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お嬢様は本日も現実を無双する  作者: シロネル
1章

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第7話 お嬢様と勇者

王立魔術学院。


春。


中庭には色とりどりの花々。

噴水の水音。

談笑する貴族子女たち。


実に優雅。


実にお嬢様空間。


……まぁ、わたくしには居場所ありませんでしたけれど。


「はぁ……」


東屋のテーブルに頬杖をつきながら、わたくしは紅茶をひとくち。


香りは素晴らしい。


ディアローザ家御用達の高級茶葉。

花のような甘い香気。


ですが。


「胃が痛いですわ……」


原因?


人間関係ですわね。


魔物より怖いですわよ、貴族令嬢。


いやほんとに。




学院入学から半年。


わたくしは完全に浮いていました。


理由は単純。


強すぎるから。


「聞きました? サロメリア様、演習場を半壊させたとか」

「まぁ……」

「しかも無詠唱で広域殲滅を……」

「恐ろしい……」


聞こえてますわよ。


地獄耳ですもの。


魔素感知で聴覚強化してますもの。


便利ですわね人体改造。


「最近は騎士科の上級生まで倒したそうですわ」

「えぇ!?」

「模擬戦で三十秒も掛からなかったとか……」


語尾に“とか”をつければ陰口にならないと思ってませんこと?


完全に悪口ですわよ。


まぁ事実なんですが。


「……やりすぎましたわねぇ」


わたくしは遠い目をしました。


原因は簡単。


学院の演習がぬるかったんですの。


実戦経験皆無。

術式構築も甘い。

魔素循環も粗い。


異世界基準で見ると、全員初心者でした。


そりゃ勝ってしまいますわ。


だってわたくし、幼少期から毎日死ぬ気で鍛えてましたもの。


その結果。


「怪物令嬢」

「災厄の姫」

「深紅の悪役令嬢」


などと呼ばれ始めました。


最後のやつ誰が言い出しましたの!?

妙に語感いいのが腹立ちますわね!




「お隣、よろしいか?」


声がして顔を上げる。


そこには。


「……レオン様」


勇者候補。

レオン・ヴァルハルト。


陽キャですわ。


眩しい。


わたくし、陰キャ寄り社畜でしたので苦手ですの。


「一人か?」

「見ればわかりますでしょう」

「ははっ、違いない」


勝手に座りましたわ。


距離感どうなってますのこの方。


「最近また噂増えたな」

「まぁ、有名税というやつですわ」

「嫌そうだな?」

「嫌ですもの」


即答でした。


するとレオンは少し驚いた顔をします。


「意外だな」

「何がですの?」

「いや、お前ってそういうの気にしないタイプかと」

「気にしますわよ!?」


なんだと思われてますのわたくし。


「わたくし、繊細なお嬢様ですのよ?」

「どの口で」

「このお口ですわ」


優雅に紅茶を飲みながら返します。


するとレオンは吹き出しました。


「はははっ!」

「なんですの」

「いや、なんかお前と話してると楽なんだよな」

「はぁ?」


理解できませんわ。


わたくし、割と面倒くさいタイプですわよ?


「周りの貴族って本音見えねぇし」

「それはまぁ……」

「でもお前、嫌なことは嫌って言うし」

「当然ですわ」

「強いし」

「当然ですわ」

「変だし」

「最後いりませんわね?」


ですが。


少しだけ。


ほんの少しだけ。


その言葉は嬉しかったんですの。




「――楽しそうですわね」


空気が変わりました。


柔らかい声。


甘い香り。


そして。


張り詰める周囲。


「アリシア殿下」


第一王女。


アリシア・ルミナス・フォン・エルフェリア。


今日も完璧な微笑みですわね。


「レオン様、次の騎士演習のお時間では?」

「あ、悪い! もうそんな時間か!」


レオンは慌てて立ち上がりました。


「じゃあまたな、サロメリア!」

「えぇ、ごきげんよう」


去っていく背中。


そして残る沈黙。


……気まずいですわねぇ。


「サロメリア様」

「はい、殿下」

「少し、お話よろしいかしら?」


断れませんわよねぇ……。




王族専用温室。


甘い花の香り。


湿った空気。


陽光がガラス越しに差し込む幻想的空間。


普通なら癒やし空間なんでしょうけど。


今のわたくしには尋問部屋ですわ。


「レオン様とは親しいのですね」

「普通ですわ」

「うふふ」


王女は笑う。


完璧に。


美しく。


ですが。


「サロメリア様は、力を持ちすぎていますわ」


不意に。


空気が冷えました。


「……」


「もちろん素晴らしいことですの。王国にとって大きな力」

「恐縮ですわ」

「ですが、力とは恐れられるものでもあります」


その声音は柔らかい。


でも。


だからこそ怖い。


「人は理解できないものを恐れますの」

「……そうですわね」

「だからこそ導く者が必要ですわ」


王女はこちらを見つめる。


真っ直ぐに。


逃がさないように。


「サロメリア様。どうか王国のために、その力を正しく使ってくださいませね?」


――管理したいのですわね。


わたくしを。


国の剣として。


兵器として。


「……善処いたしますわ」


わたくしは笑いました。


お嬢様らしく。


優雅に。


ですが内心。


『うわぁ……めんどくさいですわぁ……』


でしたの。




その夜。


自室。


わたくしはベッドへ倒れ込みました。


「つっかれましたわぁぁぁ……」


お嬢様、疲労困憊ですの。


人付き合いって難しすぎません?


魔術演算の方が楽ですわ。


だって術式は裏切りませんもの。


ですが。


ふと。


今日のことを思い出します。


レオンの笑顔。


王女の視線。


周囲の噂。


「……」


わたくしは。


この世界で。


どう在るべきなのでしょう。


強ければ強いほど。


人から離れていく。


お嬢様を目指していたはずなのに。


気づけば“怪物”として見られている。


「……ほんと、なんなんですの」


窓の外。


夜空を見上げる。


月が綺麗でした。


その静かな光だけが。


少しだけ。


胸の寂しさを照らしてくれるような気がしたのですわ。

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