第12話 「連撃」
「遅い……」
アイツ、売店で買い物すんのにどんだけかかってんだ。
既に偽造以外のメンバーが屋上に集まって、10分位は経った。
「まあまあ命さん、売店が混んでるのかもしれないッスよ?」
「どうだかな〜」
「カムイさん、あと1人ってどんな人ですか?」
「なあ、さっきから気になってたんだけどよ、カムイさんってなんだ? あだ名か?」
「ハァ⁉︎アンタ、カムイさん知らないの⁉︎」
「な、なんだよ⁉︎」
「超有名よ⁉︎ 数々のゲームで伝説的なスコアを叩き出して、その存在は私達ゲーマーにとっては神といっても……」
「だあああ! もうやめろ‼︎ こんな所でカミングアウトすんじゃねえ!」
「ゴッメ〜ン! 待ったぁ〜? ってグフ⁉︎」
変なテンションで登場した偽造に、空き缶を投げつけてやる。
「遅えよ。焼きそばパン買うのにどんだけかかってんだ」
「いやー、ゴメンゴメン。ちょっと敵に襲われててさ」
「ああ、なるほどな……いや、ちょっと待て! 襲われた⁉︎」
偽造の口から、さらりととんでも無い事が聞こえた。
「アイツの仲間か⁉︎ まさか学校の中に⁉︎」
「いるもなにも、あの娘ここの生徒だね。髪は真っ白で目は真っ赤な女の子。望川巴って名乗ってた。能力はちゃんと確認したわけじゃないんだけど、他人の体を操り人形みたいにするって感じだった」
「それって、あの事件の犯人って事じゃ無いッスか⁉︎」
「そうだね、自分でそう言ってたし」
この学校の生徒にアイツの仲間が……。
しかも今回の事件の犯人ときた。
進展といえば進展だが、もしそいつがここで能力を使えばと考えると、最悪なビジョンが浮かんでくる。
校内が乱闘状態になり、全員重傷なんてことになったら……。
「ん? じゃあなんでそいつは、能力を使って俺達を攻撃しないんだ? その気になれば、一網打尽にできるだろ」
「そりゃ、こんな所で暴れたら目立つからでしょ。考えれば誰でも分かるよ?」
「う……うっせーよ」
「それで偽造さん、他になんか分かった事は?」
「あ! そうだそうだ! 向こうは全6人で、残りは5人だって言ってたよ。見児君は抜きで」
「え、ちょっ……それは嘘じゃないのか?」
偽造はあたかもビッグニュースの様に言ったが、それを鵜呑みにするのはどうなんだ?
そんな事を安々と教えてくれるとは到底思えないが。
「いや、僕は本当だと思うよ?」
「なんでそう言い切れる?」
「あの娘さあ、僕の事物凄い見下した目で見てたんだ。完全にこっちを舐めきってるよ。これ位のハンデがあっても、まだ自分達には及ばないから余裕、みたいな?」
「なんだそりゃ……」
いくら見下してるっつっても、本当の事言うだろうか。
あまり信じない方がいい気がするが……。
「あのー……」
「あ」
気付けば、叶恵がジトッとした目でこちらを見ていた。
元々こいつの紹介の予定だったのに、完全に忘れてた。
なんかゴメン。
「すまん叶恵、こいつは勾原偽造。なんか怪しいが敵じゃ無い」
「へえ、叶恵ちゃんっていうの。よろしくね!」
「…………よろしく」
叶恵は、ジトッとした目のまま偽造の方を向き、短く吐き捨てた。
どうやら自分が置いてけぼりにされて不貞腐れてたわけではなく、ただ偽造を警戒しているだけらしい。
気持ちは分かるよ。
よーく分かる。
「不用意に絡むなよ? お前が犬の前横切って、あり得ない位吠えられたの知ってんだからな? 多分本能的に警戒心が煽られんだよ」
「なにそれひどくない? これでも結構告白とかされるんだよ?」
偽造はアイドルっぽいポーズをとり、ウィンクをかましてきた。
……シャレにならん位ウゼー。
「それが逆に腹立つんだよ。いちいちポーズ決めんな。ていうか見ろ、叶恵が隠れただろ」
いつの間にやら、叶恵は俺の後ろに回り込み、偽造を睨んでいた。
偽造はがっくりと肩を落とし、溜息をつく。
まあ俺の時も最初は似た様な感じだったけどな。
普通に人見知りなのかもしれない。
「命さん、さっきの話の続きなんスけど、そいつどうします?」
「ん……そうだな。学校で騒ぐのは避けたい。出来れば放課後に接触したいとこだが、どうだろうな」
「ここで怪しい事があったら、俺は迷わずそいつを問いただすつもりですし、場合によっちゃあ、戦闘になるかもしれません」
「その時は俺もそうする。そうならねーよう願ってるけど」
「わ、私も! 私も頑張ります!」
叶恵は依然俺の後ろだが、意気込みは十分な様子だ。
「お前ら……頼りにしてっけど、あんま無茶すんなよ?」
全く、かなり危険な事なんだぞ?
