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第34話 「廃墟のトラップタワー②」

 命さん、なんて言った……?

 いや、こんな状況だし……俺の聞き違いじゃ?


「どうした雄生?」

「えっと……スンマセン命さん、今のもう1回言ってもらってもいいッスか?」


 そうだ、聞き間違いに決まってる‼︎

 命さんがそんな事言うわけが……。


「先に行くって言ったんだよ。叶恵を置いて先に行く」

「ッ……‼︎ どういう事ッスか⁉︎」


  俺は思わず、命さんの肩を掴んで叫ぶ様に言った。


 何考えてんだよ命さん‼︎

 アンタはそんな人じゃねえだろ⁉︎

 俺が最初に戦った時も、危なっかしい俺を庇ってくれたし、望川って奴の時も、偽造さんを助ける為に対峙したんだろ⁉︎

 なのになんで‼︎


「なんでそんな事言うんスか‼︎」

「なんで?……じゃあ逆に聞くけどよ、叶恵を助けに行ってる隙に敵が仕掛けてきたらどうする? それが狙いかもしれねー」

「そうかもしんねえッスけど……‼︎ 仲間じゃないッスか‼︎ 見捨てるんスか⁉︎」

「助けにいって全滅したら世話ねーだろ」

「……⁉︎」


 本当にどうしたんだよ……命さん。

 つうかこの人……いやコイツ、命さんなのか?

 俺の知ってる命さんは、こんな冷たいオーラを放ってたか?


