表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
40/64

第40話 「廃墟のトラップタワー⑥」

 強い奴の定義とはなんだろうか。


 単に喧嘩で負け知らずな奴の事をいうのか。

 高いリーダーシップを持つ奴の事をいうのか。

 知略を巡らせられる奴の事をいうのか……。

 まあ色々あるが、どれが1番強いのかは、誰にも断定出来ないだろう。


 けど。


「このスイッチ1つで、爆弾は作動する。下手に動くのは、賢い奴のする事とは言えないな」


 この場合……たった今、この状況においては、あの眼帯より強い奴はいないんじゃないか。


 奴が本当に爆弾を仕掛けたのかは分からない。

 さっきみたいに、爆弾なんて無いのかもしれないが、もし本当に仕掛けられていれば……。

 奴は指1本で、この戦いを終わらせる事が出来てしまう。


 絶体絶命だ……。


「そのままでいろ。そうすれば殺しはしない。ただ再起不能にするだけだ」


 奴はリモコンのボタンに指を掛け、俺たちに警告する。


「……っ!」


 どうする⁉︎

 このまま突っ立ってたら、俺たちはやられるのをただ待つばかり。

 かと言って下手に動けば、一気に全滅するかもしれねー!

 何か方法はないのか……⁉︎

 この状況から脱却する手は……。


「嘘くさいな………」

「!」


 唐突にそう言ったのは、響人だった。

 顔色を変える様子もなく、その目線は真っ直ぐ奴を見据えている。


「………なんでさっさとスイッチを押さない? 俺たちの足元に爆弾があるなら………それを押せば終わりだろ。早く押せよ」

「なんでだ? お前らの行動を見てから判断したって、おれに損はない。それとも何か、お前は再起不能より、死ぬ方を選びたいのか?」

「つべこべうるさいな………いいから押せよ」


 響人……お前は何を考えてんだ?

 なんでそんな挑発するような事を……?


「……何を考えている? お前」

「お前が………思っていない事だ!」


 響人は奴を指差した。


『バシュンッ』


「‼︎」

「うお⁉︎」

「飛んだ⁉︎」


 それと同時に起こった予想外の事に、俺と叶恵は揃って驚きの声が出てしまった。


 響人の側に浮かんでいるブレードの、3枚ある内の1本の刃が……奴に向かって射出されたのだ。


「っ……!」


 奴の方も流石に予想出来ておらず、向かってくる刃を咄嗟にブレードで防いだ際に、一瞬だが隙が出来た。


「今だ! 向井、葉隠………!」

「お、おう!」

「ハイ!」


 叶恵は真っ先に前へ飛び出し、そのまま床にブレードを突き刺す。


「思い通りにいかない奴らだ……」


 愚痴をこぼすようにそう呟き、奴は床からの攻撃を躱した。


 俺と響人も前へ走り出し危険地帯を脱出する。


「てかお前、あんな事出来たのかよ」

「奥の手ってのは取っとくもんだ………」

「なるほど」


 今朝のはそういう事か。

 確かにあんなの予想出来んわ。


「さて………畳み掛けるぞ」

「分かってら!」


 俺は影の拳を繰り出し、響人は3枚刃の方のブレードを飛ばした。


「そう何度も同じ事を」


 奴は俺たちの攻撃を見切ったように、その両方を躱す。


 まあこれ位躱すと思ってたよ。

 だから1撃加える前に、まずそれ(・・)を手放してもらう!


 伸ばした影を枝分かれさせ、リモコンを持つ奴の手に伸ばした。


「っ!」

「よし!」


 爆弾が本当にあるなら、そのリモコン持たせとくのは危険だからな。

 コッチが回収させてもらう!


「くそっ」

「させない!」


 奴が宙を舞うリモコンに手を伸ばすより先に、叶恵がそれをキャッチした。


「やった……!」

「ああそうだな、やった」

「え?」


 リモコンを奪われたにも関わらず、奴は焦る様子も無く……むしろしてやったりという様子で、ポケットとから別のスイッチを取りだしていた。


「爆弾のスイッチってのは嘘だ。あの眼鏡が言うようにな」

「え……?」

「実はそれ……」


 奴がスイッチを押した時、叶恵の持つ方のスイッチから何かがスプレーされた。


「うわ⁉︎ 何これ?」

「………まさか」


 叶恵はモロにそれを浴びた。

 訝しげな表情を浮かべたと思ったら、徐々に顔色が悪くなり……。


「おい……?」

「う……⁉︎」

「叶恵⁉︎」


 頭を押さえ、その場に倒れ込んでしまった。


「お前、何しやがった⁉︎」

「毒ガスだよ。催涙スプレーとは物が違う」


 奴は叶恵を指差した。

 見ると、叶恵が持っていた筈のスイッチは、小さなスプレー缶のような物に姿を変えていた。


「理解したか? こういう事だ」


 つまり……最初から爆弾の話はフェイクだったのか?

 あのまま俺たちが大人しくしていれば良し、もしリモコンがうばわれるような事があっても良し。

 2重に策を巡らせていたのか……!


