第八話 「おてつだいの約束」
ぼたんが五歳になった春。
平屋の庭には、今年も牡丹の花が咲いていた。
ぼたんは小さなじょうろを持って、
一生懸命に畑へ水をあげている。
「おおきくなれ〜!」
だが勢いが強すぎて、
自分の靴までびしょ濡れだった。
縁側で見ていたハルは大笑いする。
「野菜より先に、ぼたんが育ちそうだねぇ」
「えへへ〜!」
五歳になったぼたんは、
前よりずっとおしゃべりになっていた。
朝は一緒に味噌汁を作り、
洗濯物を運び、
夜には肩たたきまでしてくれる。
もちろん力は弱い。
ぽすっ、ぽすっ。
まるで猫パンチだった。
それでもハルは嬉しかった。
「ありがとねぇ」
「ぼたん、おてつだいだいすき!」
そう言って笑うぼたんを見て、
ハルは目を細める。
その日の夜。
二人は縁側で、スイカを食べていた。
風鈴がちりん、と鳴る。
遠くで花火の音も聞こえた。
ぼたんは種を飛ばそうとして、
自分の顔にくっつけてしまう。
「わはは!下手だねぇ!」
「ばあちゃんもやって!」
「わたしゃ達人だよ」
ぷっ。
飛んだ種は、見事にミケへ命中。
「にゃーっ!」
「わーーっはっはっは!!」
二人は声をあげて笑った。
笑い疲れたあと。
ぼたんは、ふと聞いた。
「ねぇ、ばあちゃん」
「ん?」
「ばあちゃん、ずーっとぼたんといる?」
その言葉に、
ハルの手が少し止まる。
夜風が静かに吹いた。
ハルは、ぼたんの頭を撫でる。
「……ずっとは、難しいかもしれないねぇ」
ぼたんは意味が分からず首を傾げる。
「なんで?」
ハルは少しだけ空を見た。
「人はねぇ、いつかお空へ行くんだよ」
「ミケも、わたしも」
ぼたんの顔が曇る。
「やだ」
小さな声だった。
「ぼたん、やだ……」
今にも泣きそうな顔。
ハルは優しく抱き寄せた。
「大丈夫」
「いなくなってもねぇ」
「教えたことは、ちゃんとぼたんの中に残るから」
「お味噌汁の作り方も」
「転んでも立つことも」
「誰かに優しくすることもねぇ」
ぼたんはぎゅっとハルの服を掴む。
ハルは笑った。
少し寂しそうに。
「だから約束」
「いっぱい笑って生きるんだよ」
ぼたんは涙目のまま頷いた。
「……うん」
その夜。
ぼたんは眠る前、
小さな手でハルの指を握った。
まるで。
離れないようにするみたいに。




