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沈黙の製薬会社 その1


 1


 同日。

 長崎県諫早市。

 福子はアニュスを連れて、自身の勤務先である鷺山製薬の近くに到着していた。当の鷺山製薬には向かわず、会社から見て片側三車線の国道を挟んだ場所に『海軍バーガー』という、アメリカンサイズのハンバーガーを専門に売っている飲食店が一階にある五階建てマンションに来ていた。これのちょっと前に、この駐車場の奥の角の区画にチリレッドの愛車を停めた福子が車を降りて、車体後部に回ってトランクを開けるなりに、黒いテニスラケットケースを選んで袈裟に掛けて閉めた。同じく車外に出ていたアニュスは、福子のこの格好を見て、ひと言洩らしていく。

「お姉さま。ここでテニスでも始めるんですか……?」

「ええ。私、ダブルスよりシングルが“得意”だから」

 こう微笑んでアニュスに返していく福子。

「今からあのバーガー屋さんに入るから、ダイヤちゃんはなにか食べててちょうだい」

「福子さんは?」

「私? 私は、あの屋上に用事があるの。その間“あなた”は、その可愛さで一階のみんなを引き付けててもらいたいの」

「はい、分かりました」可愛い、と言われて悪い気はしない。

 というわけで。

 虎縞福子とアニュス・アマダス・カリスの二名様の入店。

 いらっしゃいませ。

 との出迎えを受けて、受付カウンターに向かい。

 海軍バーガーセットのドリンク付きを二つ注文した。

 店内客席の真ん中に案内されて、二人はテーブルに着いた。

 このとき福子は、窓際席に不穏な人物を二人確認した。

 国道側の窓際席に、そばかす顔の三つ編み“おさげ”の美女。

 ステーキ屋側の窓際席に、細い口髭の中東系の美青年。

 二人ともに、スマホに見える“何か”を操作していた。

 あとは、同じメーカーと思われる超小型ラジオ。

 それから、二人の全体を隈無くまなく秒で確認する福子。

 悟られないように視線を外していった彼女は。

 ーなるほどね。ーー

 耳に入ってくる音声にも、薄笑いを浮かべた。

 やがて、トレーを持った若い女店員が席に来て。

「お待たせしました。海軍バーガーとコーラのLです」

「わあ! ありがとうございます!」

 と、注文の品が来てキラキラと喜ぶアニュス。

「ーーーでっっっっか!!」

 からの、一転して驚愕に声が上がった。

「はい。当店の看板メニュー、海軍マーリンバーガーです」

 アニュスより二歳下の女店員がニコニコして答えた。

 これを含み笑いで見ていた福子。

 助けて!お姉さま!と、目で訴えてきたアニュス。

 頑張って堪能して!と、親指を立てて激励する福子。

 次は、茶髪の若い女店員から彼女の元にも。

「フライドチキンバーガーとライムソーダのLです」

「ありがとうございます」

 このように、福子は馴れた感じで彼女に礼を述べた。

「こちらこそ、いつもありがとうございます」

 この茶髪の若い女店員も、彼女と親しげであった。

 そんな福子が手招きして、若い女店員に寄ってもらい。

 福子はこの女店員の顔に、異質な疲労感を感じ取っていた。

「店長の柿山さんはいますか? もしいましたら、私が“あなた”に用があるとだけ伝えてください」

「?ーーーはい、分かりました」

 不思議に思いながらも、茶髪のアンダーポニーテールの若い女店員は役目を終えたので、彼女たち二人の席から離れてカウンター兼厨房の中へと入っていった。その約十秒後、小太りとは言っても大柄な眼鏡姿の男性が制帽と腰エプロンを着けて厨房から出てきた。その店長は福子の顔を見るなりに、あ!と声をあげそうになったところを表情で止めた。それは、福子から口もとに人差し指を立てられたからだ。男性店長を確認した彼女は、黒いテニスラケットケースを袈裟に掛けて席を立って彼の元へと歩いていく。そのかん、アニュスは半分ほど意気消沈をしながらも、バカデカい海軍マーリンバーガーにフォークを突き刺してナイフを入れていった。幸いなことに、“そばかす”三つ編み“おさげ”の美女と口髭の中東系の美青年から彼女たち二人は気づかれていなかった。

 店長に近寄ってきた福子が、声を抑えて話していく。

「お疲れ様です」

「お疲れ様です」と、店長の返事のあと。

「柿山さん。このお店は“乗っ取られて”いますね」

「はい。一時間くらい前に始めは五人の、軍服姿の男が三人と私服姿の男と女の二人。目の前の“あなた”が勤めている会社を外から見張るためです。ーーー客席に私服の男と女がいて、屋上で軍服姿の男がひとりで見張っています。あとの二人は目の前の会社に行きました」

「お客さんたちは人質ではなさそうね」

「はい。けれど、ここは奴らの“ねじろ”です。なので、私たち店の者と食料が目的です」

「なるほど、ね。ーーー屋上は開いています?」

「はい。私たちが巡回して屋上の男に食事を届けているので」

「他にも“なにか”ありそうね?」

「実は、その……。“朝食”を男に届けに行ったアルバイトの私の姪が、ライフルを突き付けられた状態で、その……、犯されてしまったのです……。ーーー少し前に泣き止んで復帰しました」

