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第七話 「おつかいぼたん」

ぼたんが三歳になった頃。


小さかった平屋は、

前よりずっと賑やかになっていた。


「ばあちゃーん!みてー!」


庭をぱたぱた走るぼたん。


髪も少し伸び、

笑うと目が三日月みたいになる。


ハルは縁側で笑った。


「走ると転ぶよぉ〜」


案の定。


ぺたん。


「いたぁ……」


「ほら言った」


ぼたんは涙目になりながらも、

えへへっと笑う。


泣いてもすぐ笑う子だった。


その日の午後。


ハルは台所で困った顔をしていた。


「ありゃ……醤油がないねぇ」


すると、ぼたんが振り向く。


「しょうゆ?」


「そう。ご飯に使う大事なやつ」


ぼたんは胸を張った。


「ぼたん、いける!」


「ん?」


「おつかい!」


ハルは目をぱちくりさせた。


商店までは歩いて五分ほど。


小さな田舎町だから危なくはない。


だけど、ぼたんはまだ三歳。


「……大丈夫かねぇ」


ぼたんは小さな財布を握る。


「ぼたん、おねえちゃんだもん!」


その言葉に、

ハルは思わず吹き出した。


「まだちびっこでしょうが」


でも。


ぼたんの“やってみたい”を、

ハルは大事にしたかった。


「じゃあ、一人じゃなくて、ミケと一緒ならいいよ」


「みけー!」


猫のミケは「にゃあ」と鳴いた。


数分後。


ぼたんは黄色い帽子をかぶり、

小さな財布を肩から下げて出発した。


ミケも後ろをついていく。


「いってきまーす!」


「気をつけるんだよぉ!」


ハルは家の前で手を振った。


でも姿が見えなくなると、

急に不安になる。


「……やっぱり迎えに行こうかねぇ」


落ち着かない。


縁側を行ったり来たり。


湯飲みを持ってまた置く。


五分が、とても長く感じた。


その時。


「ばあちゃーーん!!」


遠くから声がした。


ぼたんが走って帰ってくる。


その手には、ちゃんと醤油。


でも。


「ころんだの……」


膝小僧が少し擦りむけていた。


ハルは慌ててしゃがむ。


「痛かったねぇ!」


ぼたんは泣くのを我慢しながら、

醤油を差し出した。


「でもね」


「ちゃんと、かえたよ!」


その瞬間。


ハルの目がじんわり潤む。


「……えらい」


「本当にえらいよ、ぼたん」


ハルはぼたんをぎゅっと抱きしめた。


小さな体。


でもちゃんと、少しずつ成長している。


夜。


絆創膏を貼った膝を見ながら、

ぼたんは眠そうに言った。


「ぼたん、おおきくなった?」


ハルは優しく笑う。


「うん」


「びっくりするくらい、大きくなったよぉ」


ぼたんは安心したように眠った。


その寝顔を見ながら、

ハルは静かに呟く。


「……この子の未来を、もっと見ていたいねぇ」

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