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第49話 「銀の狐と黒い蛇-終-」

 炎のように波打った長い刀身は、どこか神々しい存在感を放っている。

 そして鍔からは、白い毛に覆われる動物の尻尾を連想させるものが9本伸びていた。

 明らかに今までのウカノミタマじゃない。


 何がなんだか分からないけど……僕の願いに応えてくれたのか?

 そうだとしたら、僕の方もやる事ならなきゃね……!


「くっ……う」


 ズタズタの体を気合いで起こそうとする。

 腕で上半身を持ち上げ、そのまま膝に体重を移して……。


「ッ……!」


 うまく力が入らず、体は前によろめいた。

 手を床について倒れる体を支える。

 吐血するほどの重傷なんだ……立つだけで負担になるのは当たり前。

 その上僕は、これから幽永君を倒さなきゃならない。

 体に鞭打つどころの騒ぎじゃないけど……それでも僕は……!


「ホレ」

「……?」


 僕を見かねてか、幽永君が手を差し伸べてきた。

 僕を見下ろしながら、ワクワクを抑えられない様子で口を開く。


「ここに来て、話に聞いたブレードの進化が見れるとは思わなかった。早く立って続きを始めようぜ!……お前もその気だろ?」

「……ああ。僕は君に勝たなくちゃいけないからね……。でも」


 ぼくは幽永君の手を払い、膝に手をつき、ブレードを杖に見立ててなんとか立ち上がってみせた。


「戦ってる相手に手を借りて立った……なんて言ったら、みんなに笑われちゃうだろう?」

「……カハハ! 違いねえ!」


 一瞬は驚いたようだったが、幽永君は楽しげに笑い飛ばした。

 そして少し距離を取り、大蛇を後ろに従える。


 なんとか立つ事は出来たけど……正直もう倒れそうだ。

 でも次倒れたら、多分もう立てなくなる。

 激しい動きとかもってのほか……。


 それにこのブレード。

 ……能力は全く変化なし?

 いやでも、外観こんなに変わって同じって事はないんじゃ……。


「行くぞ!」


 幽永君は足場をひと蹴りし、一瞬で僕の目の前まで来た。

 そしてその右拳を、何のためらいもなく僕の鳩尾に叩き込む。


 けが人相手に容赦ないな!

 僕は体を右に傾けて躱そうとするも……。

 間に合わな——


「ん……?」

「へえ、よく躱せたな!」


 アレ……躱せてる?

 絶対食らったと思ったのに。

 全快でも間に合わない位のレベルなのに……。


『グルァァァァ!』


「!」


 そう考えたのも束の間、既に大蛇が迫って来ていた。

 冗談じゃない!

 あんなの2度も食らったら本気で死ぬ……!

 ッ……クソ、足が重い。

 次こそ当たる!

 なんとか、なんとか躱さないと……!


「……⁉︎」

「そのけがで……大したもんだな」


 大蛇は、僕がさっきまでいた場所に突っ込んでいた。

 また躱せてる?

 なんで。


 というか、さっきから何かおかしい。

 あれだけ近づかれてから躱してたんじゃ、間に合う筈がないのに。

 2回ともすんでのところで避けられた。

 これは一体……。


 その思考を遮るように、幽永君は僕に接近してきた。


「3度目は躱せるか⁉︎」

「……」


 疑問を解消すべく、その動きをよく観察する。

 僕がなんとか攻撃を躱し続けられたのは、このブレードが関係してるんじゃないか。

 そうだとしたら、どんな能力が発動してる?

 既に拳がすぐ近くまで迫っているけど、もう少し……。

 よく見るんだ。


「……これは」


 その結果、妙な事が目の前で起こっていたのに気付いた。







 僕の前にいる幽永君の体が、若干透けているように見える。

 そしてその幽永君越しに……もう1人、幽永君がいた。

 いやまさか、幽永君が2人いるわけはない。

 じゃあこれはなんだ?


 ともかくもう限界だ。

 僕は手前の幽永君の攻撃を横に躱そうとする。


 普通躱せない距離だ。

 でも今までは何故か躱せた。

 ……その理由がたった今分かった。


 幽永君の拳は、僕の体をすり抜けたのだ。

 そしてそれを追うように、後ろにいた幽永君の拳が空を切り、前にいる幽永君と重なる位置に到達する。

 その頃には、僕は幽永君の攻撃を完全に躱しきっていた。


 これはつまり……僕は、幽永君の動きを予知したのではないか?

 手前にいる幽永君は、いわば未来を映し出した立体映像。

 映像だから触れなくて当たり前。

 未来の映像を基準に躱せば、実際の攻撃をなんとか躱す事が出来る……!


