いい友達の日 てるてる坊主
水の宇宙人マナブと破壊の概念インテリタスが紡ぐ連作短編です。
■いる人
インテリタス…破壊の概念。少女の姿を得た。人間勉強中。
いばら野梨子…遺失物課の職員。よく食べる。
魔法陣の目…直し屋。なんでも直す。
雨が降っている。ぼたぼたと窓を濡らす雨粒が外の景色を曖昧なものにしていく。普段ならインテリタスがそこにいるはずの空き地の地面は重たく水を吸い、黒くなっていた。鈍色の水溜まりがいくつも出来て、雨に打たれて水面が歪んでいる。水鏡は異界への入り口だ。近寄れば、別世界へとねじ込まれてしまうかもしれない。
インテリタスは二階の自室から空き地の様子を眺めていた。ひどく強い雨だ。自分が外に出れば途端に流されてしまいそうな豪雨。しかし、──水の身体を持つ男ならば今頃、嬉々として雨粒に打たれているに違いない。
インテリタスは窓に額を付けた。誰も来ない空き地を眺めても仕方がないが、何かすることもないインテリタスにとって、空き地と、そこに毎日来る男に思いを馳せるのはいくらか暇つぶしになる。
一度、雨に打たれている男を見たことがある。まさに、水を得た魚のようだった男は、風邪をひくからとその時インテリタスにジャケットをかけた。風邪などという人間が抱えている小さな災害はインテリタスには関係がないというのにもかかわらずだ。
秋になって外気が冷たくなった。窓も当然、冷たい。そこに顔を近づけると、インテリタスの呼気でガラスが白く曇った。結露だ。冷たいものに温かい空気が触れると水滴がつく。これはインテリタスの息が温かかったことを示した。インテリタスの、人間のこの身体の中は温かい──。
インテリタスは自分の身体が自分の物ではないような感覚を覚えた。特区に来てから、刻一刻と変化し、人間としての機能を獲得していく少女の身体だ。インテリタスからすると、獲得というよりも、退化と表現した方が正しいかもしれなかった。今まで特区が存在している周りの世界で生きていたインテリタスにとって、小さく脆い。
とにかく、この身体が温かいならば、余計にこの雨の中には出られまい。すなわち、すぐに風邪をひいてしまうだろうから。
男にまた会う機会があるとしたら、それは明日になるだろうか。そう考えながら、インテリタスは身体が冷えないように窓の傍を離れた。
階下に行くと、屋敷の主である陣の目と野梨子がテーブルでくつろいでいた。それぞれ仕事を持っている、この二人が日中に揃うのは珍しい。そこにインテリタスが加わるのも滅多にないことだった。
「こんにちは、インテリタス」
「こんにちは」
あいさつをしたはいいものの、インテリタスは所在なく立っていることになった。この家にはインテリタスの興味を引くものは何もない。本は読みつくしているし、何かに触れれば破壊してしまうかもわからなかった。
その放心した様子を見て、陣の目が別の部屋から裁縫セットを持って戻って来た。
「インテリタスもここに座ると良いよ」
インテリタスに声をかけ自分は裁縫道具からいくつかの道具を取り出し、陣の目は何か作り始めたのだ。しわがれた手が白い布を切る。中心を袋状にしてから、その中に端切れを詰める。中身が零れないように周囲を結んで、丸くなったところに顔を書いたら完成だ。
野梨子が怪訝そうな顔をして、陣の目の手元を見て言った。
「てるてる坊主……。なんでまた?」
「晴れるかな、と思って」
陣の目がインテリタスを隣に座らせ、同じものを作るように促した。インテリタスはじっと陣の目のてるてる坊主を見た後、まねをし始めた。陣の目がどうしてこれをインテリタスに作らせようとしているのかはわからないが、立っているよりは暇つぶしになるだろう。
その横で、陣の目が野梨子にも材料を渡す。
「あんまりこういうのは得意じゃないんだけど……」
陣の目にレクチャーされながら、インテリタスと野梨子は布でてるてる坊主を作る。辛うじて完成した野梨子のてるてる坊主。インテリタスのそれはお化けのようになってしまったが、及第点だろう。
「はい、みんな完成したね~! それじゃあ、インテリタス、窓に吊るしておいで」
インテリタスが陣の目に言われるまま窓際に向かう。窓に三つのてるてる坊主がゆれた。
急にどうしたのよ、という野梨子の目配せに陣の目が笑顔で返す。
「友人として、落ち込んでる彼女を励ましたかっただけさ」
陣の目が用意した布は空模様を直すように手が加えられているのだ。もうしばらくしたら、雲の隙間から太陽が覗くに違いない。
読んでいただきありがとうございます☺
読者の皆様に少し不思議な出来事が降り注ぎますように……!
もしよければ評価を頂けるととても嬉しいです。
各種リアルイベント、WEBイベントに参加しています。参加情報については、活動報告に掲載中です☺





