第40話 「廃墟のトラップタワー⑥」
強い奴の定義とはなんだろうか。
単に喧嘩で負け知らずな奴の事をいうのか。
高いリーダーシップを持つ奴の事をいうのか。
知略を巡らせられる奴の事をいうのか……。
まあ色々あるが、どれが1番強いのかは、誰にも断定出来ないだろう。
けど。
「このスイッチ1つで、爆弾は作動する。下手に動くのは、賢い奴のする事とは言えないな」
この場合……たった今、この状況においては、あの眼帯より強い奴はいないんじゃないか。
奴が本当に爆弾を仕掛けたのかは分からない。
さっきみたいに、爆弾なんて無いのかもしれないが、もし本当に仕掛けられていれば……。
奴は指1本で、この戦いを終わらせる事が出来てしまう。
絶体絶命だ……。
「そのままでいろ。そうすれば殺しはしない。ただ再起不能にするだけだ」
奴はリモコンのボタンに指を掛け、俺たちに警告する。
「……っ!」
どうする⁉︎
このまま突っ立ってたら、俺たちはやられるのをただ待つばかり。
かと言って下手に動けば、一気に全滅するかもしれねー!
何か方法はないのか……⁉︎
この状況から脱却する手は……。
「嘘くさいな………」
「!」
唐突にそう言ったのは、響人だった。
顔色を変える様子もなく、その目線は真っ直ぐ奴を見据えている。
「………なんでさっさとスイッチを押さない? 俺たちの足元に爆弾があるなら………それを押せば終わりだろ。早く押せよ」
「なんでだ? お前らの行動を見てから判断したって、おれに損はない。それとも何か、お前は再起不能より、死ぬ方を選びたいのか?」
「つべこべうるさいな………いいから押せよ」
響人……お前は何を考えてんだ?
なんでそんな挑発するような事を……?
「……何を考えている? お前」
「お前が………思っていない事だ!」
響人は奴を指差した。
『バシュンッ』
「‼︎」
「うお⁉︎」
「飛んだ⁉︎」
それと同時に起こった予想外の事に、俺と叶恵は揃って驚きの声が出てしまった。
響人の側に浮かんでいるブレードの、3枚ある内の1本の刃が……奴に向かって射出されたのだ。
「っ……!」
奴の方も流石に予想出来ておらず、向かってくる刃を咄嗟にブレードで防いだ際に、一瞬だが隙が出来た。
「今だ! 向井、葉隠………!」
「お、おう!」
「ハイ!」
叶恵は真っ先に前へ飛び出し、そのまま床にブレードを突き刺す。
「思い通りにいかない奴らだ……」
愚痴をこぼすようにそう呟き、奴は床からの攻撃を躱した。
俺と響人も前へ走り出し危険地帯を脱出する。
「てかお前、あんな事出来たのかよ」
「奥の手ってのは取っとくもんだ………」
「なるほど」
今朝のはそういう事か。
確かにあんなの予想出来んわ。
「さて………畳み掛けるぞ」
「分かってら!」
俺は影の拳を繰り出し、響人は3枚刃の方のブレードを飛ばした。
「そう何度も同じ事を」
奴は俺たちの攻撃を見切ったように、その両方を躱す。
まあこれ位躱すと思ってたよ。
だから1撃加える前に、まずそれを手放してもらう!
伸ばした影を枝分かれさせ、リモコンを持つ奴の手に伸ばした。
「っ!」
「よし!」
爆弾が本当にあるなら、そのリモコン持たせとくのは危険だからな。
コッチが回収させてもらう!
「くそっ」
「させない!」
奴が宙を舞うリモコンに手を伸ばすより先に、叶恵がそれをキャッチした。
「やった……!」
「ああそうだな、やった」
「え?」
リモコンを奪われたにも関わらず、奴は焦る様子も無く……むしろしてやったりという様子で、ポケットとから別のスイッチを取りだしていた。
「爆弾のスイッチってのは嘘だ。あの眼鏡が言うようにな」
「え……?」
「実はそれ……」
奴がスイッチを押した時、叶恵の持つ方のスイッチから何かがスプレーされた。
「うわ⁉︎ 何これ?」
「………まさか」
叶恵はモロにそれを浴びた。
訝しげな表情を浮かべたと思ったら、徐々に顔色が悪くなり……。
「おい……?」
「う……⁉︎」
「叶恵⁉︎」
頭を押さえ、その場に倒れ込んでしまった。
「お前、何しやがった⁉︎」
「毒ガスだよ。催涙スプレーとは物が違う」
奴は叶恵を指差した。
見ると、叶恵が持っていた筈のスイッチは、小さなスプレー缶のような物に姿を変えていた。
「理解したか? こういう事だ」
つまり……最初から爆弾の話はフェイクだったのか?
あのまま俺たちが大人しくしていれば良し、もしリモコンがうばわれるような事があっても良し。
2重に策を巡らせていたのか……!
