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第21話 「VS望川巴⑤」

「案外やるじゃない、命君」

「うっせーよ、涼しい顔しやがって……」


 俺と偽造の戦闘は、側から見れば拮抗している風に見えるかもしれない。

 が、まだ少し余裕のある偽造の方が優勢なのが現状だ。


 ブレードによる身体強化には個人差があるのは分かっていたが、どうやら俺はスタミナが偽造に比べて低いらしい。

 向こうの戦い方がいいとかかも知れんが、兎に角俺の方が消耗している。


「クッソ……なんでそれで負けたんだよお前。能力も強いくせに」

「そんなの簡単さ。巴ちゃんが更に上手だったってだけだよ」


 コイツより上手……。

 ちょっと想像出来ねーな。


 正攻法じゃ、俺が先にダウンする。

 搦め手でどうにかしようにも、偽造を引っ掛ける自身は、正直あまりない。

 こんな常に他人を茶化す事ばかり考えてる様な奴相手にどうしろと……。


「やれやれ、面倒だ」

「出たね、『面倒だ』。なんか久々に聞いたよ」

「あっそ。……じゃあ、そろそろ終わらせるぞ!」

「ああ、かかって来なよ!」


 そう言いあい、俺は先に攻撃に出た。

 シンプルに斬りかかったのを、偽造は容易く防御する。

 攻撃を受けられるのとほぼ同時に、影のアッパーを繰り出す。

 偽造はそれを、バックステップで躱した。


「やっぱ後ろに下がるよな。けどよく見ろ。お前、もうそれ以上下がれねーぞ?」


 偽造の背後はコンクリートの壁だ。


「……みたいだね。でももう下がらないよ。本当は時間稼ぐだけで良かったけど、もうそうはいかないね」


 さて、こっからだ。

 うまくいけよ……。


「次こそ終わりだ。覚悟しろよ」

「ふうん、どうするのかな?」

「こうする」


 俺は影を目の前に集め、巨大な壁を作り出した。

 そのデカさたるや、さっき作ったのとは比べ物にならないレベルだ。

 高さ、幅共に約5メートル。


 影に遮られて姿は見えないが、肝を抜かした偽造の声が聞こえてきた。


「こ……こんなにも大きく出来るんだ」

「どうだ、こんだけでかけりゃ、いくらお前でも飛び越えられねえだろ! 更に……」


 その巨大な壁を、偽造に向けて前進させた。

 ここまでデカイとスピードは出ないが、戦闘不能に追い込むには十分だ。


「勝負あったな!」

「……まだ甘いね! なめてもらっちゃ困るよ! これ位まだ許容範囲さ!」


 壁の反対側で偽造がこの壁を蹴り上がってる音がした。


「三角飛びって分かるよね? むしろ壁に挟まれてて、さっきよりも楽だよ!」

「……!」

「残念だったね。僕の方が上手だ!」

「……いいや違うね」


 偽造が壁を蹴る音を聞き、タイミングを計る。


 今、影の壁を蹴った。

 今、コンクリートの壁に着いた。

 今……コンクリートの壁を蹴った。


「そこだ!」

「っ⁉︎」


 コンクリートの壁を蹴り、影の壁に向かう筈だった偽造は、中空に放り出された。

 何故なら、俺が影の壁を消したからだ。


「あのまま挟まれてりゃ、それで終わりだったんだけどな。問題は無理だった時なんだよ。あんだけデカイの、前に動かすのがやっとで、細かい芸当は出来ねー。なら、こうすりゃ解決だ」

「……」

「これでも無理ならもう結構な無理ゲーだけど、どうだ?」

「……あ〜あ、こりゃ負けたかな。1本取られた」


 宙を舞う偽造に、影のパンチを叩き込んだ。

 そしてそのまま、空中で縛り付け、地面に下ろした。


「うっぐ!」

「さて、話はゆっくり聞かせてもらうぜ。進みながらな」


 響人達は無事だろうか。

 先を急がねえとな……!


「ねえ命君、殴る必要あった……?」

「別にねーけど、腹いせと寝返った罰。理由は途中で聞くけどな」


 俺は、目的地の神社へ向けて走り出した。


「わっちょ……命君⁉︎ 引きずってる! 引きずってるよ⁉︎」

「そうだ、響人に電話……」

「聞いてる⁉︎」







「終わらせるって言っても、何か考えがあるの?」

「………これから考える」

「やっぱり……」


 切りつけた相手を操り人形にするなんて能力、どう攻略すればいいの?