「そういう事か……」

「……?」


 幽永君も、少しおかしいと思い始めたようだ。

 こんな手負いが何度も攻撃を躱せているのは流石に妙だと。

 まあいくら未来が見えたって、いつまでも躱し続けられる程の余裕はないから、どうにか攻めに転じて……出来れば、1撃で倒せれば。


 そう思って自分のブレードを見た時、さっきと様子が違うのに気付いた。

 9本垂れ下がっていた尻尾が、いつの間にか8本に……つまり、1本数が減っている。

 更に残った内の1本が、他に比べて少し短くなっていた。


 謎が解けたと思ったら、また新たな疑問が生まれた。

 困るな、切羽詰まった状況だっていうのに。


「……さっきからギリギリで躱されてるの、もしかして進化したブレードが関係あるのか?」

「……さあ、どうだろうね」


 やっぱり幽永君も勘づき始めてる。

 ……勝つ案はなくはないけど、上手くいくか?

 いや、やるしかない!


「ホラ来なよ。どうせ僕は碌に動けない……待ち戦法って嫌われやすいけど、それしか手立てが無いんだ。だから君が何かしないと、僕もどうしようもないんだよね……」

「なんだそりゃ。挑発になってねえよ。そんなんに乗ってやる俺に見えるか?」


 幽永君は両手を広げ、やれやれというジェスチャーをする。


「違うのかい?」

「これが違わないんだな、困った事に」


 笑いながらそう言い、幽永君は指を鳴らした。

 同時に、待機していた大蛇が僕に向かって突っ込んでくる。

 手前に見える立体映像を基準にそれを躱す。

 そうすれば大蛇の本体は僕を捉えられず、家の壁に激突して風穴を開けた。


「へえ……さっき僕はこれを食らったのか。よく死ななかったよ……」

「久々に出てきて、コイツもちょっとずつエンジンかかってきたのかもな!」


 大蛇の次は幽永君の攻撃が迫ってくる。

 体を回転させ、僕の側頭部めがけて回転蹴りを繰り出してきた。

 それをバックステップで躱し、壁に背をつける。


 畳み掛けるように、大蛇が僕に接近してきた。

 今度は横に躱し、大蛇はまた壁に新しい穴を作り出す。


 ……まだまだ遠いな。

 ふとブレードを見ると、尻尾の数が6.5本位までに減っていた。


 次に大蛇は、自らの尾を持ち上げ、僕に向かって振り下ろしてきた。

 それも横移動で躱し、僕が立っていた場所に叩きつけられる。


 その風圧で少しバランスを崩したところを、接近してきていた幽永君は見逃さなかった。

 僕の鳩尾に拳が近づいてくる。

 際どかったが、それもなんとか横に動いて躱す。


 ——これが幾度か続き、気づけば僕は家の1階を1周していた。

 大蛇の攻撃により、壁にはそこかしこに穴ができている。

 そしてブレードの尻尾の数は、残り3本までに減っていた。

 流石に察しがつく……これは残り時間だ。

 9本から徐々に減っていって、全部の尻尾がなくなった時、このブレードは解ける……。

 残り時間は、もう僅か。


 そんな中、幽永君が語りだした。


「この家……ボロボロになってきたな。ヤマタノオロチが暴れすぎたせいで。そう……崩れそうな位にな」

「‼︎」


 僕を見つつ、笑いながらそう言った。

 ……逆ドッキリにかけられた気分だ。

 僕が考えていた彼を倒す最後の手……。

 それはまさしく、この家を倒壊させ、それに幽永君を巻き込む事だったのだ。

 それを見破られていた……。


「気づかないと思ったか? まあアイデアは悪くないと思うが。いつ崩れるかは不確定だとか、崩れる家の中で俺が突っ立ってるわけないとか、お前はどうやって逃げるのかとか、疑問はいくつかあるが……その意味不なブレードなら、なんとかできそうだよな」

「……」


 やれやれ……。

 見破られてたなら仕方ないや。


「もう躱させねえ。終わりにしてやるよ」

「!」


 大蛇は自分の体を使い、円形に僕を取り囲んだ。

 今までのと違い、立体映像を見てもこの体じゃ躱せない……。

 それを見越しての行動だろう。

 前後左右は真っ暗に遮られた。

 下は床。

 あとは真上しかないが。

 僕が見上げた時点で、既に大蛇が僕を見下ろしていた。

 上下左右前後、全て覆われた。

 逃げ道は、もうない。

 逃げられない。


「そう……もう逃げられない。僕も、君も」


 まあ、最初から逃げる気なんてないんだけどね。


 最初にブレードを床に突き立てた時から確認済みだ。

 初めてウカノミタマの能力を知った時と同じように……突き立てた部分がゴムのように変化した。

 つまり、元の能力も、そのまま残っているんだ!


