第15話 「尋問」
簡潔に説明しよう。
授業が終わってすぐに、俺と偽造は職員室に行った。
偽造が会ったという巴とかいう奴の事を調べるためだ。
だが分かったのは、家が神社って事と二年って事位で、詳しい事はプライバシーの関係だかで調べられなかった。
その後、ソイツの教室に行ってみたが、既に帰ってしまっていた。
で、待ち合わせ場所(下足)で後輩二人を待っていたんだが、中々来ない。
先に帰ったとは考えづらく、何かあったんじゃないかと駆けつけた時には、二人で敵一人に勝利していた……。
「命さん? 聞いてます?」
「え? ああ、すまん。なんだ?」
あまりの急展開に、思考が一瞬麻痺してしまっていた。
「悪いんスけど、影使ってコイツ縛る事って出来ますか?」
「おう、お安い御用だ……って、なんか顔色悪くねえ? 本当に大丈夫か?」
「大丈夫ッス。ちょっと色々あっただけで……」
「?……まあ大丈夫ならいいけど」
よく見ると、叶恵の方も若干表情が引きつっていた。
戦いの中で余程の事があったんだろうか。
後輩のピンチに駆けつけられず申し訳ない……。
「ていうかさ、彼まあまあ重傷に見えるんだけど……大丈夫だよね?」
「死なない程度には治しときました。死んでなきゃ大丈夫ッス」
「なに物騒な事言ってんだ……シャレになんねえぞソレ」
会話をかわしつつ、縛ったコイツを監視する。
まさか校内に二人も敵が潜んでたとはな。
もうどこにコイツらの仲間がいてもおかしくないぞ。
「ぐっ…………」
「あ、目覚めた?」
「ん、じゃあ色々聞かせてもらうか……ってお前等どうした?」
コイツが目を覚ましたのに気づいた瞬間、2人の後輩が一歩後ろに下がった。
「いや、別に……」
「こ、ここ怖くないですよ? 全然」
目も合わせない。
やっぱ余程の事があったのか……。
対するコイツは、自分の置かれた状況を確認しているようだ。
「どうやら僕は負けたらしいですね……♪ そして影を使うというのはあなたですか♪」
「そんな事より俺から質問するぜ。残りの奴のブレードを教えてもらう。それと、お前等が計6人ってのは本当か?」
「何故それを……ああ、巴さんが言ったんですか♪ とことんあなた達を舐めてるなあ、あの人♪」
それってつまり……本当って事か⁉︎
「ふうん、ならここで君がやられたから、残りは4人って訳だ」
「確かに♪ この傷じゃあ暫くまともに動けやしません♪ でもね……あなた達に勝ち目は無い。断言します♪」
「んな事聞いてねー。残りの奴の能力はなんなんだ?」
「それは言えません♪ 仲間は裏切れません♪ たとえなにをされたってね♪」
「……なに?」
コイツ、今仲間は裏切れないって言ったか?
