第16話 「屋上での一コマ」
「う…………」
昨日から体調がよろしくない。
まさか一口食っただけで記憶が飛ぶとは思わなかった……。
叶恵を除いた2人も具合が悪そうだったので、2人がかりで処理したんだろうか。
「ねえ命君、机に突っ伏してる所悪いんだけどさ」
「お前もだろ。で、なんだ?」
偽造もアレを口にしたのだから、体調がいい筈が無かった。
「巴ちゃんの所に行ってみようと思うんだけど」
「……お前が会ったって奴か。今行くのか?」
突っ伏したまま視線を偽造の方へ向けた。
偽造は突っ伏すのをやめて、いつもの様に笑ってみせる。
「まさか。もし戦闘になったりしたらシャレにならないからね。あの娘なら関係無い生徒を簡単に巻き込みそうだし。そうだなあ、昼休みか放課後に呼び出そうか……」
「フフフ、そんなにわたくしに会いたかったんですの?」
「「⁉︎」」
突然少女の声がしたかと思うと、その声の主であろう少女は偽造の後ろから抱きついた。
真っ白な髪と、一見穏やかそうな真っ赤な目。
外見の特徴から見て間違いないだろう。
彼女が、望川巴だ。
「お前……!」
俺は体を起こし、彼女を睨みつけた。
「落ち着いて下さい。今ここで争う気はありませんわ。ただ彼に会いに来ただけですの」
「偽造に? なんの用で……⁉︎」
「命君……ちょっと待って」
偽造の顔と声色が真剣になった。
「な、なんだ?」
「僕さあ……今後ろから抱きつかれてるよね?」
「?……ああ」
「あのね……背中に当たってる」
「………は?」
「これは感覚なんだけど……D位はある気がする」
「……なに言ってんのお前」
いや、マジでなに言ってんだコイツ。
お前いわばピンチだよな?
完全に敵に後ろとられてるもんな?
それがなんだ、当たってるだ?
D位だ?
馬鹿かお前⁉︎
ほら見ろ、抱きついてる方もちょっと怒った顔してる。
「本当になにを言ってますの? わたくしはEですわ」
「いやそうじゃねーだろ!」
思わず素のツッコミが出た。
もしかして2人とも馬鹿⁉︎
「それは申し訳ない。で、僕に用って? もしかして抱きつきに来ただけ?」
「まあ、そういうことですわ。目の保養といった所でしょうか」
「えー……」
なんか……イメージと大分違う。
チンピラ共に殴り合いさせる様な奴だから、もっとエグいのかと思ってたら。
「フフフ、貴方も悪くないですわね。貴方にもして差し上げましょうか?」
「いや、いい」
ほぼほぼ痴女じゃねえか……。
「まあ、貴方方じゃ、所詮はお遊び止まりでしょうが」
いや、コイツ敵だし。
そんな関係にはならねえだろうよ。
「そうそう、1つ言っておきますわ。貴方方には、わたくし達を止められません。せいぜい足掻いて下さいな」
「……止めてやるよ」
依然抱きついたままの巴と睨み合う。
……ああ、偽造が言ってたのはこれか。
完全に見下して、既に自分が勝ったかの様な眼差しだ。
よっぽど傲慢じゃないと、こんな目出来ないだろうな。
「さて、十分保養出来ましたし、そろそろ失礼しますわ。では御機嫌よう」
そう言い残し、あっさりと教室を後にした。
……本当に保養に来ただけかよ。
「……ん? お前どうかした?」
「いや、遊びでパンチラくれる? 普通」
「パン……⁉︎」
お前……ズルイ!
*
「まだ誰もいねえのか」
昼休みになり、俺は屋上に来た。
というのも、この時間に例のメンバーで屋上に集まる約束をしてあるからだ。
そこで飯食いながら、ブレード関連の話したり、世間話したり(4:6位)……特になにをするでもなくダラダラ過ごすのが、俺は結構好きだったりする。
にしても、俺が1番乗りとは珍しい。
雄生あたりが先に到着してると思ってたが。
雨……いや、お菓子が降って来るんじゃねーの?
なんて。
「いてっ」
落ちてきた何かが頭に当たった。
見てみると、足元に板チョコがある。
これが当たったのか……?
