られている
この村の特産品はワインである
アルサイクのワインは貴族すら好むと言われるほど出来が良く、
そのほとんどは首都ドランセルに卸されるが、
商人が買い叩く値段より少しだけ上乗せして酒場で振る舞っているのだ
契約している商人には内緒で提供しているため、
知る人ぞ知る酒場なのだが、裏稼業ではそれなりに有名な店だった
冒険者に依頼するような真っ当な仕事ではなく、
暗殺や盗みなど、裏の仕事が集まる酒場でもあるためだ
酒場"スナッチャーの足音"……表向きは農作業用の倉庫だが、
夜にだけ開かれる特殊な層の客だけが集まる酒場である
簡易的なテーブルと酒樽をそのまま椅子にした、
酒場と呼べるのか怪しい店だが、出す酒とつまみは悪くない
今日の客は彼ら5人と他数名のみであり、賑わっているとは言えないだろう
各テーブルにはランタンが置かれており、
薄暗い店内では互いの顔すら確認しにくい状況だ
だが、この店に集まる客にとっては好都合というわけだ
「今日の俺はどうでした?」
「……悪くはない、だが、よくもない」
「くっそぉ、まだダメかぁ」
若い男が悔しがりながらうなだれる
彼の名はリッキー・マウデス、今年で17になる細身で長身の男だ
彫りが深く、長細い顔をしているため、年齢より年上に見える
しっかりと鍛え上げられた身体に余分な肉はなく、
人より少し長い手足が、長身と合わさって少し不気味さもあった
「そりゃそうでしょ、こないだ聞いたばっかじゃん」
うなだれるリッキーの背をバンッと叩いて励ます少女がいる
彼女の名はハクテ・マウデス、16になったばかりの小柄な少女だ
しかし、16になったばかりだと言うのに胸の成長は著しく、
彼女の着る胸元が大きく開いた服から今にも零れそうである
本人はそばかすが多いのがコンプレックスだが、
その程度のことで魅力を損なっているという事はない
「ははっ、また訓練に付き合うから元気出せよ」
笑いながら酒を飲むこの青年の名はナード・マウデス
3人の中では最年長の19歳であり、兄のような存在だ
バランスの良い肉体をしており、見ただけで腕利きなのが分かる
2人の金髪とは違い、黒い短髪の男だ
ナードはお世辞にも男前ではないが、
自信家なところと積極性のおかげか、女性に困った事はない
「アンタら、今日はよくやったよ」
3人の前に酒がなみなみと入ったジョッキを置き、
それぞれの頭を乱暴に撫でたのは元メリィ・キャラガー
今の名はカイリ・マウデスである
10年前とほとんど変わらぬ見た目であり、その美貌は維持したままだ
むしろ当時より美しさに磨きがかかったと言ってもいい
少しだけ伸ばした髪が、彼女の女性らしさを強調し、
余分な肉のついていないスリムな身体に不釣り合いな胸元が目を引く
「ありがとう、姉さん」
「ありがと!」
「……ホントか?」
リッキーは若干涙目でカイリを見上げると、
彼女は彼の頭を勢いよくシェイクしてから手を放す
「当然だろっ、あたしが育てたんだぞ?」
「でも……」
リッキーはチラリと目の前の男を見る
先程、自分の評価を聞いた相手だ
「こいつは厳しすぎんだよ、気にすんな」
「ふんっ」
鼻で息を吐き出し、男は酒をあおる
丁度その時、酒場の店主が彼らの元へと寄って来た
「どうもどうも、いつもご贔屓にしていただいて……」
「御託はいい、要件を言え」
ぺこぺこと頭を下げながら店主は額から脂汗を流し、
それをハンカチで拭きながら口を開く
「爆殺に依頼でございます」
「指名か?」
「はい、そのようで」
「分かった、受けよう」
内容も聞かずに即答する男……元ウテルケ・タラニス
今はクガネと名乗っている
「またそうやって内容聞かないで引き受ける、あたしいつも言ってるよね?」
カイリの小言が聴こえるが無視をして店主に続けるよう促すと、
店主は2人の様子を伺いながらも口を開いた
店主が言うには今回の依頼は暗殺だ