 遠距離攻撃が出来る響人のブレードなら相性はいいけど、またさっきみたいなやり方で防がれたら……。


「考える必要はありませんわ。すぐに終わりますから」

「………思ったよりヤバいかもしれん」

「どういう事?」

「アイツに操られてここに潜んでるのが、今の1人だけだと思うか? 多分囲まれてる………」

「!」

「フフフ、察しがいいですわね」


 響人の勘はよく当たる。

 本当に勘なのかは怪しいけど、響人が確信を持って言ったことは、大抵その通りになる。


「なら、さっさと終わらせましょう」


 その勘は、今回も当たっていたらしい。


 彼女は合図を出す様に、右手を挙げた。

 その瞬間、どこに隠れていたのか、何人もの人が雄叫びをあげながら私達に襲いかかってきた。


「さあ、貴女どんな目に遭うんでしょうね……フフフ」


 恍惚とした表情で、彼女は私に笑いかける。


「響人! どうしよう⁉︎」

「落ち着け」

「落ち着けって、一体……うわっ⁉︎」


 響人が、パニックになりかける私の手をとったかと思うと、響人に引っ張られるように、私の体は宙に浮かんだ。

 一瞬意味が分からなくなったが、すぐに何事か理解できた。


「遠隔操作出来るなら、つかまってれば空も飛べるだろ」


 私の手をとるのと逆の手には、自分のブレードが握ってあった。

 でもこれだと、片手でぶら下がりながら、更に私を持ち上げてるんだけど……。


「えっと、響人……お、重くないの?」

「言うほどでもない………身体強化とやらの影響かな」


 ブレードってすごい。


「おい、望川………終わらせるんじゃなかったのか?」

「クッ……」

「思ったんだけどさ………お前、そんな大した奴じゃないだろ」

「……なんですって?」


 いきなり、彼女の雰囲気が変わった。


「自分を過信しすぎ………そんで、俺を舐めすぎ」

「この愚民が……誰に向かってそんな事を」

「そこだよそこ………他人を下に見ることしか出来てない………馬鹿みたいにみみっちいな」

「黙りなさい‼︎」


 さっきまでとは別人の様に、彼女は響人に怒鳴る様に言った。


「貴方如きが、わたくしを見下すんじゃありませんわ‼︎ 同じ空気を吸っているのもおこがましい‼︎ 取るに足らない存在の分際で‼︎」

「………相当キテるな」


 いくら挑発に乗ったって言っても、あんなに取り乱すなんて。


「ただじゃあ置きませんわ‼︎」


 そう叫び、彼女は私達に向かって走り出した。

 私達が空中にいるにも関わらず。


 真下あたりまで来ると、彼女はそこにいた人達を踏み台にして、高くジャンプした。


「嘘⁉︎ 来た!」

「やっぱやると思った………」


 響人は、浮かぶ位置を少し後ろに下げた。


「逃がしませんわ‼︎」


 彼女はあそこで攻撃せずに、なんと持っていたブレードを、槍投げのように投げ飛ばした。


「!」

「え……」


 彼女の手を離れたブレードは、私に向かって直進してきた。


「………!」


 響人は、標的が私だと気付くや否や、私を投げ飛ばすように手を離し、もう一方のブレードを側に停滞させた。

 なんとか空中でそれに捕まる。


「うっく……響人!」

「チ………」


 私を庇った響人の左手には、彼女のブレードが突き刺さっていた。


「さっきの彼もそうですけど、何故あんな足手まといをかばう必要があるのか……意味不明ですわ」


 彼女は懐から小さなナイフを取り出し、響人の右手に突き立てた。


「っ!」

「あ……!」


 響人の手はブレードを離し、そのまま地面に落下した。

 真下に集まっていた人達は、どこに行ったのか、その場所に居なくなっている。


「さっきは言ってくれましたわね。覚悟はできてます?」

「………」

「変な事は考えないことですわね」


 そう言った彼女が指を鳴らすと、いきなり体に重りがついた様に重くなった。


「キャア⁉︎」

「っ⁉︎」


 いなくなったと思っていた人の何人かが、さっきの彼女と同じ様に、他人を踏み台にしてジャンプし私に飛びついてきていた。


 その重量に耐え切れず、私の手はブレードから離れてしまった。


「うあ!」


 相手がクッションになったのと、そこまでの高さではなかったのとで、落下のダメージは少ない。

 下敷きになったにもかかわらず、その人は私への拘束を解こうとしない。


「彼女を庇いたいのなら、何もしないのが賢明ではありませんか?」

「………」

「フフフ、本当に察しだけはいいですわね」


 響人が抵抗しないとみると、彼女は響人の腕に刺さったブレードを引き抜いた。


「っ………」

「わたくしのブレードの能力は、四肢に攻撃する事で、その部位を支配する事。全ての四肢を乗っ取れば、その人の体は、完全にわたくしの操り人形。心までも、わたくしのものとなりますわ」

「じゃあ勾原君も……この人達も」

「そういう事ですわ。さて、貴方を支配した後、彼女をどんな目に遭わせましょうか。まず身ぐるみを剥ぎましょうか。その後、ここにいる全員でお楽しみ、というところでしょうか……フフフ、想像しただけで滾りますわ‼︎」

「っ⁉︎」

「お前………!」

「それでは、左手の次は右手を貰いましょうか」


 どうしようどうしようどうしよう⁉︎

 このままじゃ響人が……!


 私の所為だ!