「え?……マジで降ってきた?」
「当たったか………すまん」
声のした方を向くと、入り口の小屋みたいな所の上に男子が1人座っていた。
クマの濃い眠そうな目で、眼鏡を掛けている。
「うたた寝してたら落とした」
「別にいいけど、なんでそんなとこにいるんだ?」
「そこにはしごがあるだろ?」
「いや、手段じゃなくて理由を聞いたんだが」
「………そんなに知りたいか?」
「えーと……そこまで知りたくは」
どうしよう。
なんか面倒そうな奴と絡んじまった……。
「そのチョコやるよ………まだ開けてないし。お詫びってことで」
「おう、サンキュー……」
「落としたから………バキバキに割れてるだろうけどな」
「……本当にお詫びか?」
「勿論だ」
なんつーか、アレだ。
偽造とは違うベクトルでからかわれてるような気がする。
今のやり取りで、アイツが表情一つ変えていないのを見る限り、かなりの手練れだと思う。
「響人! ここ⁉︎」
「うわっ⁉︎ ビックリした!」
突然目の前のドアが開かれたかと思うと、黒髪ロングの女子が入って来た。
向こうも、ドアを開けてすぐに俺がいたので驚いたらしい。
「わっ! ごめん。ちょっと人を探してて……」
「いや、別に気にしねーよ。で、人探してるって」
まさかとは思うけど……。
「俺はここだ」
「響人⁉︎ そんな所でなにしてるの?」
やっぱりそうか。
お約束乙。
「もう、急にいなくならないでよ」
「悪い」
「本当にそう思ってる?」
「思ってるとも」
「全くもう……」
無表情なので、アイツの真意はよく分からない。
こっちの娘は付き合い長いんだろうか。
気苦労が絶えなそうだ。
つーか、真意の読めない眼鏡って、奴を連想するな……。
「ねえ、響人がなんか迷惑とかかけなかった?」
女子の方が申し訳なさそうに尋ねてきた。
まるで保護者だな。
「かけてないかけてない。そんな事心配すんなよ」
「本当に? なんて言うか……得なのか損なのかよく分からない事とか」
「だからそんな事……された様な気もするな」
俺の頭を、さっき降ってきたチョコがよぎる。
優しそうだけど、結構鋭いな。
それだけ付き合いが長いって事か?
またドアが開き、今度は叶恵が入ってきた。
「あ、カムイさん、と……」
と思ったら、知らない人がいるのに気づき、後戻りしてドアの隙間から顔を覗かせている。
「カムイ君? 変わった名前だね」
「え? いやいや! あだ名だあだ名! 本名は向井だ! 向井命!」
なんで焦った勢いで自己紹介してんだ俺。
「ムカイを並び替えてカムイ………か。いいセンスだな」
クッ……!
アイツが言うと褒めてんのか皮肉なのか分かんねえ!
「ああ、なるほど名字を。私は崎和天音。よろしく向井君」
「あ、ああ」
なんかこの娘……常識的だ!
いや、俺の周りが濃すぎるだけかもしれないが。
久々だ、喋ってて疲れない相手……。
「そっちの娘は?」
「ん? ああ」
天音の目線の先にはドアに隠れる叶恵の姿があった。
「悪いな。そいつ人見知りなんだよ」
「そっか。ゴメンね、驚かせちゃった?」
「いや……そんな事無いです。えーと、葉隠叶恵です」
「私は崎和天音。よろしく叶恵ちゃん」
偽造には未だ心を開いてないのに……。
膝を屈めて目線を合わせるその姿は、叶恵には母性に溢れて見えるんだろうか。
もしくは偽造が怪しいのか。
……分かった、両方だ。
「ゴッメ〜ン! 待ったぁ〜?」
「気にするな………待ってないから」
「ん? 誰?」
昨日と同じノリで現れた偽造に、何故かアイツが答えた。
「鳴谷響人………好物はチョコレートだ」
「勾原偽造。好物は焼きそばパンだよ」
2人が自己紹介し出した瞬間、叶恵が天音の後ろに隠れ、警戒心剥き出しで睨み出した。
あの具合だと、偽造はともかく響人って奴の事も苦手らしい。
「友達?」
「まあな。知り合ったのは去年だけど。えーと、天音だっけ? そっちこそ、アイツと付き合い長いんじゃないか?」
「うん、まあ……小学生の頃から」
「道理で。……?」
心なしか、天音が顔を赤らめてる気がする。
これは……もしかすると。
「ぶっちゃけ……どこまでいってんだ?」
「ふぇっ⁉︎ な……ななんでそんな事聞くの⁉︎」
「いや……なんとなく。気にしないでくれ」
「うぅ……」
天音は顔を真っ赤にして俯いてしまった。
なんて分かりやすいんだ……。
そして今現在、進展なしで幼馴染止まりと見た。
偽造の格好のカモにされそうだな。
……頑張れ、応援してるぜ。
「あれ? そういえば雄生君は?」
「そういや遅いな。ホント珍し……」
ここに来て、嫌な予感が頭をよぎった。
アイツまさか、また敵に襲われてんじゃないだろうな⁉︎
あの巴か、まだ別の奴がここにいるのか……。
十分あり得るぞ。
昨日、アイツと叶恵で1人倒してるから、敵討ちって事も……。
「俺ちょっと様子見てくる!」
「え、命君⁉︎」
ドアを乱暴に開き、階段を駆け下りる。
もっとはやく気付いてれば……!
「アレ? 命さん、どうかしたんスか?」
「え? あ……」
階段の途中で、雄生と鉢合わせた。
腹を押さえ、顔色も若干悪い。
「……どうしたんだお前?」
「いや、あれから腹の調子が悪くて」
「そ、そうか。ああ……そういや俺もなんか気だるいなー……ハハハ」
「?」
やっぱ最近どうも神経質になってるな。
早とちりは良くない、うん。
サイケデリックラーメンの戦績
命:一撃でノックアウト。倦怠感という名の後遺症を残す。元々とか言わない。
偽造:何度か意識が飛びかけるも、生還を果たす。その晩は眠れなかった。
雄生:偽造と共に、なんとか生還。しばらく腹痛に襲われる事になる。
叶恵:実に半分以上を余裕でたいらげた。上の二人が生還出来たのは、大体彼女のおかげ。