クガネはそれを予想しており、カイリを一瞥するが、
彼女はため息をついてから酒をあおっている
暗殺……単純な盗みより遥かに実入りはよく、
回数を重ねれば重ねるほど彼ら"爆殺"の評判は良くなり、
こうして名指しの依頼が増えるというわけだ
元戦争孤児である3人に経験を積ませるのにも役立つため、
ここ数年の彼らは主に暗殺の仕事を生業としていた
今回の目標はドラスリアの貴族、
フィード・インス・ファンブレ男爵である
ファンブレ家は王国の北西にある海岸より少し南の地を領土とする、
メジードという獣を紋章に掲げるライネル家の派閥に属する家であり、
違法な海産物の横流しを黙認する事で財を得ていた家である
正直に言ってしまえば小物だ
クガネたち"爆殺"に依頼するほどではないようにも思えたが、
仲介人である店主が目標を「もう1つ」と付け加える
もう1つの目標もまたドラスリアの貴族である
だが、先程のファンブレ男爵など相手にもならない大物だった
イケル・エギ・ライネル……ライネル家の次男であり、継承権第2位の男だ
次男坊がなぜそんなに大物か……
ライネル家ほどの大貴族ともなると、万が一が起こってはならないため、
跡継ぎの"予備"として大事にされているのである
そして、この2人の目標を聞き、
クガネはある結論にたどり着く
「雇い主はトレイド家か」
「依頼主の詮索はご遠慮願います」
暗殺の依頼だ、胸を張って名を名乗る依頼主がどこにいようか?
真っ当な依頼ではないのは明白であり、
店主の言い分もしょうがないというものだ
「わかっている、報酬は?」
「前金で金貨20、残り70は依頼完了時に」
そう言って店主は金貨の入った革袋をテーブルへと置く
チャリという硬貨が鳴る音がし、カイリが嬉しそうに飛びつく
さっそく金貨の枚数を数えはじめ、クガネはため息をついた
「前金を10足せ、相手はライネル家だ、用意がいる」
どうせあるのだろう? と睨みつけると、
店主の額から脂汗が1つ流れ落ち、
少ししてから懐から金貨袋がもう1つ出てきた
「確かに引き受けた」
金貨が10枚入った袋を握り締め、クガネは酒をあおる
袋の中で金貨が擦れ、ジャリっと音を鳴らし、
空になったジョッキをテーブルへ叩きつけて席を立つ
「お前ら、忙しくなるぞ」
クガネのその言葉に皆はニッと微笑むのだった
・・・・・
・・・
・
数日後
カイリ、リッキー、ハクテ、ナードの4人は、
荷台にそれなりの量を積めそうな馬車に乗っていた
その荷台には大量の大タルが並んでおり、
ほのかにワインの香りが漂っている
ナードは荷台で剣の手入れをしながら外を眺める
天気はいい、気温も花が芽吹く季節らしい暖かさだ
この季節は天候が荒れる事が少なく、
先の計画を立てやすいので彼は気に入っていた
大タルの隙間で狭そうに寝転がっているのはリッキーだ
彼はクガネ直伝のダガーの使い手であり、
師であるクガネから貰ったダガーが何よりも宝物である
この3人の中では長身のクガネに体型が近いこともあり、
彼の戦い方を直接教わったのはリッキーだけなのだ
ハクテは馬車を操るカイリの横に座っている
彼女はカイリのナイフ術を全て叩き込まれ、
男を操る術……そのテクニックも教わっている
リッキーは何度か練習台にされ、簡単に落とされていた
しかし、ナードには一切通じず、彼女の心が折れかけた頃、
カイリがナードの秘密を耳打ちしてからは自信を取り戻している
馬車はゆっくりと街道を南下しており、
先程まで見えていた海が見えなくなっているため、
おそらくファンブレ男爵領へと入ったのだろう
暇を持て余してか、ハクテがあれこれとカイリを質問攻めにしているが、
彼女にとってカイリとは母であり姉であり命の恩人なのだ
聞きたい事は山ほどあり、教わりたい事だらけなのだ
いい加減、質問攻めにも疲れ始めたカイリが、
後ろで暇そうに寝転がっているリッキーと、
念入りに剣の手入れをするナードを見て言う