「これは僕達全員そう思ってますよ♪ あの傲慢な巴さんや楊太郎さんだってそうだ♪」
巴という奴の事はよく知らない。
けど、あの毒霧野郎まで、仲間は裏切らないってのか⁉︎
アイツは仲間のゴロツキ共を何とも思ってない様な奴じゃ無いのか⁉︎
「言いたい事は分かります♪ 楊太郎さんと戦ったなら、彼がどんな人物かよく知ってるでしょう♪ ですが、彼は命乞いこそすれど、僕達の事を売ろうとはしなかったでしょう? もしあなた達が尋問したとしても、なにも答えなかった筈です♪」
……絶対に仲間は売らない、か。
それだけ聞いたら、案外いい奴なんじゃ無いかと思えるかもな。
けどな………。
「お前ら自分が何やってるか分かって言ってんのか! 許される訳ねーだろ!」
「……こっちからも聞かせて下さい。何故、あなたはそんなに躍起になってるんですか?」
「…………」
少し考えた。
なんて答えようか……
「俺が一番聞きてえよ……て言いたげな顔してるね?」
「っ⁉︎」
「命君らしいねえ〜。お人好し過ぎて行動に理由が皆無なとことかさあ!」
「考えるより体が先に……って事ッスか⁉︎ まさに漢の中の漢ッスね‼︎」
「それじゃ私も男になるじゃない!」
「お前はまた種類が違うだろ」
「じゃあいいわ」
「うっせーなお前等! 別にそなんじゃねえよ! あと叶恵! それいい意味じゃないからな⁉︎」
急に日常な雰囲気になって騒いでいると、座ってた奴がクスリと笑った。
「な、なに笑ってんだお前!」
「いやいや失礼♪ 思ったより年相応なんだなと思って♪」
「もう話戻すぞ……えーと、なんの話だっけ……」
「僕が話す事はなにもありません♪ 拷問されても……まあそんな心配なさそうですが♪」
「…………」
「ですが♪ 1つ言うとするなら、僕達の本当の目的はこんな事じゃない、とだけ♪」
「は? なんだよそれ……」
「ところで、今のの代わりと言ってはなんですが、拘束を解いてくれませんか? この怪我で4人相手に暴れるわけないでしょう?」
「ああ⁉︎ なに言ってんだコノ野郎‼︎ 信用出来るわけねえだろ‼︎」
「そうよ! あんたが危ない奴ってのは経験積みなのよ!」
コイツの申し出に対し、後輩勢が猛抗議した。
若干遠めの位置で。
「まあまあ。もし暴れたって、今度は僕も命君もいるからさ。好きにはさせないよ」
「駄目ッスよ偽造さん‼︎ 1回でも切られれば、コイツに恐怖心を植え付けられます‼︎」
ああなるほど、それでさっきから様子がおかしかったのか。
「なにもしませんよ♪ これ以上怪我したって、僕が損するだけですしね♪」
「……偽造、一応構えとけ」
「分かってるよ」
俺も偽造も臨戦態勢に入り影の拘束を解いたが、コイツは座り込んだまま動かない。
「僕の事はほっといていいですよ♪ 適当に帰りますから、お先にどうぞ♪」
軽いな……。
てっきり暴走するかと思ったんだが。
「じゃあさっさと帰りましょう」
雄生はコイツと同じ空間にいるのがたまらないらしい。
横で叶恵が凄い頷いてるし。
「じゃ、そうしますか」
「いや待て、ちょっと寄るとこあるだろ」
「……ああ! そうだった!」
後ろを警戒していたが、結局アイツはなにもして来なかった。
*
「なんかさあ、ここに来ると落ち着くよね」
「そうだな」
「そんなに頻繁に来てんスか?このラーメン屋」
「そういうわけじゃねーけど……なあ?」
「だね」
偽造にふると、当たり前の様に同意した。
一山越えたらってわけじゃないが、今や何と無く定番化している。
「因みに命君の奢り?」
「アホか。俺とお前で割り勘だよ」
「え、いいんスか?」
「おう。今回俺達なんもしてねえしな。逆にこれ位奢らせろ」
「私替え玉頼んでいいですか⁉︎」
「い……1回だけな。」
「やった!」
アイツ確かチャーハンも一緒に頼んでた筈だが。
叶恵って小柄なのに大食いなんだな……。
隣で財布の中を見て肩を落としてる男がいるが、知ったこっちゃない。
俺だってそんなに持ってないからな……。
「それはそうとして……雄生」
「……」
さっきからずっと気になっていた。
雄生の前に置かれたラーメンの事が。
光の加減でカラフルに見えるシャボン玉、といえばいいだろうか。
そんな色のスープのラーメンが、雄生の前に置かれていた。
「なんだ、それ?」
「……分からないッス」
「分からん物を注文するな! それ多分食っちゃダメなやつだろ! ていうか何ラーメンだそれ⁉︎」
「『漢の挑戦! サイケデリックラーメン』とかいう……」
「漢ってついてりゃなんでもいいのかお前は!」
「いやそういう訳じゃ‼︎」
「ていうか、サイケデリックって言っちゃってるよね……」
「よく分かんないけど、それ食べたら死ぬんじゃない?」
とはいえ、注文してしまった以上、きちんと処理しなければならない。
「とりあえず、一口だけ食ってみろよ」
「そうッスね。じゃあ……」
雄生は恐る恐る麺を口に運ぶ。
スープがカラフル過ぎて、麺がどんななのかよく分からないのがまた怖い。
そして躊躇しつつも、遂に麺を口の中に含んだ。
その瞬間。
「‼︎‼︎‼︎‼︎」
「お、おい雄生⁉︎」
「ちょっとスンマセン……‼︎」
口早にそう言ったかと思うと、雄生は奥にある手洗いに駆け込んで行った。
「…………」
「えーと……どうする?」
「どんな味なの……?」
「やめとけ。一旦箸置こうか、叶恵」
今のを見て味見しようとするって……。
「ハア……」
1分位して、雄生が戻って来た。
「雄生? 大丈夫か?」
「………………………全部俺に任せて下さい‼︎」
「待て待て待て待て!」
これはヤバイぞ。
覚悟を決めた目をしている!
