第39話 「廃墟のトラップタワー⑤」
見つけた隠し階段を上った先は、別の上り階段のある小部屋だった。
逆に、それ以外は本当に何もない、ただ上に行くためだけにある様な、寂しい雰囲気を纏っていた。
慎重に、その階段を上まで上りきった先の広めの部屋に、ソイツはいた。
ポツンと置かれたパイプ椅子に、足を組んで座る人物が。
姿は分からない。
何故なら、奴は未だ響人の姿を模したままだったから。
「思ったより速かったな……やるじゃないか」
俺たちと正面から対峙して、更に3対1なのにも関わらず、奴は座ったままで、特に動じる事なくそう言い、更に言葉を紡ぎ続ける。
「ここに来たという事は、既におれの能力が分かったわけだ……おれとした事が、詰めが甘かったか」
淡々と話す奴に、俺は一歩だけ近づいた。
「偽造たちはどこだ?」
「言う必要は無い……と言ったら?」
まともに話す気は無しだ。
最初から期待はしてなかったが……。
俺はブレードを構えた。
「力づくでも、その口割らせてもらう!」
「やってみればいい。出来るものなら」
奴は立ち上がらないで、人差し指をクイクイッと動かした。
アイツ……!
あんま調子に——
「お前ら待て………」
俺と叶恵が釣られたのを察してか、響人は俺たちの肩を掴んだ。
「安い挑発だ………乗せられるな」
「だ、だってアイツムカつくんですもん!」
「そりゃそうだ………ムカつかせるために言ってるんだから。下手に近づいていい事は無い………」
「ああ、それ位分かってる。別に無闇には近付かねーよ」
俺は響人の手を軽く払い、奴の方を睨みつけた。
「近付かなくたって、あそこで余裕かましてる奴を攻撃する事は出来るからな!」
奴に、影の拳を伸ばした。
影を伸ばせば、届かない距離じゃない。
「だがお前の影は………」
「ここまで届くか? 3メートル以上はあるぞ」
響人の考える事を、奴も理解していたらしい。
確かに俺の影の射程は、3メートル前後ってとこだ。
普通は、そこまで届かない。
「普通はな」
けど思いついたんだよ。
射程を伸ばす方法をな!
俺は、腰にぶら下がる小さなライトを、前方向に少し傾けた。
「っ!」
瞬間、奴に向かう影の拳が、急加速したかのように距離が縮まった。
「え⁉︎ なに今の?」
「………光の当たる角度で、影の大きさは変わるからな。それを利用して………元の影の長さを伸ばしたのか」
太陽の光じゃ出来ない、これならではだけどな。
さあ、いつまでも座ってないで、そろそろ立ってみろよ!
「浅知恵が」
奴は組んでいた足を解いて立ち上がり、影を半身で躱した。
今の反応速度……あんな態度とっといて、アイツ全く油断してねーな。
そう思った時、突然何かが俺の前を遮った。
『バシュッ』
『ガキイィン』
かと思うと、2つの音が殆ど時間差なく俺の耳に届く。
「危なかったな………撃たれるところだった」
「お前がいなきゃな」
俺の前を遮ったのは、響人のブレードだった。
これが盾になって、俺は銃弾を浴びずに済んだわけだ。
「出だしにあんなトラップがあったんだ。銃くらい持ってると思ったよ」
「……それがなんだ? 結局おれを立たせて終わりか?」
奴は無愛想にそう言う。
が、まさかそんなわけがない。
「こっちよ!」
「‼︎」
影の下を縫うように現れ、叶恵は奴にブレードで斬りかかった。
伸ばした影が死角となり、奴は素早く接近する叶恵にはギリギリまで気が付かなかった。
「チィ……!」
だが、奴はバックステップで斬撃を躱した。
服を掠めたようだが、ダメージは通ってない。
「まだ!」
叶恵は、床にブレードを突き刺した。
地形を伝わる光る刃が、切っ先を奴に向けて一直線に突き出す。
バックステップの直後……まだ体勢が整え切れてねー筈だ!
「お前らの能力は把握しているんだ。これくらい予測出来る!」
だが奴は、俺の影を躱した時のように半身の姿勢をとり、不意打ちの突きを躱してみせた。
「……っ!」
これだけやって、服に掠っただけかよ……!
夜乃ほどじゃねーにしろ、コイツは普通よりも1段上って事か!
「まだだ………向井、構えてろ」
「? 響人?」
「ここからじゃ………俺のブレードは奴まで届かない。だがあそこまでは届いた………」
ふと、奴の背後に目をやる。
「……!」
その奇妙な光景に、俺は目を見開いた。
響人のブレードが、いつの間にか奴の背後に?
いや、それより……叶恵のブレードの刃が、響人のブレードに突き刺さってる⁉︎
刺さった場所を伝う刃が、地面を通して響人のブレードを……奴の背後で!
「ハッ……なんだと⁉︎」
奴もこの事に気がついた。
もう遅い。
刃は光の反射のように……ビリヤードの玉のように、やつを捉えているのだから。
「ぐっ!」
咄嗟にクロスされた奴の腕を、その刃は見事に貫いた。
奴の冷静な表情は痛みに歪み、串刺しにされた腕にはノイズのようなものが走り出す。
「向井………かましてやれ!」
響人に背を押され、俺はライトを少し奴の方に傾けた。
よし……届く!