「あんたら、仕事まで時間はあるけど、
もうファンブレ男爵領入ってるよ、そんなもんしまっておきな」
その言葉でリッキーは渋々ダガーを取り出す
ナードは最後に剣のチェックをしてから荷台の床板を1枚剥がし、
現れたくぼみへと剣とダガーを隠した
「それでいい、あたしらは商人なんだからね」
ガタガタと馬車が揺れ、道が荒れているのが臀部から伝わってくる
先程までの海沿いの土地はトレイド家の領土であり、
ドラスリアでも指折りの貴族であるため、
道の手入れがしっかりと行き届いている
道を見れば領主の財力が分かると言われるほど、
ドラスリアの貴族たちは道に金をかける傾向があった
しかし、ラーズ国の首都のような石畳は莫大な費用が必要であり、
ドラスリア国内では首都ドランセルの王城付近と、
ラシュフォード邸以外には存在していない
裕福さで言えばラーズとドラスリアは同等だが、
ラーズは国家の事業として道の舗装を行っている
比べてドラスリアはというと、貴族は家という枠で隔たれており、
ラーズのような一枚岩ではないのだ
では、トレイド家とファンブレ家の道は何が違うのか?
答えはとても簡単なものだ……それは小石である
トレイド家ほど大きな家になると、道の小石を1つ1つ撤去しているのだ
かの家ともなると領土の大きさはかなりのものであり、
単純に道と言ってもその長さは途方もない
その費用ともなると、そこらの貴族では到底出せない額になるだろう
道が悪ければ通行に時間が掛かるため、商人たちは嫌う傾向がある
さらに、馬車の傷み方も激しいため、より良い道を選ぶのだ
その結果、商人たちが道の良い地域に金や物資を落とし、経済は回る
道は金を生む鶏というわけだ
弱小貴族であるファンブレ家には道の手入れをするほど余裕はなく、
大きな岩こそ無いが、あちこちに小石があり、くぼみには水が溜まり、
獣道より幾分ましと言った程度のものだった
しかし、この有様は酷い訳ではない
ラルアース地方の大半は似たような状態なのである
ごく一部の裕福な地域が特別なのだ
徐々に道が荒れ、馬車の揺れが激しくなってしばらく経った頃、
丘の上の方にある木々の隙間から白い石灰の壁が見え始める
ファンブレ男爵領の街"アラゴストーン"だ
ファンブレ男爵領を通る者はアラゴストーンを通る事となる、
それは必ずと言っても過言ではない
海のある西側は崖となっており、
その反対側である東側には大地に深い亀裂があるのだ
地形的にこの街を必ず通るように出来ているのである
そのため、関所が構えられている街でもあった
ドラスリア国内にある関所で税を取られる事は基本的には無いが、
厳しい検問があり、国内に不穏分子が入らぬようになっている
ここはドラスリアにとって重要拠点でもあるため、
領主フィード・インス・ファンブレ男爵はこの街に滞在しているはずだ
関所の通行管理を担っているためである
関所は巨大な門と言えば分かるだろうか、
分厚い石灰と積み上げられた石壁、高さ6m近くある壁だ
そして、その厚みもかなりのものである
関所内には検問する場が設けられており、
違反者がいた場合はその場で刑を執行できるようにもなっている
関所を入ると、まず馬車がギリギリ通れるトンネルを抜ける事となる
トンネルを抜けると少し拓けた場所に出て、荷物などの検査が行われる場だ
その様子を3mほど高い位置から見下ろす形で男爵は鎮座している
この広間の四方八方には小窓があり、弓を構えた兵が配置されていた
更に、頑丈な鉄格子が入り口と出口に設置されているため、
違反者が出た瞬間に鉄格子は降ろされ、
閉じ込められた者は全方位からの矢に屈するという訳だ
検問の列に並んだカイリたちは長時間待たされたが、
徐々に列は進み、やっとトンネルを抜けるところだ
長時間狭い空間にいたせいか、解放感から「ふぅ」と一息吐く
関所内は広く、天井も高い
