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第13話 「楼木碇への恐怖心」

「……ぃ。おーい。起きなよ」

「ん…………?」


 体をゆさゆさ揺らされて顔を上げると、白衣を着て眼鏡をかけた人が立っていた。


「あんた誰?」

「いやあ、よく寝てたね。もう教室がもぬけの殻だよ?」

「もぬけの……なに?」

「あれ、難しかった? まあいいけど」

「ん………白衣と眼鏡?」


 あれ……?

 こんな格好の人がどうって話、なんかで聞いたような………。

 えーと……。


「隣の教室で、敵のブレード使いが現れたよー」

「……ハッ! 敵⁉︎ 隣で⁉︎」

「うん、隣で。何処かに鏡が落ちてるだろうから、そこに入れば」

「鏡⁉︎ あ、分かった! カムイさんが言ってた鏡使う奴ってあんたでしょ⁉︎ なんで学校にいるのよ⁉︎」

「ほう。ボクがブレード使いを生み出すブレード使いだと思ったかい? ああ、その通りだよ」

「なにややこしい言い方してんのよ! 今すぐぶっ飛ばしてやるから覚悟しなさい!」

「まあまあ。早くしないと、隣にいる敵が逃げちゃうかもよ?」

「あ、そうだった! ここで待ってなさいよ! すぐ戻ってくるから!」


 隣の教室で、落ちてる鏡に入る、と。

 私は乱暴に扉を開いて、教室を出て行った。


「なんか、騒がしい娘だなあ……」


 出てった教室からそんな声が聞こえた気がした。




*




「ねえ、あんたここでなにやってんの? 敵は?」

「そこにいんだろ‼︎ アイツだアイツ‼︎」


 なんでこんなに呑気なんだと思いつつ、俺は楼木の方を指差す。

 楼木は軽快そうな雰囲気で、常に目を細めている様な奴だ。

 髪は黒いが、1房だけ白い癖毛が伸びているのが妙に目立つ。


 「おや……? 君の事は知りませんね♪ まあ、ここでやってしまえば問題ないですけど♪」

「っ‼︎ おい葉隠‼︎ その浮いてるやつに触んなよ‼︎ 多分アイツの能力だ‼︎」

「ん? これ? よく分かんないけど……触らなきゃいいのね?」


 そう言った葉隠の手には、昼休みに屋上で見た、光るブレードが握られていた。

 それを地面に突き刺したかと思うと、楼木の足元から光の刃が飛び出す。


「! おっと……♪ 危ない危ない♪」

「チッ……!」


 口ではああ言ってるが、楼木は容易く攻撃を躱した。

 光の刃が楼木を追うが、教室中を巧みに動き回って、中々攻撃は当たらない。


「ちょっと諏訪間! あんたもなんかやりなさいよ!」

「‼︎ ああ、スマン……‼︎」


 分かってる。

 女にばかり任せている様じゃ、漢の名が廃る。

 だが、さっきのをくらってから、体がおかしい。

 楼木を直視する事が出来ない。

 足がすくんで、冷や汗が流れる。

 なんなんだこれは……。


 ん……?

