最終話 「エピローグとプロローグ」
あの戦いから、3ヶ月程が経過した。
その頃には怪我を負って入院していたメンバーは全員、俺も含めて無事退院していた。
雄生の能力でさっさと治癒してしまわなかったのは、病院側から不審に思われないようにという響人の案からだ。
もっとも、命が危なくなったり重い後遺症が残るかも、というなら話は別だったが、そうならなくて何よりだ。
また、話を聞く所によると、発端となったヘルメットの男——千馬楊太郎は病室で死体として発見されたらしい。
師藤環は……俺たちの目の前で雲村見児に殺された。
だから、千馬の死は見児の仕業で間違いないだろう。
そして、奴は銃弾の雨を浴びても死なずにその場を去り、残りの連中も殺しに行くと言った。
最終的にどうなったのか……それは誰にも分からない。
あの後、見児を追った荒里狩真が返り討ちにしたかもしれないし、逆に殺されてしまったかもしれない。
参考になるかは知らないが、偽造と一緒に搬送されて来た夜乃幽永は、病室から忽然と姿を消し、その後行方知れずになっている。
何もかも終わった直後は、色々と騒ぎになった。
警察の聴取も何度か受けたが、説明できるわけもなく、結局ガスに引火して爆発が起きただか、そんな結論に達したそうだ。
とまあ……こんな風に淡々と回想してると、冷めてる奴だと思われるかもしれないが、どう反応していいか俺だって分からないのだ。
敵対して、それこそこちらを本気に殺しにかかってきた連中が、実に呆気なく目の前で殺された。
人が死んだんだ、喜んでいいわけない。
かといって野放しにも出来ず、警察の手に負える男でもないだろう。
だったらこれが最善なのか……?
いや、どうしてもそうは思えない。
というかまず、目の前で人が殺された。
この事実が、俺の中にずっとへばりついている。
正直、あの時は吐きそうだった。
あれは一介の高校生が経験するものではない。
今思い出しただけでも気持ち悪い……。
しかも結局、見児が何者なのかも分からずじまいだ。
まあ色々と脳内で説明してみたが、これまでの出来事が嘘か夢であったかのように、俺たちは普通に生活していたのだった。
「…………」
「ん?」
回想を止め、机に頬杖をついたまま目線を教室の窓から外した時、偽造が俺の顔をじっと見ているのに気づいた。
「なんだよ。ジロジロ見んな気持ち悪い」
「いや、そんな辛辣に当たらなくても。傷残ってるなーって思っただけだよ」
偽造はヘラヘラ笑いながら言った。
そう、あれが嘘や夢なんかじゃないと証明するように、俺の顔には傷跡が残っていた。
師藤環の斬撃を食らった時の、額から眉間を通って、右頬までを縦断する大きな傷跡だ。
俺以外にも多少の傷跡が残ってる奴はいると思うが、こんなに目立つ位置にあるのは俺だけだろう。
「俺は別に気にしてねーけどな。家族には泣かれたけど……」
「あの時の凛さん凄かったよね」
「ああ……かなり心配かけちまったからな」
考えたくないが、あの時は死んでもおかしくない状況だった。
ブレードの事を知る姉貴は、尚の事気が気でなかっただろう。
申し訳ない。
「さて、弁当食いに屋上行くか」
「だね」
適当に話を切り、俺は弁当を持って席を立ち、教室を後にした。
偽造はビニール袋を下げ俺について来る。
階段をせっせと登りきり、屋上のドアを開けた。
あれから3ヶ月程……すなわち今は夏だ。
夏服に衣替え(適当なシャツの上にカッターシャツを羽織ったスタイル)とはいえ、照りつける直射日光と床からの熱のはさみ打ちは割と堪える。
日の光に目を細めつつも、正面に4人の人影を確認出来た。
「待ってたッスよ」
「カムイさん!」
「………よう」
「これで6人揃ったね」
雄生たちは、俺たちをにこやかに迎えてくれた。
一緒に戦い、死線を潜り抜けてきた戦友——親友たち。
誰1人欠けることなく、俺たちはまたこうやって過ごしていける。
それがたまらなく嬉しく感じた。
しつこいかもしれないが……本当に全員無事でよかった。
「待たせたな」
「いやあ、お待たせお待たせ」
おれと偽造は足を軽くして、輪の中へと入った。
ブレードを巡る俺たちの物語は、ここでひとまずの終結を迎えるのだった。
再び始まるその時まで。
*
その薄暗い部屋は、何かの実験施設のように見受けられる。
だが今現在、ここでは何の研究もされていないと一目で分かるだろう。
爆発にでも巻き込まれたか、そうでないにしても並大抵でない何かが起きたからか、廃墟同然の有様であったからだ。
その部屋を仕切っていた筈の強化ガラスは粉々になり床に散乱している他、壁も天井も床もヒビ割れだらけで、正に人の管理から外れているという風だった。
そのボロボロの部屋にある、これまたボロボロで年季の入った作業椅子に、男が1人座っていた。
彼は暗がりの中、ボール状の『なにか』を手に持ちじっと眺めている。
そして彼が狂気を内包した笑みを浮かべたのとほぼ同時に、部屋の鏡から誰かが現れた。
「よお。……へえ、パンクな格好じゃねえの」
その人物——雲村見児を一瞥し、彼はそう漏らした。
至る所にヒビが走っており、顔の左目付近と右腕はない。
体にはカーテンのような長い布を、砂漠の旅人のように纏っている。
「随分と損傷がデカイらしいな。あれか? 作ったブレード使い全員敵に回したか? そんでもって、体を微塵切りにされた後すり潰されでもしたのか? ん?」
男は笑みを保ったまま、見児に話を振り続ける。
「……ボクがキミにそんな事を逐一報告すると? 御免だね、絶対」
見児は不機嫌そうな口調でそれを突っぱねた。
彼等全般が嫌悪の対象である見児だが、この男はその中でも別格で不愉快だと認識していた。
口を聞くのも、目の届く範囲にいるだけでも穏やかな気分が保てなくなる程の嫌悪が篭る。
「ツレない事言うなよ。オレ達仲間だろう? な・か・ま〜ァ」
煽るように、嘲るように、男は椅子から立ち上がり、見児の方へ歩み寄った。
距離が近くなったため、男がずっと手に持っていたボール状の物体が、見児の目にはっきりと写る。
少女の頭だ。
その端正な顔は恐怖の表情に歪み、頬には涙が伝ったような後がある。
栗色のショートヘアはサラリとしており、よく手入れされているような印象を受ける。
綺麗に切断された首の断面からは、赤い液体が滴っている。
それはつい最近完成したばかりの、少女の生首だった。
男はそれをチラリと眺めては、口元を更に釣り上げて見せた。
見児の中で嫌悪感が増大を続ける。
何故自分は、こんな奴と同じ空間にいるのだろうか。
そんな感情を隠すつもりもなく、見児は部屋から出て行った。
「近くにいるだけで苛立ってどうにかなりそうになるよ。……キミ達『師藤』ってヤツは」
「ククッ。褒めてくれてアリガトよ。優しい優しい見児クン」
男は生首を自分の顔近くまで持ち上げ、頬にキスをした。
狂気を体現したような振る舞いを見せた後、男は再び椅子に腰掛ける。
「アイツ、さてはオレ以外の『師藤』に会ったな? どんな奴だったんだか」
男は生首を撫でながら、1人呟いた。
この時、生命が途切れている筈の少女の目が、1度だけ瞬いた。
TO BE CONTINUED