頼もしいと思いつつも、心配な気持ちのが強い。
そんな感情が苦笑いとなり顔に出るが、後輩2人は士気を高めあっていた。
「で、でもあれよ? 私実戦とかはアレだから、いい感じで助けてよ?」
「オイオイ、まだなにも起きてねえのにそれじゃ駄目だろ。漢ならシャキッとしろよ‼︎」
「私は女よ! 見りゃ分かんでしょ! アホか!」
横で偽造がクスクスと笑ってる。
だ……大丈夫かなー……。
*
先程の一件の後、望川巴は廊下の窓に手をつき、外の景色を眺めていた。
相手に一杯食わされ逃げられた事に憤りを感じ、すぐにでも報復したいが、昼間の学校で自身の能力を使えば、確実に騒がれてしまう。
やり場のない苛立ちが、彼女の中に募って行く。
「あれ? こんな所でなにをやってるんです? 巴さん♪」
「……別になんでもありませんわ」
突然軽快な口調で話しかけてきた少年に対し、巴は素っ気なく返した。
「貴方こそ何ですか? ここには2年生の教室しかありませんわよ?」
「嫌だなあ、もう♪ 僕だってここの生徒なんだから、どこにいたって変じゃ無いでしょう?」
「ならわたくしだって、ここにいても可笑しくは無いでしょう?」
「おや、それもそうですね♪」
巴とこの少年は、しばらくはこんな他愛もない会話を続けていたが、少年の方が話題を変えた。
「ところで、楊太郎さんをやった人達にはどうでした?」
「最初からその話をすれば良いじゃありませんの。まだ1人しか会ってませんけど、中々に好みでしたわ……フフフ」
「ほう♪ 巴さんがそう言うとは。ブレードは見ました?」
「はっきりではありませんが。立っている場所が沼の様にぬかるんだ風に感じましたわ」
「なるほど♪ これで3人全員の能力が、ある程度割れましたね♪」
少年は、細めている目を蛇の様に見開き言った。
「碇さん、貴方やる気ですの?」
「安心して下さい、見児さんにフィールドも用意してもらいますし♪」
「下手に動けば、あのお方に迷惑がかかりますわ」
「大丈夫ですよ♪ 僕を信じて下さい♪」
少年はそう言うが、巴は信用できない。
この、一見乗りの軽い少年の本性を知っているから。
「まずはそうですね。傷を治せるって人をどうにかしましょうか♪ 確か僕と同じ1年の筈ですね♪」
「本当に大丈夫ですの?」
「……俺に任せろって言ってんでしょ? しつこいなあ……」
巴がもう1度念を押すと、少年の雰囲気が少し変わった。
軽かった口調が、高圧的でやや乱暴なものになった。
「おっと、すいません♪ 失言しました♪」
「気にしませんわ。くれぐれもお気をつけて」
少年の口調と雰囲気は、すぐに元に戻った。
まるで、さっきの言葉が聞き違いの様であった。
*
「ふぅ……」
6時間目の授業が終わり、周りの生徒達は鞄を持ち、わらわらと教室を出て行く。
命さん達はどうすんだろ。
偽造さんが会ったって奴を探すんだろうか。
なら俺も手伝うか。
「日直のやつ誰だ? これ運んで欲しいんだが」
「あ……」
先生に言われ、今日の日直が俺だった事を思い出した。
「了解ッス。それッスか?」
「あ、ああ諏訪間か。すまんな……」
大抵の先生は、俺を見ると何故か一瞬驚く。
命さんも初対面の時は、なんか白々しかった。
1回理由を聞いてみたが、「そりゃそうだろ」と言われた。
どういう事だ?
