第33話 「廃墟のトラップタワー①」
「ここ……だよな」
「駅から南東の廃ビル」というアバウトな内容ではあったが、当てはまる場所はここ位しかない。
今は11時55分、指定された時間の5分前。
俺達6人は並んで立ち、その廃ビルを見上げていた。
5階建て位で鉄筋コンクリート剥き出しのそのビルは、夜中なのも相まって、非常に不気味な風体をしていた。
「なんか出そうな雰囲気だね」
「出るぞ………ブレード使いが」
「おお、そりゃそうだ」
こんな緊張感の中でも、偽造と響人は即興漫才をやる位には余裕があるらしい。
流石、とでも言っておこう。
「それはそうと………全員ブレードは出しといた方がいい。何があるか分からんからな………」
「そうだな」
響人は余裕を持ちつつ、やはり冷静だった。
この言葉で、全員の緊張感が引き締まった気がする。
「準備はいいな?……行くぞ」
ブレードを持ち、俺達はビルの中へ入った。
入口らしき場所にはドアが無く、殺風景な空間が一望出来る。
ロッカーらしきものが3つ左奥に並び、そして部屋の中央付近には……
「………鏡だな」
「意味ありげだねー……。入れってことかな?」
服屋なんかにありそうな立て鏡が1つ、ポツンと置かれていた。
その奥にドア、右奥に階段もあるが、他に物は置いていない。
多分、あの鏡の向こうにいる。
だが、考えなしにあっちに行くのはまずい。
わざわざこんな場所を指定してきたんだ。
何かあるに決まってる。
「よし、まず俺が行ってみる」
「……気をつけて」
警戒しつつ、俺は鏡の中に入った。
そこには、左右反転した以外、さっきと変わらないビルの内装が広がっていた。
見た感じ、何かある風ではない。
「命君、どう?」
知らせに戻ろうと思ったら、偽造が顔を出していた。
「大丈夫そうだけど、一応気をつけろ」
俺がそう言うと、偽造は一旦顔を引っ込めた後、慎重にこちらに入ってきた。
それに続くように、雄生、響人、天音、叶恵と、順番に1人ずつ入ってくる。
特に問題なさげだ。
次に、階段かドア、どっちを行くか……
『ピピピピピピピピ…………』
「「「「「「⁉︎」」」」」」
突然、何かの警告音の様なものが鳴り響いた。
反射的に、音のなる方向、鏡の後ろの死角になっていた方をライトで照らして見ると……
「っ!」
「向井君? この音」
「全員伏せろ!」
俺は影で、全員を覆う様に盾を作り出した。
「命君、そこに何が……」
警告音が止まるや否や、その偽造の声を吹き飛ばさんばかりの轟音が空間を支配した。
俺を含んだ全員が、あまりの事に目と耳を目一杯塞いでいた。
20秒ほどして轟音は鳴り止み、雄生が声を漏らした。
「今のは……⁉︎」
「………銃声、か?」
答える様に、響人はそう言う。
「……当たりだ」
俺は影の盾を解除し、さっきの様にビルの入口の方をライトで照らしてみせた。
そこには、三脚の様なもので固定された、銃身の長い銃があった。
更に、弾丸の軌道上にあったであろう鏡は、穴とヒビだらけになり、床には弾丸が散乱している。
「もし命君の盾が間に合ってなかったら……」
「全滅………だったな」
一瞬で血の気が引いた。
銃という現実的な凶器の分、ブレードを見るより恐ろしく感じた。
「悪い……俺の確認不足だった」
「いや、謝らないでよ。みんな無事だったし」
「で、でも……なんで最初カムイさんだけ入った時は、音鳴らなかったんですか?」
確かに。
何らかのセンサーとかに反応するなら、俺が入った時点で作動してた筈だ。
なのに、最後に叶恵が入ってきた後に、あの警告音が鳴り出した。
こういう時は……。
「響人、どう思う?」
なんとなく、こういうのは響人が解決できる気がする。
「そうだな………恐らく、一定回数センサーに引っかかるか………もしくは、引っかかって一定時間後に作動するのか。何処かに隠しカメラがあって、全員コッチに来るのを見計らって、一網打尽にしようとしたか………この位だな」
「なるほどな……」
つーかそもそも、なんで銃なんてあるんだ⁉︎
普通に手に入る様なものじゃねーぞ⁉︎
夜乃とは違う意味で、今回の奴は普通じゃないらしい。
「ここからどうする?」
「………」
響人は少し考えた後に言った。
「二手に分かれよう。6人もまとまって行動していると………色々と不都合で効率が悪い。かと言って1人や2人だと………いざという時危険だ」