この広間は高さは5m、奥行20m、横幅40m近くあるだろう
数台の馬車が横一列に並び、それぞれ2名の検問官がついている
検問の簡単な流れは、まず武器の類があるならば机の上へ置く
次に通行手形がある者は提示、無い場合は通行料を用意する
両方無い場合はその場で追い返される事となる
次に身体検査が入り、検問官が1人1人の身体をまさぐり、
武器があれば取り上げ、その間に通行理由を問いただす
問題ない場合は荷馬車の検査に入るが、
仮に問題があり、検問官では判断できない場合は、
ファンブレ男爵の出番というわけだ
荷馬車の検査も終わるとやっと解放されるわけだが、
武器の返却は門を出てからなため、出口もまた並ばなくてはならない
返却の際には番号の書かれた木札を提示する必要がある
これは武器を預けた時に受け取っている物だが、
稀に失くす者がいるため、出口もまたよく混むのだ
カイリは伸びをしながら辺りをくるりと見渡す
小窓の数は24……その全てに弓兵が配置されている
検問の列は4,各2名の検問官がいるため、8人の検問官がいる事になる
入り口と出口のトンネル前にも2名ずついるため、4人追加だ
奥側の壁の高い位置に鎮座するファンブレ男爵の背後には、
魔法使いらしきローブの男が1人と、
フルプレートの大柄な男が2人、おそらく近衛兵だろう
伸びをしながらくるりと一回転しただけでカイリはその全てを把握した
これがプロの為せる技である……が、先に知っていた情報でもあった
この規模の関所だ、奥には最低でも兵士が数十は居るだろう
本来であればここで事を起こすのは得策ではない、
関所とは守る側が圧倒的に有利なように作られている施設だからだ
問題を起こせば即座に男爵は施設内へと退避し、
四方八方からの矢の雨に倒れる事となるのは明白である
だが、貴族であるファンブレ男爵をこの距離で狙える機会は、
この場以外に無いと言っていいだろう
カイリたちは列の一番左端に案内される……好都合だ
中央に通された場合が最悪だったが、これは一番いい位置とも言える
ファンブレ男爵からは一番遠い場所とも言えるが、
一番厄介なのは小窓から狙っている弓兵だからだ
矢は近いほど回避は不可能になる
逆に、距離さえあればどうとでも出来るというわけだ
カイリたちが調理用のナイフなどを机に乗せると、
検問官がカイリとハクテの身体を下から舐めるように見る
検問官たちが何かを耳打ちし、下卑た笑みを浮かべると、
リッキーとナードの身体検査を荒っぽくも適当に済ます
その間、検問官は特に質問する素振りはなかった
待ってましたと言わんばかりに下卑た笑みを浮かべたまま、
カイリとハクテに近づく検問官は、明らかに検査以上の目的があった
カイリを担当する検問官はいきなり彼女の胸に手を伸ばし、
下から持ち上げるように胸を弄ぶ、その手付きはいやらしいものでしかない
背後から身体を密着させ、あちこちに手を這わせ、
顔を近づけて耳打ちするように問いかけてくる
「名字が同じだが、お前らは家族か?」
「はい、戦争孤児の集まりなので血は繋がっていませんけど」
嘘は言っていない、こういった真実もまた相手を騙すテクニックの1つだ
「なるほど、だから似ていないのか」
「はい」
「では、通行の目的はなんだ?」
「アルサイクのワインをライネル様に届けるところです」
カイリは嫌な顔一つせずに笑顔で答える
むしろ、彼の下腹部へと手を這わし、頬をこすりつけた
「ふひっ、なんだ、お前ら売りもやってるのか?」
売り……商売女、ようは娼婦かと聞いている
男がだらしない声で聞いてくるが、カイリはいつも通りの態度で接した
「こんな時代ですから、商人だけじゃ……ね?」
猫が甘える時のような、まとわりつく甘ったるい声で言うと
「へへっ、たくましいねぇ」
検問官は下腹部を硬くしながら擦りつけてくる
一方、ハクテの方はと言うと、カイリと似たような状況だ
まだ少女のハクテの身体を不必要に撫で回す