 いや、違う‼︎

 あの人が、見ず知らずだった俺を助けようとした漢が、仲間を見捨てる様な事言うわけねえ‼︎


 俺はさっきまでより、肩を掴む力を強めた。


「テメエ何者だ?……2人をどこへやった⁉︎」

「……」


 少しの沈黙の後、偽物は冷徹そうな目をこちらに向けた。


「似せたつもりでも……どうしても隠せない事はあるものだ。おれに何が足りないんだろうな」

「……?」

「いや、分かってるんだ。どうもおれは、感情を込めるのが苦手らしい」

「いきなり何言ってんだテメエ……⁉︎」


 俺の言葉を無視し、奴は続ける。


「だが、これはどうしようもない。感情(そんなもの)が役に立った試しもないからな。いつの間にか捨ててしまったよ」

「だから何の話だ‼︎ いい加減にしねえとマジに切れるぞ‼︎」


 俺はいよいよ声を荒げ、ブレードを奴に振り下ろした。

 奴はそれを、手に持つブレードで防ぐ。

 その外見は、刀身が真っ黒の日本刀……命さんのそれと、全く同じだ。


 奴は防御した状態でなお、その冷淡な態度を崩さない。


「なるほど……パワーなら素手の夜乃に並ぶか。大したものだ」

「テメエ、そのブレードといい……ふざけた真似しやがって‼︎ 正体を現しやがれ‼︎」

「そう言われて現す奴は、大馬鹿だけだ」


 奴は俺の胴に蹴りを繰り出した。

 咄嗟にバックステップし、なんとかダメージを最低限に抑える。


「やはりパワーの分、スピードは犠牲になってるようだ」

「チッ。こんなのダメージの内に入るかよ」


 回復能力を使うまでもねえ。

 あのメッシュ頭に比べりゃ、屁みてえなもんだ。


 もう1度ブレードを構え、斬りかかろうとした時だ。

 さっきまで奴がブレードを持っていた右手に、全く別のものがあるのに気付いた。


『バシュッ』


 その時にはもう遅かった。

 その音と共に、俺は右肩を抉られるような痛みに襲われ、立膝をついた。


「ッぐあぁ⁉︎」


 奴が持っているのは、丁寧にサイレンサーまでついた小さな拳銃。

 ……撃たれた。


「スピードは重要だ。多少反応が遅れても、ダメージを最小限にできる。お前と違ってな」

「この、野郎……‼︎」


 今までの経験の中でも、体験した事ない痛みだ。

 だが、なんとか治すことは……。


「下手に治すな。弾丸は摘出した方がいい」


 奴は地面をひと蹴りし、一瞬で俺の前まで近寄って、左手の人差し指と中指を立て、


「こんな風に」


 俺の右肩の、弾丸がめり込んだ穴に突っ込んだ。


「ぐあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ‼︎」

「ふむ、意外と深いな。どれ……」

「この野郎‼︎ やめろチクショウ‼︎」


 更に、傷口をグリグリと掻き回した。

 空いた左手で突き飛ばそうとするが、力が微塵も入らない。


 ヤバイ……‼︎

 このままじゃマジに、負けるんじゃなく……殺される‼︎


「ウオラアア‼︎」

「おっと」


 力を振り絞って出した左の拳を、奴は背後に跳んで躱した。


「見ろ、丁度いいタイミングでとれたぞ」


 奴は左手の人差し指と中指で、血だらけの弾丸をつまんでいた。


「クッソ……‼︎」


 肩の痛みが中々収まらねえ。

 治癒にどれ位かかるんだこれ……⁉︎


「休んでる場合か? 敵が目の前にいるんだぞ」


 奴は銃を俺の方に向け、引き金を数回引いた。


「ッ‼︎」


 躱そうとしたが、腕を掠めた。

 当たらなかったのはまぐれだ。

 多分次撃たれたら……。


「舐めてはいない。油断は多くの者の敗因となる。あいつ等がそうなった様にな」

「……」


 確かに、今までの奴等は、俺達を舐めてかかっていたが……コイツはどうやら違うらしい。

 自分の正体も見せず、不用意に俺に近づきもしない。

 この状況、奴の方が断然有利だってのに。


「そういう訳で、お前にはここでリタイアしてもらう。回復能力は厄介なんでな」


 依然俺に銃口を向け、奴は宣告する。


 どうする⁉︎

 ここでおちおちとやられる訳にはいかねえ……‼︎


「じゃあな」


 引き金が引かれると共に鳴る、耳障りな音。

 そして、脇腹の鈍痛。


「ぐ……」


 俺は、その場でうつ伏せに倒れた。




*




「さて、急所は外しといたが……」


 普通の高校生が、弾丸を2発喰らったんだ。

 しばらくは動けまい。

 さっさと拘束してしまおう。


 そう考え、倒れる奴を見下ろす場所まで歩み寄った時。


「ヘッ……やっと近付いたな」

「なに……?」


 こいつはまだ、意識を保っていた。

 おれの足を掴み、もう片方の手に持ったブレードで突きを繰り出してきた。


「ち……!」


 おれは左手で、懐に忍ばせたブレードを取り出して、突きの軌道を逸らした。


「その小っせえナイフみてえなのが、テメエの本当のブレードか……。どんな能力かは、大体想像がついてるぜ」


 奴は笑い、おれの足を離したかと思うと、その手で地面を滑らせる様にして何かを投げた。


「⁉︎」


 それはそのまま地面を這い、吸い込まれる様に、穴に落ちていった。


「隙みてメールで送ろうと思ったんだが……どういう訳か圏外だったもんでよ。どうせテメエが何かしたんだろうが」

「まさか……!」


 こいつと一緒にいた2人が、あの穴に落ちたという事は簡単に考えられるだろう。

 今の状況が厳しいものと判断し、仲間に情報だけでも与えようと思った訳か……。


「やれやれだ……」


 この部屋には中和のガスを使ったが、落ちた奴等には、こいつより長く催涙ガスの効果が出ているだろう。

 つまり、まだ下にいる可能性が高い訳だ。


 ……まあ良しとしよう。

 恐らくこいつは、まだおれの能力の全貌を理解した訳では無いだろうし。

 中途半端に把握してくれれば、こっちもかき乱しやすい。


 おれは黙って、奴に銃口を向けた。


「後は……頼みます……」




*




 叶恵の方に手を伸ばしたのは良かった。

 だがその時、視界を奪われ足元がおぼつかなかった俺は、叶恵に引っ張られて落下した。

 それは、影を使った即席トランポリンでなんとか出来たが、目も喉もやられていたので、身動き1つとれない。

 だから、ずっと影のドームで周りを覆っていたのだが。


「そ……そろそろ目が大丈夫になってきました」

「俺もだ……」


 やっとマシになってきた。

 お互いに少し涙目気味だが、あまりモタモタもしていられない。

 俺はドームを解除し、周りを見回す。


「何処だここ……入って来た所とは違う」

「あ、カムイさん」


 叶恵は頭上を指差す。


「あそこから落ちたみたいです」


 天井には、ポッカリと穴が開いていた。

 叶恵が言う通り、状況的にあそこから落ちたらしい。

 ……その筈なんだが。


「けど、さっきあの部屋行った時、穴なんて無かった……よな?」

「確かそうだったと……」


 絶対に穴は無かった。

 コンクリの床に落とし穴なんて仕掛けられる訳ない。

 だが現に俺たちは、あの穴から真下のこの部屋まで落ちてきた。


「どういう事だ?」

「う〜ん……そんな事考えるの、私には荷が重いです……」


 叶恵は頭を抱えて唸る。


 お前そういうのは苦手だしな。

 ……まあ見落としなんて事ねーだろうし。

 ひょっとして、相手のブレード能力が関係あるのか?