「心配するな、人が死ぬほど強い毒じゃない。しばらく立つ事も出来ないだろうが」

「テメエ!」


 俺が影を伸ばそうとすると、奴はしゃがみ、叶恵の首元にブレードを当てた。


「下手に動くと……もう言わなくていいよな?」

「——!」


 奴はまた懐からまた銃を取り出し、こちらに向けてきた。


「防御するなよ」

「……」

「………」


 響人は口元に手を当てて黙り込んでいる。

 俺も、どうしていいか分からない。


 コッチが優位に立ったと思えば、すぐに形勢が逆転してる……。

 さっきからこの繰り返し。


 コイツは完全に、俺たちよりも上手だ。

 どういう方法で重火器なんか手に入れてるのかも知らねーが……。

 夜乃とはまた違う、とんでもない強さを持ってやがる。


「……」


 よくない何かが、俺の頭をよぎった。


 ……俺はまた、壁に屈するのか?

 なす術無く、このままやられるのか?


 駄目だ……やめろ!

 諦めんな、俺……!


 もう、ああはならないって決めただろ⁉︎

 1度首を突っ込んだら、最後までやり遂げるんだろ⁉︎

 そう決めただろ!


 ましてや今は、俺だけの問題じゃねーんだ!

 叶恵も響人も雄生も天音も、偽造も姉貴も……!

 ここで俺が折れたら、全員に迷惑かけたまま終わっちまう!


 そんな事——


「あってたまるか……!」


 感情を押し込めようとしても、唸るように声が漏れ出した。


 なんとか……何か方法がある筈だ。


「2……人共…………」

「っ! 叶恵!」


 苦しげかつか細い声で、叶恵は俺たちに訴えかけてきた。


「私の事は、いいです……から……コイツを……倒して………」

「バカ言うな! 全員無事に帰るんだよ」

「でも……」

「でもじゃない………」


 響人が静かに、だが力強く言った。


「俺には既に………勝つビジョンが見えている」

「‼︎」

「え……?」


 勝つビジョンが見えている……?

 そう言ったのか⁉︎

 響人お前⁉︎


「さっきのお前の言葉を返すようだが……嘘くさいな。おれを動揺させる気なら無駄と言っておく」

「動揺? 違うな………。俺は思った事は………そのまま言うタイプだ」


 ああ、響人はそういう奴だ。

 本当にそう思わないと、口には出さない。


 つまり、お前は確信したのか?

 奴に勝つ自信があるって事なのか⁉︎


「向井………ダメージは結構食らうと思うが、まあ心配するな」

「あ、ああ……本当に大丈夫なんだな?」


 響人は何も言わずに奴の方を見た。


「今までの事から、もしかしたらと思っていた………。だがさっき確信した」

「……」








「お前………ずっと手加減してるだろ?」

「手加減……⁉︎」


 何言ってんだお前⁉︎

 さっきから銃だの爆弾だの……完全に殺しにかかってるだろ⁉︎


「響人……?」

「言いたい事は分かる………確かに奴の仕掛けたトラップは、パッと見どれも殺しにかかってる。だが冷静に思い出せ………少しおかしくはないか?」

「おかしい?」

「例えば最初の機関銃………お前がすんでの所で気付かなければ終わってた。なんでお前は、機関銃に気づけた?」

「それは、警告音が……?」


 待てよ……。

 なんであんな警告音が鳴ったんだ?

 あれが無けりゃ、完全に奴の勝ちだった筈だろ?

 なのにわざわざなんで……。


「俺たちに気づかせるため……?」

「理由が他に思い当たらないしな」

「待てよ……ちょっと待ってくれ」


 おかしいだろ。

 なんでそんな事するんだ?


「……おれを動揺させるのは無駄だと言ったが」

「だから違うと言ってる………。むしろお前が不自然すぎて、こっちが動揺したい位だ」


 響人は奴に向き直った。


「なんでわざわざ、俺たちを分断するように仕向けた。爆弾やら何やらで、一網打尽にも出来ただろ? いちいち行動を制限しなくても………さっさと俺たちを仕留められただろ? 何故そうしなかった」

「……慎重に動くに越した事は無い」

「今の戦いの時も………わざわざあんなブラフを張らずに、黙って偽装した爆弾投げりゃいいだろ? 葉隠が食らった毒ガスも………致死性の高いものを使えばいいだろ? 何故そうしない?」


 響人が次々と口にする奴の行動は、確かに不自然な点が多かった。

 ドアを開けたら飛んでくる罠の多くも、防御するのに十分なタイムラグがあった。

 わざわざ当たりにくいようになってるものもあった。

 改めて考えると、妙に回りくどい事も多い。


「単なる思い込みだ」

「お前がどう言おうと………俺は1つの結論を出している」


 わざわざ手加減する理由……。

 それって……。


「俺には………お前は必死に自分を押し殺してるように見える。うまく言えないが………何かに耐え続けてるような」

「なんだと……?」

「ざっくり言うと………お前はこんな事を望んでいない」


 気のせいかもしれないが……奴の表情が、曇りつつある気がした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