「心配するな、人が死ぬほど強い毒じゃない。しばらく立つ事も出来ないだろうが」
「テメエ!」
俺が影を伸ばそうとすると、奴はしゃがみ、叶恵の首元にブレードを当てた。
「下手に動くと……もう言わなくていいよな?」
「——!」
奴はまた懐からまた銃を取り出し、こちらに向けてきた。
「防御するなよ」
「……」
「………」
響人は口元に手を当てて黙り込んでいる。
俺も、どうしていいか分からない。
コッチが優位に立ったと思えば、すぐに形勢が逆転してる……。
さっきからこの繰り返し。
コイツは完全に、俺たちよりも上手だ。
どういう方法で重火器なんか手に入れてるのかも知らねーが……。
夜乃とはまた違う、とんでもない強さを持ってやがる。
「……」
よくない何かが、俺の頭をよぎった。
……俺はまた、壁に屈するのか?
なす術無く、このままやられるのか?
駄目だ……やめろ!
諦めんな、俺……!
もう、ああはならないって決めただろ⁉︎
1度首を突っ込んだら、最後までやり遂げるんだろ⁉︎
そう決めただろ!
ましてや今は、俺だけの問題じゃねーんだ!
叶恵も響人も雄生も天音も、偽造も姉貴も……!
ここで俺が折れたら、全員に迷惑かけたまま終わっちまう!
そんな事——
「あってたまるか……!」
感情を押し込めようとしても、唸るように声が漏れ出した。
なんとか……何か方法がある筈だ。
「2……人共…………」
「っ! 叶恵!」
苦しげかつか細い声で、叶恵は俺たちに訴えかけてきた。
「私の事は、いいです……から……コイツを……倒して………」
「バカ言うな! 全員無事に帰るんだよ」
「でも……」
「でもじゃない………」
響人が静かに、だが力強く言った。
「俺には既に………勝つビジョンが見えている」
「‼︎」
「え……?」
勝つビジョンが見えている……?
そう言ったのか⁉︎
響人お前⁉︎
「さっきのお前の言葉を返すようだが……嘘くさいな。おれを動揺させる気なら無駄と言っておく」
「動揺? 違うな………。俺は思った事は………そのまま言うタイプだ」
ああ、響人はそういう奴だ。
本当にそう思わないと、口には出さない。
つまり、お前は確信したのか?
奴に勝つ自信があるって事なのか⁉︎
「向井………ダメージは結構食らうと思うが、まあ心配するな」
「あ、ああ……本当に大丈夫なんだな?」
響人は何も言わずに奴の方を見た。
「今までの事から、もしかしたらと思っていた………。だがさっき確信した」
「……」
「お前………ずっと手加減してるだろ?」
「手加減……⁉︎」
何言ってんだお前⁉︎
さっきから銃だの爆弾だの……完全に殺しにかかってるだろ⁉︎
「響人……?」
「言いたい事は分かる………確かに奴の仕掛けたトラップは、パッと見どれも殺しにかかってる。だが冷静に思い出せ………少しおかしくはないか?」
「おかしい?」
「例えば最初の機関銃………お前がすんでの所で気付かなければ終わってた。なんでお前は、機関銃に気づけた?」
「それは、警告音が……?」
待てよ……。
なんであんな警告音が鳴ったんだ?
あれが無けりゃ、完全に奴の勝ちだった筈だろ?
なのにわざわざなんで……。
「俺たちに気づかせるため……?」
「理由が他に思い当たらないしな」
「待てよ……ちょっと待ってくれ」
おかしいだろ。
なんでそんな事するんだ?
「……おれを動揺させるのは無駄だと言ったが」
「だから違うと言ってる………。むしろお前が不自然すぎて、こっちが動揺したい位だ」
響人は奴に向き直った。
「なんでわざわざ、俺たちを分断するように仕向けた。爆弾やら何やらで、一網打尽にも出来ただろ? いちいち行動を制限しなくても………さっさと俺たちを仕留められただろ? 何故そうしなかった」
「……慎重に動くに越した事は無い」
「今の戦いの時も………わざわざあんなブラフを張らずに、黙って偽装した爆弾投げりゃいいだろ? 葉隠が食らった毒ガスも………致死性の高いものを使えばいいだろ? 何故そうしない?」
響人が次々と口にする奴の行動は、確かに不自然な点が多かった。
ドアを開けたら飛んでくる罠の多くも、防御するのに十分なタイムラグがあった。
わざわざ当たりにくいようになってるものもあった。
改めて考えると、妙に回りくどい事も多い。
「単なる思い込みだ」
「お前がどう言おうと………俺は1つの結論を出している」
わざわざ手加減する理由……。
それって……。
「俺には………お前は必死に自分を押し殺してるように見える。うまく言えないが………何かに耐え続けてるような」
「なんだと……?」
「ざっくり言うと………お前はこんな事を望んでいない」
気のせいかもしれないが……奴の表情が、曇りつつある気がした。