「じゃあ、その内訳は?」
「………向井、諏訪間、葉隠はそこのドアを、俺、天音、勾原は………この階段の方に行く」
「どうしてそのメンバーなんスか?」
「俺なりに役割分担してみた。まず………俺と向井はまとめ役兼司令塔。勾原と葉隠は………その身体能力を見込んで先陣を切ってもらう。で、天音と諏訪間は怪我の治療役だ」
なるほど、バランスいいし理に適ってる。
全員異論も無さそうだ。
「よし、それで行こう」
「………気をつけろよ」
響人は振り向き、階段の方へ向かっていく。
それに続こうとした偽造と天音は、1度こちらを見て言った。
「それじゃ、また後で」
「お互い気をつけて」
「……ああ」
3人が階段を登るのを見送ってから、俺はドアノブに手をかけた。
『バチンッ!』
「痛っつ⁉︎」
瞬間、電流が流れ、俺は思わず飛び退いた。
「どうしたんですか⁉︎」
「なんか電流が……!」
「このっ‼︎」
俺の反応を見た雄生はドアを蹴破り、その残骸を確かめ始める。
「命さん、ドアノブの裏になんか機械が」
「マジか」
さっきのマシンガンと違って、なんかドッキリにでもかけられた気分だ。
電流の強さを除いてだが。
「大丈夫スか?」
「ああ、これ位平気だ」
ビックリはしたし、まだ若干ジンジンするが、その内治るだろう。
「さ、気を取り直して行くぞ」
「本当に大丈夫なんですか?」
「ダメージ受けたのは、どっちかと言うとメンタルだ」
「メンタル……?」
「うん、もういい行くぞ」
叶恵の語彙力は置き去りに、ドアの先の廊下を3人で歩き出す。
ライトで怪しい物は無いか探すも、今の所何も見つからない。
だが、既に2度も驚かされてる上、1回は本気で危なかったんだ。
警戒は解けない。
廊下の1番奥まで来た。
階段、ドア2つが左右対称に並んでいる。
「命さん、何処から行きます?」
「2階は響人たちが行ってるから……ドアから処理していこう」
「そうッスね。地道に調べましょう」
「んー……じゃあ、とりあえずここ」
「バッ!ちょっと待て叶……」
右手前のドアに無造作に手をかける叶恵への忠告は、既に時遅しだった。
ドアを開けてから若干のタイムラグの後、叶恵に向かって、振り子の様な動きで何かが降ってきた。
何かは分からないが、先端が鋭利な事はすぐ分かった。
「叶恵避けろ!」
「うわっ⁉︎ く……!」
それは叶恵の肩を掠め、そのまま向かいのドアに激突して鈍い音を発した。
動きが一瞬止まったそれを、掴んで照らしてみると、ロープで吊られた鶴橋だった。
重さも結構ある……。
振り返ると、肩を抑えて踞る叶恵の傷を、雄生が確認していた。
「大丈夫か⁉︎」
「どうやらかすり傷だけみたいッス。チビで良かったな、葉隠」
雄生はそう言い、叶恵の傷を手で覆う。
数秒で手を離し、「もう治ったぜ」と言葉をかけた。
「お前も今までの見てただろ? 何処に罠があるか分からねえんだ。今のは軽傷だったけどよ、次から気ぃつけろ」
「うん……ありがと、ゴメン。……でもチビって言うな」
叶恵、身長気にしてたのか。
けど今回ばかりは、本当にチビで良かったと思うぞ?
叶恵が肩に食らったなら、雄生は胸辺りにザックリいかれてただろう。
いくら自己再生できても、風穴あいたら回復が間に合うかどうか……。
「でも、この部屋は何にも無いみたい。物とかひとつも無いし」
「ん? 確かにそうだがよ……じゃあここは単に罠だけかよ?」
「まあ待て。今照らしてみる」
ライトをその部屋に向けてみるも、本当に物ひとつ無い。
最初の部屋以上に殺風景だ。
「仕掛けたやつ性格悪いわね」
「全くだ。漢らしくねえ奴に違いねえ」
2人して悪態付く叶恵と雄生。
叶恵は雄生の手を借りて立ち上がり、隣のドアの前に立った。
「今度は注意して、と」
「待て叶恵」
俺は、恐る恐るドアノブに手をかけようとする叶恵を呼び止めた。
「わざわざトラップにかかってやる事ねーぞ」
「?……じゃあどうするんですか?」
「2人ともこっち来てくれ」
3人集まったのを確認し、俺は影のドームで周りを覆った。
「この状態でドアをぶち破れば……」
そして、ドアがあった3方向に、影の拳を叩き込んだ。
「トラップがあっても問題なし!」
「なるほど」
案の定トラップはあったようで、影のドームに何かが当たる感触がした。