 

「雄生も心配だし、とりあえずここを出て……って叶恵?」


 振り向くと、叶恵は少し離れた場所でうずくまっていた。


「何やってんだ、そんなとこで」

「カムイさん……これ」


 叶恵は何かを拾い上げ、俺に見せた。

 近づいてよく見てみると、どうやらガラケーの様だ。

 それも、見覚えのある。


「それ、雄生のじゃねーか?」

「ですよね⁉︎ なんでここに……」


 確かアイツ、俺等の中で唯一ガラケー使ってた。

 いや今それはどうでもいい。


 叶恵は携帯を開き、画面を見て訝しげな表情を作った。


「これって……!」

「ちょっと、俺にも見せてくれ」


 叶恵から携帯を受け取り画面を見てみると、平仮名のみの簡単な文章が書かれていた。


『やつののうりょくはへんしんすることだ』


「奴の能力は変身する事だ」、と読める。


 まさか雄生、敵に会ったのか⁉︎

 それを俺たちに伝えようとして、これを穴に?


「上で何が……!」

「ねえ! ちょっと諏訪間⁉︎そこにいるの⁉︎」


 叶恵は上を向き、穴に向かって叫ぶも、返事はなにも返ってこない。


 さっきまでドームで覆ってたから、音もほぼシャットダウンされてたし……状況は分からねーが。


「とにかく戻るぞ!」

「はい!」


 嫌な予感を振り払いながら、俺と叶恵は部屋から出た。


 頼むから無事でいてくれ!




*




「2人共、怪我とか無いの……?」


 向井君たちと分かれてしばらく進んだ。

 と言っても、まだ5分ちょっと位しか経ってないかな?


 正確には分からない。

 だって、時計なんて見る暇無いよ。


「まあ………今の所」

「確かに罠は多いけど、全部なんだかんだ回避できてるしね」


 2階には、1階の様な広場と廊下があり、私たちはその廊下を進んでいた。

 でも、ここまでの道中、罠、罠、また罠……。

 大きなハンマーが降ってきたり、ナイフが飛んできたり、斧が倒れてきたり……。

 ドアを開けるたびにこんな事が起きてるのに、時間なんて気にする余裕、私には無い。


「案外お粗末な罠ばかりだ………警戒していて、尚且つブレード使いなら………簡単に対処出来る」

「だね」

「ごめん、私には無理」


 関心しながら足を進める内に、廊下の1番奥にたどり着いた。

 正面にドア、右に階段がある。


「響人、どっちに行く?」

「とりあえず………この階は全て見ておこう」

「じゃ、ドアだね」


 勾原君は、ブレードでドアの蝶番を少し触ってみせた後、ドアを軽く足で蹴った。

 すると、蝶番はあり得ない形に変形し、ドアは音を立てて倒れた。


「お前の能力………チートもいいとこだな」

「ハハ! 褒めてもなにも出ないよ」


 勾原君は笑いながら部屋に入った。

 私たちもそれに続く。


「何もない部屋だな………」


 響人が言うように、ただ立方体なだけの部屋だ。

 奥にまた階段があるけど。

 廃ビルになる前、何に使われてたんだろう。


「あの階段登る? 僕はよく分からないけど」

「どっちでも変わんないような……」


 勾原君と意見を言い合ってた時。

 誰か、階段を降りてくる音がした。


「誰だ………?」

「命君たち、な訳ないよね……」


 もしかして、手紙を置いてった相手……⁉︎

 向こうから姿を現すの?


 そう思った。

 だが、降りてきたのは、恐らく手紙の主ではないであろう人物だった。


「アイツは………!」

「あの時の!」


 暗がりから露わになったその顔は、あの時、私たちを襲撃した相手……名前は確か——


「夜乃……幽永………‼︎」


 勾原君の声に、怒りが混ざった気がした。

 その表情も、いつもの笑顔でなく、静かな怒りに満ちている。


「よお……この前ぶり!」


 そんな勾原君とは逆に、夜乃幽永は楽しげに笑っていた。

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