そして、彼女の身体で唯一少女らしからぬ部分、
たわわに実った果実を服の上から揉みしだき、検問官は彼女の耳を舐める
こういった性的な嫌がらせは日常的にある事なのだ
検問官に逆らえば罰を受けるため、一般人は耐えねばならない
そのため、こういった行き過ぎた行為が常態化してしまっている
若い女たちは関所を通るだけでも一苦労なのだ
一部の女たちはわざと汚い格好をし、
馬糞などを肌に擦りつけ、こういった嫌がらせを避ける時もあるという
すでにリッキーやナードにかけた時間の3倍はかかっているが、
まだ不必要に念入りな身体検査は続いている
「おい、足をひらけ」
カイリを担当していた検問官が舌なめずりしながら言う
流石に呆れたといった感じでリッキーとナードはため息をつき、
鋭い視線を検問官に向けようとするが、カイリが笑顔で首を振る
「どうそ」
カイリは必要以上に足をひらき、まるで見せつけるように微笑む
気分をよくした検問官の顔はだらしなく歪み、
彼女に抱きつくように身を寄せてから下半身に手を這わす
「女には隠せる場所がもう1つあるからな、ここは念入りに……」
男の手が下着の中にまで入ってくる、
さすがの彼女も不快感を隠すのがやっとだったが、
しつこい検査が続く中、カイリが検問官に言った
「あの子、ハクテは生娘だから勘弁してやってくれませんか」
その分は私が……と彼女は淫靡な雰囲気を見せる
「そ、そうだな……しかし、これは大事な検問である
本当に処女かどうかは確認させてもらう必要があるぞ」
「えぇ、構いません」
彼女は検問官の手を握り、グッと押し込むように力を込める
「おお……へへっ、おまえ好き者だな」
「お願いしますね」
「お、おう」
検問官はハクテの担当をしていた男の元へと行き、
彼に耳打ちすると、その彼は舌打ちしていたが、
分かったからあっち行けと言わんばかりに手を払う
カイリの担当が戻って続きを始めると、
ハクテの担当が彼女の下着を下ろし、足をひらかせる
「自分でひらいてみせろ」
「はい」
ハクテは顔を真っ赤にして恥辱に耐えていた
だが、この男は自分が楽しめない腹いせに、
彼女にさらなる恥辱を与えるつもりだった
「暗くてよく見えんな、お前、その机に寝て足をひらけ」
「え…………はい」
黙って従うしかない、ハクテは机に乗り、
スカートをたくし上げ、大勢の人の前で足をひらいた
「自分でひらけ、確認のためである」
「……はい」
検問官は荒い鼻息が当たるような距離でまじまじと観察する
これには流石にリッキーがキレそうになるが、ナードが彼の腕を掴み目を瞑る
噛み締めた歯がギリギリと音を鳴らすが、耐えるしかなかった
しばらくして長い長い身体検査が終わり、
遅れていた分だけ荷馬車の確認は適当に済まされ、やっと解放される
馬車に乗ったハクテの口角が上がり、邪悪な笑みになってゆく
「あいつ、私の獲物ね」
「ハクテ、あんたは弓兵でしょ、何言ってんの」
即座にカイリのツッコミが入るが、ハクテの邪悪な笑みは変わらない
完全に目が殺人鬼の"それ"になっており、こうなっては止まらないだろう
まだ幼い彼女はこういった時に歯止めが効かないのが甘いところである
「しょうがないわね……リッキー、ナード」
「ん?」「なんだ?」
荷台の床板を剥がしながら2人が振り向く
「ハクテを辱めたあいつだけ殺さないで」
「チッ……わぁったよ」「任せろ」
ナードは隣のリッキーの背中を軽く叩き、彼の宝物であるダガーを手渡す
受け取ったリッキーからは情けない雰囲気は消え、
暗殺者の"それ"へと変わってゆく
彼らが何故あんな無意味な検問を甘んじて受けたのか……
それは、検問後の馬車は完全にフリーになるからだ
警戒するべきは検査前の奴らであり、検査を通った者からは興味は失われる
それは大きなスキとなり、奇襲には最高のタイミングとなる
「さぁ、仕事の時間だよっ!」