「! なに⁉︎」


 幽永君の驚いたような声が聞こえた。

 最初から……今もずっと、僕はブレードを杖代わりに床に突き立てている。

 だから、幽永君の足元だけをぬかるませ、即座に固めるなんて簡単だ。


 そして……穴だらけの壁を……ボロボロの基礎を……なんでもいい、脆くてすぐ崩れる物質へ‼︎


「崩れろォ‼︎」

「しまッ‼︎……」


 崩れる壁、落下してくる2階。

 信じられない程軽い音で崩れた壁、鼓膜を全力で殺しにかかる轟音と共に落下した2階。


 僕はその様を見る事は出来ない。

 何故なら、見渡す限り真っ暗に……僕の周りは覆われていたから。

 幽永君の従える大蛇がバリケードとなり、僕には木片1つ落ちてこなかった。


『シャウアアアァァァァァァァァァァアァァ‼︎‼︎』


 大蛇は目をひん剥き、非常に苦しげな咆哮をあげる。

 ダメージを受けたって事はないだろうから、幽永君にダメージが通ってるんだろう。

 次第に全身に亀裂が走り始める。


『ガ……………ルァ………………ァ』


 いよいよ消滅間近のようだ。

 死にかけが絞り出したような、耳障りの悪い呻き声を放っている。


「クッ……ゲホ」


 僕は思わず立膝をつき、立て続けて血を吐いた。

 やっば……もう限界みたいだ。

 3本あった尻尾も、いつの間にか残り1本になってるし。


 というか、この大蛇が消えたら僕も下敷きになるんじゃ……。

 なるようになるかな。


 そう言えばこのブレード、もうウカノミタマとは別物と見た方がいいよね。

 改めて名前をつけないと。

 実は一目見た時にもう浮かんでたんだけど。







 ……『キュウビ』。

 うん、いい名前だ。


 その瞬間、僕の意識は彼方に消えた。







 立てかけられた鏡から、少年が姿を現した。

 息も絶え絶えな上、意識を失った自分より大きいもう1人を肩に担ぎながら。


「……」


 外は彼の大方の予想通りの騒ぎだった。

 突然塀が轟音を上げ吹き飛べば無理もない。


 だがそんな事、今の彼にはどうでもよかった。

 とても満たされた気分で、自分の担いでいる少年に目をやる。


 こんなに楽しいのは初めてだった。

 本当に全力を出したのは初めてだった。


 気を失った少年は重傷だ。

 血を吐いたのだから、内臓を損傷した可能性もある。

 だが、そんな彼を担ぐ少年も同等だ。

 家の下敷きになった上……その脇腹には、そこそこな太さの木片が突き刺さっている。

 立っているのが、ましてや人を担いでいるのが不思議なレベルだ。


「ガフッ!……チィ……ヤッベ」


 血を吐き、悪態をつきつつも、その表情は笑顔だった。

 周りの人は屋敷の方に気を取られ、彼らには気づかない。


 救急車のサイレンが、徐々に近づいてきた。

 それに比例するように、彼の意識は闇の中に引きずり込まれてゆく。


「……楽しかったぜ、偽造…………今までで1番な……………」


 遠のく意識の中、彼は最後にそう零し、満足気な表情でその場に倒れ伏した。

ブレード名:ヤマタノオロチ

所有者:夜乃幽永

身体強化:パワー型

形状:黒を基調とした大鎌

能力:ブレードを大蛇に変化させる。

・大蛇には自我があり、幽永には懐いている。

・視界を幽永と共有しているほか、ブレード使いを探知する事が出来る。

・大蛇状態だと所有者は丸腰だが、所有者が所有者なのでぶっちゃけ気にならない。







ブレード名:キュウビ

所有者:勾原偽造

身体強化:バランス型

形状:波打った長い刀身を持ち、鍔に垂れ下がる9本の尻尾が特徴的。

能力:ウカノミタマが一時的に強化された状態。

・元の能力に加え、目の前の相手のごく近い未来の動きを見る事が出来るようになった。

・尻尾の数は制限時間を示しており、徐々に減っていく。全ての尻尾が消えた時、キュウビはウカノミタマに戻る。

・偽造は元々、他人の心境を読むのに長けていた。他人の未来を見る能力は、その延長上にあるのかもしれない。

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