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亥の子餅

水の宇宙人マナブと破壊の概念インテリタスが紡ぐ連作短編です。


ムードもなく亥の子餅を食べるお話です。


■いる人

インテリタス…破壊の概念。少女の姿を得た。人間勉強中。防御0、物理攻撃100。

マナブ…水の宇宙人。美青年。世話焼き。バンドのベーシスト。防御50、物理攻撃50。

 空き地へと歩く途中、西地区にはどすどすという大きな音と、ぴぎゃーという獣の鳴き声が響いていた。警備署が機能して、比較的治安がいい西地区でもモンスターが出ることがあるんだな……と思いながら、マナブは歩いていた。


 目的の空き地の目の前で偶然にもインテリタスと出会う。約束もしていないのに、とうとう同じ時刻に同じ目的地に着くよう、シンクロするようになったらしい。いくら一緒にいるとはいえ、こうも同じような行動をとってしまうのは本格的に待ち合わせをしているようで、少し気恥ずかしい。


「おはよう、インテリタス」


 マナブはいつものように少女に挨拶したが、インテリタスはそれを無視してじっと空き地を見つめていた。娘のふてぶてしさに呆れつつ、マナブは隣に立って空き地を覗き込む。


「シカトすんなよな……。げえ、なんだあれ!」


 予想外の光景が目の前に広がりマナブは思わず後ずさった。西地区に響いていた重たく低いリズムはここが震源だ。


 インテリタスの視線の先、空き地の中には猛スピードで走り回る火の塊がいたのである。燃え盛る炎が足を生やして中を走り回っているのだ。目にも止まらないスピードで、一直線に走っては周囲のコンクリートの壁や木の塀にぶつかっている。そのたびに、鈍い音が響き、悲鳴が聞こえるのだ。


 建物こそないものの、空き地の中には雑草が生えているし、近所には木が植えられている。燃え移ったら一大事である。


「消火……、いや、アレなんなんだ?」


 少なくとも、被害をここで留めなければ周囲の家や植木に被害が出るのは確実なのだが、その正体がわからない。モンスターの類ならマナブとインテリタスの二人で収めることができるだろう。しかし、火車の類の呪いならば二人で一緒にどこかへ連れていかれる可能性がある。魔法で呼び出された炎なら、物理対処しか方法がないマナブとインテリタスでは太刀打ちができない。


 目を凝らしてマナブは怪異の正体を探る。すると、インテリタスが空き地の端を指さした。その先で、小さな猪が震えていた。


 マナブは火をまとった何かに視線を戻した。なるほど、よく見ればイノシシの猪突猛進にそっくりの動きである。という事は、暴れまわっているのは炎に包まれた亥の子ということか。


 それなら水でもぶっかければいいだろう。問題は猪突猛進の速さにどうやって追いつくかどうかだ。あの速さで突っ込まれては、さすがにマナブの身体も四散してしまうに違いがない──すぐに元に戻ると思うが。


 そんなことを考えていると、子猪が勢いよくコンクリート片にぶつかった。その反動で、ウリ坊は反対側に突進し始めたのだ。


 その先には、ぼーっと立っているインテリタスがいる。


「インテリタス!」


 少女は微動だにしなかった。なぜなら、イノシシが彼女に触れるよりも先に、彼女の力でイノシシを爆発四散させることができるからである。それを知っているにもかかわらず、マナブは反射的に身体を動かしていた。少女に纏わりつくように身体を水へと変形させる。インテリタスを庇ってマナブの身体は弾性のある水になって、彼女を包み込んでいた。


 マナブの身体が壁となり、インテリタスはウリ坊に飛ばされることなくただ尻もちをつき、ウリ坊は身体に纏った火が消えて道に転がった。


 マナブの身体の大半が弾き飛ばされたものの、被害は最小限に収まっていた。


「大丈夫か?」


 尻餅をついた少女に問う。


 上半身の吹き飛んだ男に向かって、少女は応えた。


「だいじょうぶ。……ありがとう」


 ***


 翌日、マナブは再びインテリタスと同じ場所で同じ時刻に出会うことになった。少女は昨日と同じく、空き地の中を見て微動だにしない。


「今度はどうしたんだよ。……!?」


 空き地の中には緑色の森が広がっていた。その奥からすーっと茶色の毛皮を着たマタギのような女性が現れ、こちらへと向かってくる。


「なんの怪異を呼び寄せたんだ」

「わからない」


 こそこそ話す二人に、女性が自己紹介をし始めた。


「昨日助けていただいたウリ坊のママです」


 語るに、子猪を助けてもらったお礼をするために、空き地へやって来たというのだ。


「あなた達には、この金色の足の速いウリ坊か銀色の泳げるウリ坊を差し上げましょう」


 呆気にとられるマナブの隣で、インテリタスが金色の猪に手を伸ばそうとしていた。マナブは慌ててそれを遮る。


「待て、インテリタス。お前、ちゃんと飼えないだろ!?」

「だいじょうぶ」

「大丈夫じゃない! 保護者経由で僕に回ってくる案件になる! ウリ坊のお母さん、……申し訳ないけど、この化け物は飼育能力が低いから、ウリ坊はどっちも貰えない」


 猪の精はじゃあ、せめて亥の子餅だけでも……といい、お餅を二人に渡して森の奥へと帰って行った。


 キラキラが好きなインテリタスは不服そうな目をしてマナブを見る。


 お餅を食べても直らないインテリタスの機嫌を取るために、さてどんなキラキラしたものを上げようかとマナブは頭をフル回転させる羽目になってしまった。

読んでいただきありがとうございます☺

読者の皆様に少し不思議な出来事が降り注ぎますように……!


もしよければ評価を頂けるととても嬉しいです。


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