第4話 おぎゃあと産まれて異世界転生ですの!?
「……むにゃ」
探索者協会会長室。
巨大な革張りソファに沈み込みながら、わたくしはぼんやりと天井を眺めていましたわ。
今日も外では異世界由来かもしれないゲート反応。
協会は大慌て。
瀬波は各部署へ指示を飛ばしまくり。
なのに当のわたくしは。
「……眠いですわ」
徹夜でフィーネ様の耐久配信を観ていたせいですわね。
人類の危機より推し活優先。
これぞお嬢様。
ですが、まどろみの中で自然と思い出してしまいますの。
――わたくしが“サロメリア・ディアローザ”として生まれた日のことを。
◇
産まれた瞬間の感想。
『あ、終わった』
でしたわ。
いやだって。
赤ちゃんですわよ?
手足はまともに動かない。
視界はぼやける。
言葉も喋れない。
しかも聞こえてくるのは、
「奥様! 元気な女の子です!」
「まぁ……なんて愛らしい……!」
知らない言語。
なのに理解できる。
異世界転生テンプレですわねぇ……。
と、前世オタク知識で妙に冷静だったわたくしですが。
問題はその次。
『……ん?』
空気が、見えましたの。
正確には。
空間中を漂う淡い光。
霧のような。
粒子のような。
熱にも似た何か。
前世では絶対に見えなかったもの。
『……これ、魔力的なやつ?』
異世界知識テンプレその二ですわ。
ただし。
普通ではありませんでしたの。
なぜなら。
『吸えますわね?』
本当に吸えましたの。
すぅぅぅぅ……
と呼吸するだけで、周囲の光が体へ入ってくる。
そして。
『……気持ち悪っ!?』
激痛。
全身を焼かれるような苦痛。
赤ん坊の身体が耐えられる代物ではありませんでしたわ。
ですが。
『……なるほど』
そこで社畜時代のわたくしは理解しました。
これは筋トレですの。
筋肉も負荷をかければ成長する。
なら魔力器官も同じ。
幼少期から負荷をかけ続ければ。
最強になれるのでは?
赤ん坊のわたくしは。
産声もそこそこに修行を始めましたわ。
◇
「おぎゃああああああ!!」
「まぁまぁサロメリア様! 今日も元気ですこと!」
違いますわ。
これは元気な泣き声ではなく。
魔素循環による激痛ですの。
魔素を体内へ取り込み。
限界まで循環。
気絶。
回復。
また循環。
それを毎日。
毎日毎日毎日。
赤ちゃんが泣く理由なんて大抵わかりませんもの。
周囲も気づきませんわ。
「おぎゃぁぁぁ!!」
「よしよし〜」
『ぐぬぬぬぬぬぬ……!!』
結果。
生後半年で、わたくしの魔素許容量は一般成人を超えていましたの。
いや怖いですわね幼児教育。
さらに問題だったのは。
わたくしの生家。
ディアローザ公爵家が、国内有数の魔道名門だったことですわ。
周囲が強い。
家庭教師も強い。
護衛騎士も強い。
メイド長すら強い。
『隠密鍛錬難易度が高すぎますわ!?』
なのでわたくしは考えました。
赤ちゃんらしく振る舞いながら鍛える方法を。
その結果。
「きゃっきゃっ♪」
魔素圧縮。
「ばぶぅ〜♪」
魔力循環。
「すやぁ……」
睡眠時自動精製。
寝るだけで強くなる身体を作りましたわ。
現代知識とブラック労働精神の合わせ技ですの。
三歳。
この頃になると、わたくしは既に異常でした。
まず身体能力。
普通の子供なら持ち上がらない花瓶を片手で持てますわ。
階段から落ちても無傷。
熱湯に触っても火傷しない。
なぜなら常時魔力障壁を展開していたから。
そして。
「サロメリア様……また魔術書を?」
「えぇ」
読めましたの。
普通に。
だって中身ほぼプログラムですもの。
術式構築。
座標指定。
出力制御。
IT企業で死にかけながらシステム管理していた前世経験がこんなところで活きるなんて思いませんでしたわ。
『術式構文、クソコードですわねこれ』
当時の魔術は感覚依存。
才能任せ。
職人気質。
だからこそ、理論化したわたくしは強かった。
効率化。
最適化。
並列処理。
結果。
五歳で宮廷魔術師級。
七歳で国家戦力級。
十歳になる頃には。
『……あれ? わたくし、もうこの国で負ける相手いなくありませんこと?』
となっていましたわ。
ですが。
強くなればなるほど。
わたくしは理解してしまったのです。
『お嬢様、むずかしくありませんこと?』
貴族社会。
権力闘争。
派閥。
婚約。
政治。
淑女教育。
優雅な微笑みの裏で繰り広げられる腹の探り合い。
めんどくさすぎますわ。
「サロメリア様は本当に聡明でいらっしゃいますね」
「まぁ♪」
『うわ絶対裏で悪口言ってますわね』
「さすがディアローザ家の至宝」
「おほほほ♪」
『目が笑ってませんわ〜!?』
異世界お嬢様ライフ。
想像以上にギスギスしてましたの。
だからこそ。
わたくしはさらに力を求めました。
誰にも脅かされないために。
誰にも奪われないために。
誰よりも上へ。
絶対強者へ。
――その頃にはまだ。
それが後に“悪役令嬢”と呼ばれる道だとは、思ってもいませんでしたの。