数秒してから、ドームを解除し、ドアの中を確認する。
右のもう片方の部屋……何もない。
左の手前……正面にボウガンらしき物がある。
これが影のドームに攻撃したんだろう。
残りの部屋……奥に物入れらしき物がある。
スライドさせて開けるタイプのようだ。
「あれはどうするんスか?」
「この距離なら俺の影で届く」
影を伸ばし、収納をスライドさせて開くと、楕円形の物が入っていた。
だが、ライトは今下を向いてる上、まだ扉は開ききっていないとでよく見えな——
『カチッ』
「っ⁉︎ なんだ?」
扉を全開にし、すぐさまライトを照らす。
それは、ゲームなんかじゃよく見る、あの有名な火器だった。
「あれって手榴弾⁉︎」
「ヤバイ!」
再び影のドームを展開、すぐさま3人を囲んだ。
直後、ドーム越しにも分かる程の爆発音が鳴り響いた。
破片がドームにぶつかる感触もする。
「マシンガンにボウガンときて、挙句手榴弾⁉︎」
「なんて野郎だ……‼︎ 考えられねえ‼︎」
ドームを解除し部屋を見ると、円形の焦げ跡と、見るも無残な物入れの残骸が視界に入った。
「これだけやって、この部屋全部ハズレなの……? 嘘でしょ?」
「残念ながら、嘘じゃねえみてえだ」
マズイな。
すでに2人ともかなり疲弊してる。
どうにかしねーと……。
「野郎……手紙見た時から腹たってたがよ、更に許せねえ‼︎ 陰湿な事ばっかしやがって‼︎」
「そうよ! これもどっかのカメラから見てんでしょ! 隠れてないで、さっさと出てきなさいよ!」
……割と大丈夫そうだな。
俺の後輩はタフすぎる。
「気持ちは分かるけど落ち着け。次は階段だ」
「そうッスね。一旦落ち着かねえと……」
「右と左、どっちに行きますか?」
「……アレ? ちょっと待ってくれ」
ここで、階段が2つあるのに違和感を感じた。
最初の部屋の情景を思い出すと、これは少しおかしい。
「最初の部屋には、右にしか階段無かったよな?」
「あ‼︎ そういえば」
「なのに、ここには階段が2つ……」
「じゃあ左に行けば、崎和先輩たちとは違う部屋に行けるって事ですか?」
「いや、今は左右反転してるから……右だな」
安易すぎるかもしれないが、ここで迷っても仕方ない。
階段を上る途中には、特にトラップは無かった。
そして二階に着いたが、そこは小さな立方体のような部屋で、階段の正面にドアがあるだけだ。
「またドアかよ……」
「開けたくねー……」
言ってもしょうがない、さっきと同じ方法でぶち破ろう。
そう考え、影の射程まで近寄ろうとした瞬間、空気の漏れる音が聞こえてきた。
「っ! 今度はなんだ⁉︎」
「命さん‼︎ 横から……‼︎」
雄生の指差す方からは、白いスプレーの様な物が噴出していた。
噴射口らしきものはどこにも見えないのに、どこからともなく。
それはたちまち霧状になって、部屋中を覆った。
「クッソ! 視界が……ゲホッ!」
つーか、なんか体が痒い?
なんかかぶれた様な——
「う! 目が……目が痛い痛い! 何コレ⁉︎」
「ゲホゲホッ‼︎ 何なんだ……⁉︎」
痒み、眼の痛み、咳……?
まさか催涙ガスか⁉︎
どうすんだコレ⁉︎
「うぅ……涙止まんない……!」
「くっ! 何処だ叶恵! 雄生⁉︎」
眼を閉じ、声を頼りに探るが中々見つからない。
「こ、ここですカムイさ……キャア⁉︎」
「オイ、どうした? 叶恵⁉︎」
聞こえた声の方向に、俺は手を伸ばした。
*
「ガハッ‼︎ くっ……」
ようやく視界がハッキリしてきた。
命さんは無事か⁉︎
葉隠は大丈夫なのか⁉︎
痛む眼を必死に見開きあたりを見回すと、ボンヤリ人影が見えた。
身長的に、あれは葉隠じゃねえ。
「そこにいるのは……命さん?」
「……雄生か?」
やっぱそうだった。
じゃあ葉隠は……?
「命さん、葉隠は?」
「それなんだが……これ見てくれ」
眼をこすりながら言う命さんは、床に空いた穴を指差した。
そこは暗くてよく見えない。
「さっきの悲鳴から察するに、多分……」
「ここから落ちた⁉︎」
嘘だろ……⁉︎
高さはそうでもないとはいえ、無防備でここから落ちたら——
「葉隠……‼︎」
「待て雄生」
階段を下りようとする俺を、命さんは止めた。
「なんスか」
「何処行くんだ?」
「何処って、決まってるじゃないスか‼︎ 葉隠を助けに……」
「駄目だ」
「え……⁉︎」
「アイツは置いて…先に行く」