 まさか俺はビビってるのか⁉︎

 そんなバカな‼︎

 あり得ねえ、んなわけねえ‼︎


 頭では否定しているが、依然震えは止まらない。


「ねえ! 諏訪間⁉︎ どうしたのよ⁉︎」

「クッ……ソがあああ‼︎」


 雄叫びをあげ、勢いに任せて楼木に切りかかったが、すくんだ足は普段通りには動かない。


「そんなんが僕に当たるとでも?……なめんな?」

「っ‼︎」


 楼木の睨みに反応して、体が無意識に萎縮した。

 その隙に、楼木の斬撃を3回ほど浴びせられ、最後に蹴飛ばされた。


「グッ……‼︎」

「ちょっと……⁉︎ 大丈夫?」

「まあ……なんとか……っ⁉︎」


 傷の方は大したことない。

 向こうが殺傷力を調節したのか、それほどのダメージではなかった筈だ。


 けど……。

 震えがますます強くなった。

 最早、顔をあげて奴を見ることも出来ない。

 想像しただけで、冷や汗がふきだす。


 もう分かった。

 俺は完全にビビってる。

 そうじゃなきゃ、こんな風にはならねえ。


「おやおや、怖くて僕を見る事も出来ませんか? なにしろ合計7発はくらってますし、仕方ないですが♪」

「……ああ、そうみてえだ。だがそれがどうした⁉︎ 俺は引き下がらねえぞ‼︎」


 啖呵をきって奴を睨みつけた。

 震えは止まらないが、んな事どうでもいい。

 ビビってようが、足がすくもうが、逃げていい筈がねえ。


「俺の前にわざわざ姿現したんだ‼︎ テメエは俺がここで倒す‼︎」

「ふーん♪ そんな無理しなくても……」


 楼木がそう言いかけたところで、その背後から葉隠が切りかかってきた。

 それに気付いた楼木は、振り返って攻撃を受け止める。


「俺ってなによ! 私の事も入れなさい!」

「あ、おう。スマン」

「あとあんた! ちょこまかと動き回るんじゃないわよ! おとなしく攻撃くらいなさい! この白アンテナ! 糸目! アホ! ボケ!」


 ガキかお前は。

 後半のレパートリー貧弱すぎだろ。


「あぁん………? 今なんつった?」


 突然、楼木の纏う雰囲気が変わった。

 鍔迫り合い状態だった葉隠は、異変を察知してか後ろに距離をとった。


「人ってよ……絶対に間違えないなんて事はないよな? 今のが俺の聞き間違いかもしれないし……お前の言い間違いかもしれない。けど……そのどっちでもないとしたらさあ……」


 あんなに軽い口調だったのが、重々しく恨みごもった声色になっている。

 細めていた目も、大きく見開かれ、葉隠を睨みつけている。

 さらに、肩を震わせている。


「もしそうだとしたらよぉ………。お前わかってんだろうなあ‼︎⁉︎ さっきなんつったよ⁉︎ 俺に向かってなんつった⁉︎ 白アンテナだの糸目だのアホだのボケだの言ってくれたよなあああああ‼︎⁉︎」

「……ねえ、こいつなんなの?」

「俺に聞くな」


 コイツ、ちょっとイラッときたなんてレベルじゃねえぞ⁉︎

 マジギレしてる。

 信じられねえが、あの小学生みたいな悪口に対して、本気でブチ切れている。


「ザッッッけんな‼︎‼︎ お前みたいな奴に、こんなにもコケにされるなんてよお‼︎‼︎ 許せねえ‼︎‼︎ 屈辱的すぎて殺意しかわかねえよ‼︎‼︎ ブッ殺す‼︎‼︎ その脳髄にこれでもかと恐怖を刻み込んでじっくりとなあああ‼︎‼︎」

「ちょっと……こいつ大丈夫?」

「だから俺に聞くな。でも多分大丈夫じゃねえ」

「……まあいいや。やる気になったならかかってきなさい!」


 いや、まあよくはねえだろうよ。


「さあぁて? どうして欲しい? まあ聞いてやるつもりもねえんだけどよおぉぉ‼︎‼︎」


 血走った目で葉隠を睨み続ける楼木は、葉隠に突進する様に飛び出し、ブレードを突き出す。

 葉隠はそれを素早く右側に躱した。

 俺はタイミングを見計らって、楼木に切りかかった。


「今お前はどうでもいいんだよ‼︎ 邪魔だからすっこんでろ‼︎」

「うっ……ぐ‼︎」


 またしても体が萎縮し、楼木の蹴りがモロに入った。


 クッソ‼︎

 俺はなんでこんなにもビビってんだ⁉︎

 情けねえったらねえ‼︎


「てかお前、いい加減おかしいとか思わねえの? 思考回路がショートしちまってんじゃねえのか?」

「ああ……?」


 おかしいと思わねえだ……?

 まさか、コイツの能力が関係してんのか?

 チッ……なんでそれを考えつかなかった?