「待てません‼︎ これは俺の責任ッス‼︎ こんなとんでもないモンを呼び出しちまって……‼︎」
「1人で背負い込むんじゃねえ! 全員で協力すりゃあなんとかなる筈だ!」
「え……僕も食べるの? 凄い嫌なんだけど」
「偽造テメエ……!」
どうする?
雄生に押し付けるのは簡単だし、本人も了承するだろう。
だがそれじゃ納得出来ない。
雄生や叶恵ばかり辛い目に合わせるわけにはいかない。
「偽造……腹括れ」
「……本当に?」
「本当だとも。覚悟はいいか? 俺はできてる」
「ハア……」
偽造も観念したらしい。
「命さん……」
「心配すんな。俺はこんな所で終わらねーよ」
丼を自分の前まで持って来て、目を閉じて集中力を高めた。
「来いッ! サイケデリックラーメン!」
その後の事はよく憶えていない。
微かに記憶に残っているのは、口の中を埋め尽くす、どの味覚とも似つかない様なエグい風味と、俺の名を呼ぶ仲間達の声だけだった。
*
命達が去った後の学校の廊下にて、楼木碇は座り込んだまま動かなかった。
というより、下手に動いて傷が悪化するのを避けていた。
多分もうそろそろ、あの人が姿を現すだろう。
だから、別に助けを呼ぶ必要性も感じていなかった。
「お待たせ、碇」
「……やっぱり来ましたね、見児さん♪」
碇の予想通り、見児は何処からか現れた。
「楊太郎に続いて君も負けちゃったか。命達も侮れないみたいだね」
「そのようですね♪ 僕も少々……いや、かなり甘く見てました♪ その結果この体たらくですよ♪」
「そっか。それで君はどう思う?」
「どうって何がです?」
「命達と君達、運命はどっちに味方すると思う?」
「……さあ。運命とやらがどうなるかは知らん。ただ………俺達は負けねえ。確かに俺と楊太郎は負けたがな、巴や狩真、そしてあの2人が……負けるわけがねえよ」
碇は、命達を見下しているわけではない。
特に、雄生と叶恵に対しては、ちょっとした敬意すら払っている。
だが、残りの4人が負ける様な事は、絶対にあり得ないと断言出来た。
「ボクが君達が負けると考えてると思ったかい? 誤解しないで、そうは言ってない。運命がどうなるかは分からないってだけだよ」
「……失礼♪ 少し頭に血が登っただけですよ♪」
「いやまあ、君の自信もよく分かるよ。彼等はすごく強い。本気を出した所なんて、想像も出来ない」
「……ですね♪」
そういう見児に対し、碇はこう思っていた。
本気が想像出来ないのは、あなたもそうだ。
僕が知る人物の中で、あなた程不気味で得体の知れない人物はいない、と。