ブレードで奴を指し、影のラッシュを展開。
「おのれ……!」
「うおおおおおおおお‼︎」
奴に叩き込んだ。
「くああっ……!」
奴は直線状に飛ばされ、うつ伏せに倒れた。
全身に腕の時と同じノイズが走り、姿は全く認識出来ないが。
てか、何も言わないでも俺の考えをある程度理解して、叶恵にも分かるよう説明した上、アレンジ加えるって……。
響人、お前テレパシーかなんかつかえんのか?
「………倒したか?」
「絶対やりましたよ! あんなのモロにくらって立てるわけないじゃないですか!」
叶恵はこちらに駆け寄りながら言うが……どうやらまだらしい。
俺は奴が倒れる方を指差した。
「ブレードが、消えてない」
「………」
「嘘⁉︎」
あのひしゃげたW型のナイフが奴のブレードなら……そしてそれが消えてないって事は。
「想像……以上だ」
「やっぱり、まだか」
奴は体を起こし、立膝をつく姿勢をとった。
全身のノイズはまだ消えず、姿は露わになってない。
「さっき……刺された腕を引き抜いて、受け身を取るのがもう少し遅かったら……危なかった」
奴は落としたブレードを拾い、膝に手を置きながら立ち上がった。
「あんな事言っておきながら……おれは、どこかでお前らを舐めていたのかもしれない。本当の戦闘を知らないただの学生に、おれが負けるはず無いと……」
まっすぐに立ち、奴は俺たちの方を見た。
ノイズは徐々に収まり、奴の姿が薄っすらと見えてきた。
「だがお前らは既に、3人のブレード使いと戦い、そして勝利してきた。ただの学生とは呼べないな」
奴を包むノイズが止んだ。
癖のある茶髪で、右目に眼帯。
深緑の学生服に身を包む、同い年くらいの男が、俺たちの前に立っていた。
「ようやく姿を見せたな………眼帯野郎」
「荒里狩真だ……眼鏡野郎」
正体と同時に、名前まで明かした。
ラッシュをくらい所々に青タンのような物が出来ているが、奴はさっきまでのように冷静だ。
「無事だったにしても………ダメージは軽くないだろ。降参する気はあるか?」
「無い。にしても全く……一張羅に穴が開いてしまった」
袖に空いた穴を眺め、奴は小さくぼやいた。
え、ちょっと待て一張羅⁉︎
それ制服に使う言葉か?
「まあいい。早く終わらせて……あとで新調して貰おう」
奴の目に力が篭った。
「フゥー……」
ブレードを胸の前に構え、1度深呼吸する。
今やっと、本当の意味で奴と対面した。
本当の戦いはここからだ。
「いくぞ」
奴はブレードを咥えて、懐に両手を忍ばせたかと思うと、即座に何かを取り出し、俺たちの方に向けた。
実際にそれを2つ扱うのは難しいとされる……だが非常に見栄えのする、その戦法は。
「2丁拳銃⁉︎」
ヤバい!
俺は影の盾を作り出した。
『ダダダダダダダダ——‼︎』
連続でぶつかってくる銃弾の衝撃が盾に響く。
さっきまで使ってたサイレンサー付きの奴じゃない。
アイツ、マシンガン両手に持って、当たり前のように……!
リアルでやったら、自分への衝撃半端ねーはずだろ⁉︎
「ブレードの身体強化の賜物か………そもそも銃とか持ってる時点でおかしいが」
「ああ、なるほどな! てかどうする⁉︎」
この銃撃、盾は解除出来ない。
かと言って、このまま攻撃すれば盾が弱まるかもしれない!
「今は防御に専念するしか………」
弾切れまで粘れるか?
気を緩めるな、俺!
防ぎきれ!
「くっ……! おおお……‼︎」
「………」
『ダダダダダ……』
「音が止んだ!」
「ハァ……」
「ご苦労………向井」
「本当だぞ……」
俺は盾を解除した。
というより、緊張が解けた。
視界の向こうで、奴は弾切れになった2丁拳銃を捨て、咥えていたブレードを手に持った。
「耐え切るか……」
「今度は………こちらの番だ」
響人はブレードを片方、奴めがけて飛ばした。
奴はそれを躱し、また懐から何か取り出した。
「問題だ」
左手に持つそれを、奴は俺たちの方へ投げた。
放物線を描いて飛ぶそれをよく見ると……
「石?」
どこからどう見ても、ただの石。
そう思ったが。
「その3つのうち、爆弾はいくつでしょう?」
「「「⁉︎」」」
爆弾……⁉︎
ただの石が……?
いや違う。
奴の能力は、ものを偽装する事……!
つまり、あのどれかが。
俺は盾を再展開した。
爆発に備え、神経を尖らせる。
「……?」
が、爆発は起きず、石が床に落ちる音がしただけだった。
「騙されたな………」
「本当にただの石ころかよ!」
盾を解除し、奴に影を伸ばそうとした時、奴は手を前に突き出し、『止まれ』のポーズをした。
「動かない方がいい。今、本物の爆弾をいくつか撒いた」
「は……?」
「そこらに散らばる石ころ、ガラスの破片、その他諸々……どれが爆弾でしょう?」
俺たちは足元を見下ろした。
瓦礫のような物や、石ころ、ガラス片……色々な物が散乱している。
「………」
「……っ」
「どうすれば……」
奴はポケットから、スイッチのような物を取り出した。
「お前らには、おれの能力がバレた。おれの能力の事を『分かって』いる……。だがそれだけじゃ駄目だ。『理解』しろ。『分かる』と『理解する』は別物だ」
俺たちは、1歩も動けなくなった。