「あーあー、無理にショートしたモン酷使しなくていいぜ? 否が応でもそろそろ感ずく筈だ。もしそれでも分かんなかったら、本気で修理を考えた方がいいと思うぞ?」


 そう言った楼木のそばに、なにか浮かんでいた。

 俺が最初にくらったものと同じ様なものが、さっき奴の攻撃が空振ったあたりに。

 そういやアレに当たってから、俺はこの調子だ。


「それか? お前は斬撃を空間に留められるのか? そんで、それに触れた奴はお前に対して……」

「ん〜……。壊れかけにしては、頑張ったんじゃねえの?でもそれじゃ、満点はやれねえなあ」


 楼木が俺に話しかけてる隙に、葉隠が切りかかろうした。


「この……!」

「なんだよ? 親切にコッチにかまってやってればこれか……。お前はマジに許せねえなあ? ええ‼︎⁉︎」


 葉隠の攻撃が届く前に、楼木は逆に切り返した。

 いくら動きが速くても、攻撃中だった葉隠は躱しきれなかった。


「いっ……!」

「ホラ! ホラ! ホラ! ホラ! ホラァ‼︎」


 5回。

 5回連続で切りつけられた葉隠は、その場にうずくまった。


「葉隠‼︎」

「ハイ、一丁あがり」

「う………あ………」


 葉隠は呻き声の様な声をあげるが、中々立ち上がらない。


「ホレホレどうした? 俺に攻撃したいんだろ? チャンスじゃないか。……そら、せめて立って見せろよ‼︎‼︎ オラァ‼︎‼︎」

「嫌……‼︎ 嫌ああああああ‼︎ やめてよ‼︎ 離してよぉぉぉ‼︎」

「は……葉隠?」


 髪を掴まれ乱雑に顔を上げられた葉隠は、目に涙をためて泣きじゃぐった。

 楼木は、愉快そうに葉隠の泣き顔を眺めている。


「ハッ! あんなに威勢よかったのによお‼︎ さっきまでのはなんだったんだよお? 俺の顔見てハッキリ言ってみ? さっきの舐めた態度はなんだったのかをさあァァ‼︎‼︎」

「ひ………あ…………ヤダ……! ヤダ‼︎」

「答えになってねえよこのボケ‼︎‼︎」

「やあっ!」


 投げ飛ばされた葉隠は、浮かんでいた斬撃にぶつけられ、その場にうずくまった。


「う………」

「テメエ……‼︎」

「ああ? なんだ? 俺に言いたい事があるんならハッキリ言え」


 怒りがこみ上げてくる。

 この間の毒霧野郎以上かもしれねえ。

 コイツへの闘志が湧き上がってくる。


「楼木この野郎‼︎ 俺はもう許さねえぞ‼︎」

「は? 許さない? な〜に言ってんのお前。俺が怖くてロクに戦えない分際が偉そうによお。あ、お前アレか? 俺を軽く見てる? だよなあ? そうでなきゃ、そんな台詞出てこないよな?………よし分かった‼︎‼︎ お望みなら、お前を先に潰してやろうか‼︎⁉︎」


 楼木は不可解にキレ続けたかと思えば、急に少し落ち着いた風に言った。


「けどまあ、お前結構大した奴だな。食らった回数はソイツとほぼ同じな筈なのによお。この差は心の問題ってやつか? いや……やっぱお前が凄いんじゃなくて、コイツがショボイのかもなあ……オラ‼︎‼︎ この雑魚‼︎‼︎ 何とか言えよ‼︎‼︎」


 うずくまる葉隠を踏みつけようとした楼木に反応し、俺は楼木に切りかかっていた。

 何故か、さっきまでの恐怖心は、ほとんど感じられなくなっていた。


「楼木ぃぃぃぃーー‼︎」

「あぁ‼︎⁉︎ ぐげぁ‼︎」


 薙ぎ払いが命中し、楼木は腹を抑え膝をついた。


「んの野郎……‼︎ まさかもう薄れ始めたのか⁉︎」

「さあな。とりあえず、さっきほど怖さは感じねえな……。それよりも、お前への怒りの方が勝ってるぜ‼︎ 今度こそ覚悟しやがれ‼︎」

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