職員室の机までプリント類を運び、命さん達と合流しようと思ったが、ある事に気付いた。
「鞄もなにも持ってねえ……」
教室に持ち物一式置きっ放しだ。
……まあしゃあねえ、戻るか。
教室のドアを開けると、生徒が1人残っていた。
特に喋ったことも無いので、気にせず鞄を手に取ろうとすると、そいつが突然駆け寄って来た。
「あ?……っ⁉︎」
俺に突き出された左手には、拳をすっぽりと覆う刃のついた籠手の様な物が装備されていた。
ブレードを出し、その突きをギリギリでガードした。
「ビンゴ♪ 楊太郎さんをやったのは、あなたですね♪」
「何だテメエ‼︎ 野郎の仲間か⁉︎」
聞くまでも無いが、突発的にそう口走った。
学校内どころか、同じクラスにいやがった‼︎
「確かテメエは……楼木碇だっけか。こんなところで正体現すたあ、覚悟は出来てんだろうなあ⁉︎」
「あなたこそ♪ 僕に半殺しにされる覚悟は出来てますか? あなたは傷を治せるらしいですからね♪ 生半可な怪我じゃ、すぐ治っちゃうでしょ?」
やっぱ俺の能力がばれてやがる。
命さんもあの野郎と戦ったから、多分ばれてる。
偽造さんはどうか分からんが。
「そんな覚悟はいらねえな。テメエはテメエの覚悟だけしてろ‼︎」
「そう焦らないで♪ ここじゃなんですから、場所を変えましょう♪」
奴はそう言い、机から鏡を取り出した。
持ち歩くにしてはデカイが、とても入れそうには見えない半端な大きさだ。
だが、奴は吸い込まれる様に鏡に入って行った。
「大きさはあまり関係ねえのか?」
にしても、先に入られちゃ、待ち伏せされるかもしれねえ。
少し位の傷なら、奴の言うとおりすぐに治る。
だが、奴の能力が分からん。
無闇に突っ込むなと、以前釘を刺された手前、少しためらいが生じるが……。
「……考えてる場合じゃねえ‼︎ 来るなら来やがれ‼︎」
勢いに乗り鏡に入る。
「痛っ……⁉︎」
出口の周囲に、何かが浮かんでいた。
不可抗力でそれに触れてしまい、その部分が少し切れた。
「なんだこりゃ⁉︎ これがテメエの……⁉︎」
奴を目で見た瞬間、背筋が凍る様な感覚に襲われた。
体が無意識に震える。
足が竦む。
冷や汗が流れる。
思わず後ずさりする。
俺は何をされた……⁉︎
「まさかいきなり食らうとは♪ もしかして馬鹿なんですか?」
「クッソ‼︎ なんなんだ……⁉︎」
「知らなくていいですよ♪ もうこれでブスリとやれば終わりです♪」
なんてこった……‼︎
やっぱもう少し考えて動けばよかった!!
「うわ! 本当に通れた!」
追い詰められた状況の中、いきなり場違いな驚きの声が聞こえてきた。
声の方向を向くと、さっきの鏡から、葉隠がもぞもぞと出て来ていた。
「?……どういう状況?」
巴は面食い。