 私が情けないから……!

 結局何も出来てない!


 私にもブレードは使えるはずなのに!

 それなのに!


 今からでもいいから!

 響人を助けられる力が……!


 ふと、拘束が解けた。


「うっ⁉︎」

「え……何?」


 私を拘束していた人は、うっすらと光る糸の様な物で、ガリバーみたいに地面に磔にされていた。

 更に、さっき踏み台役になってた人も、同じ糸で拘束されている。


「これって……」


 いつの間に現れたのか、私の右手の人差し指に、環状で先端が尖った小さな刃物が装着されていた。


「出せた……私のブレード!」


 今彼女は、私に背を向け、こっちを見向きもしていない。

 チャンスは今しかない!

 響人を助けるには今しか!


 私は駆け出した。

 みるみる彼女の背中が近くなってくる。


 「⁉︎」


 彼女が私に気付き、振り向いた時には、もう躱すことなんて出来る距離じゃなかった。


 そして、私のブレードは、彼女の胸に突き刺さった。


「はあ……はあ……」

「っ……!」

「天音………?」


 突き刺した人差し指を引き抜き、フラフラと後ろへ下がった。


 血は1滴も付いていない。

 彼女の方も、刺された位置の衣服には穴が開いていたが、傷は見られない。


 もしかして……全然効いてない?

 無意識に殺傷力をセーブしすぎて、攻撃が通らなかった……?


「貴女……」


 そんな、まさか本当に……。


「今一体……わたくしに何を……⁉︎」

「え……?」

「体が……指1本動かせない⁉︎」


 彼女は、さっき振り返った姿勢のまま、微動だにしていなかった。

 よく見ると、彼女の皮膚の表面に、あの糸が張り巡らされている。

 あれで体の自由を奪われている様だ。


「私の能力は、その糸なんだ……! もの同士を縫い合わせたり、縛り付けたり!」

「くっ……! 貴方達‼︎ 何をやってますの⁉︎ 早くこの2人を始末しなさい‼︎」


 半ばヤケな彼女の叫びに反応し、身を潜めていたらしい彼女の支配下の人達が、一斉に私達に向かってきた。


「ご……5人も!」

「今ならまだ少し大目に見ますわ‼︎ この拘束を……」


 その時、黒いなにかが、彼等へと襲いかかった。

 それが現れた方向を向くと、ヘアバンドにジャージを着て、黒い日本刀を持った少年が、少し息を切らして立っていた。


「悪い、ちょっと遅れた」

「向井君! 無事だったんだ!」

「ああ、なんとかな」


 彼はニッと私に笑いかけた。

 良かった、本当に……!


「さて……万策尽きたか? 望川」

「……っ!」


 響人がゆっくりと立ち上がり、無感情に言い放った。


「駒はもういない………お前は動けない………よってもう人質の心配はなし」

「そんな………………わたくしが…………貴方達如きに…………こんな事…………」


 彼女は焦点の合わない目で、うわ言の様に呟いている。


「一生やってろ」


 響人の2本のブレードが、彼女を十字形に切りつける。

 彼女はそのまま意識を失った。


「天音………もう糸ほどいていいぞ」

「あ、うん」


 頭で念じると、彼女を締め付けていた糸はみるみるうちにほつれていき、何処かへと消滅した。

 支えを失った彼女の体を、向井君が前に出て代わりに支えた。


「あのタイミングでの天音の覚醒、向井の登場………全て計算通」

「嘘つけ! つーかお前、なんで携帯出ねえんだよ⁉︎」

「悪い。あの後電源切ったんだ………まあでる余裕もなかったが」

「……まあいいや。それより、よく無事だったな。良かった」


 向井君は、安堵の表情を浮かべてそう言った。

 自分も大変だったのに、彼はいい人だ。


「まあそれは………天音のお手柄ってことで」

「え⁉︎」


 なんでそこで私の名前が⁉︎


「いやいや! 私はそんな大したこと……」

「お前がいなかったら、俺は負けてた………勝てたのはお前のお陰だ」

「で、でも途中まで私足手まといだったし……」

「俺は、お前を足手まといに思った事はないぞ?」

「!」


 響人の言葉に、私の顔はいちいち火照る。

 恥ずかしい……。


「………そうだ向井、勾原はどうした?」

「! 本当だよ! どこにいるの⁉︎」

「どこって……」


 向井君は、自分の後ろに目線をやった。

 その方向を見ると、向井君の影で縛られ、目を回した勾原君が倒れていた。


「えーっと……向井君?」

「心配すんな! アイツはこの程度じゃ死なねーよ!」

「なにしたの⁉︎」


 向井君……なんで勾原君への風当たりだけ、こんなにきついんだろう。

ブレード名:アマテラス

所有者:望川巴

身体強化:バランス型

形状:槍にしては刃が長く、柄が短い。1:1位。

能力:他人の四肢に攻撃することで、その部位を支配し、自在に操れる。

・両手両足全てを支配すると、自身の完全な駒にできる。

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