「それは、大変お気の毒に……」

「ありがとうございます。ーーー親戚の子どもを預かっていながら、このように“なにも出来なかった”ことが悔しくて……悔しくて……」

「分かりました。いろいろ、ありがとうございます。ーーーあなたの姪っ子が“されたこと”の仕返しを、私が奴らにしてきます」

「だ、大丈夫、なんですか?」

「任せてください。柿山さんも、サバゲーで私とやり合った仲でしょう? 私の撃ち方、捌き方を見ていたなら心配ありません」

「ありがとうございます」と、大きく頭を下げようとしたところ。

「おっと……。大きな動きは目立ちます。お気持ちだけ、いただいておきます」

 そう小さく手を翳した福子は、客席の例の二人の目配せしたのち。

「というわけで、私は今から屋上に行きます」

「はい。よろしくお願いいたします」


 同建物の屋上。

 刈り上げブロンドヘアの青年、新世界十字軍第七団隊狙撃班ニコライは占領した店に要求して美女店員とバーガーセットの“食事を提供させた”あと、ライフルスコープ越しに見張りながらも休憩を取っていたところであった。海軍バーガー屋の屋上は、屋上出入口の上に円筒形の水槽タンクが二つあるといった大きめの出入口で、中には従業員専用の喫煙所を設けていた。その狙撃手ニコライが待機している場所は、水槽タンクのあるところで腹這いになって製薬会社全体を見渡せるようにしていた。以下、無線で英語でのやり取りとなる。

「こちらF。この店のメシと女は最高だったぞ」

『こちらB。こっちは見張り以外なにも無し。羨ましい』

 と、鷺山製薬敷地内の背にある崖からの返事。

 落石防止工事をしていた崖に、狙撃手のBとCがいる。

『こちらC。あとで良いから、こちらにも店の女を回してくれ』

『こちらD。同じことを頼む』

『こちらE。店の上玉じょうだまスケを俺たちに“配膳”してくれ』

『こちらA。以上だ。頼んだぞ、F』

「了解」

 Dは左側の研究所屋上。Eは右側の製造工場屋上。

 BとCは製薬会社背後の崖。Aは五階建ての事務所屋上。

 そして、バーガー屋屋上のFこと狙撃班班長のニコライ。

 以上が新世界十字軍第七団隊狙撃班の配置であった。

 計六名の男性隊員が鷺山製薬を包囲していた。



 2


 新世界十字軍狙撃班の無線のやり取りと前後して。

 屋上出入口に到着した福子は、ライターサイズの集音機器をジャケットの内ポケットから取り出して録音のスイッチを入れた。そして、もう一度内ポケットから取り出したのは、彼女が愛煙している輸入タバコであった。オレンジ色のケースの後部を指でピシッと叩いて、茶色い紙で巻かれた極細のシガレットを一本を出して唇に咥えるとケースを内ポケットに仕舞いこんだあと左ポケットからライターを出してシガレットに点火した。口内に広がる、鼻を通り抜ける、お気に入りのシガレットの味を堪能していきながら、福子は屋上から聞こえてくる“男たちの声”に耳を済ませていった。そうして、一本を吸い終えたころには彼らのやり取りは終了していたので、集音機器の録音を止めて携帯灰皿でシガレットの火を消したのちに福子は行動を起こしていく。屋上出入口階の内部に目をやっていき、廊下の突き当たりにある換気扇の下の窓に注目した。黒いラケットケースを袈裟に掛けて窓まで来て、手動のロックを上に解除すると静かに二枚外して、枠に両手をかけて壁に爪先を付けてよじ登りながら潜っていく。ラケットケースまで抜けたことを確認した福子は、枠に腰を下ろすと、ジャケットの後ろからフック付ロープを取り出すなりに腕を上に振って、先端部をフェンス下の隙間に通して引いた。鉤爪のフックがフェンス支柱の根本に掛かったことを引っ張って確かめた福子が、ロープを伝って登っていく。金網フェンスを金切りニッパーで切って開けて、彼女は静かに侵入していった。幸い、侵略者の狙撃手は優越感から油断していたおかげで、福子の接近には気づいていなかった。ニコライの真後ろまで近づいた福子は、ラケットケースを地面に置いたあと彼女も地面に伏せる格好をとると男の脚の間を視界に入れた。ジャケット内のガンホルダーからハンドガンを抜いて両手持ちで構えていき、小さく深呼吸を二度したのちに息を止めて引き金を引いた。

 ピュシュッ!

 小さな音が鳴ったと思った刹那。

 ニコライの前立腺を貫通した銃弾は、心臓まで達して。

 声を発する間もなく、彼は目を見開いたまま絶命した。

 ハンドガンをガンホルダーに仕舞い込んで、うつ伏せから身を起こした福子は手にラケットケースを下げて屈んだ姿勢で絶命したニコライの横に付いたあと、ケースを開けて猟銃を模した狙撃銃を取り出して匍匐の姿勢を取って構えた。フェンス下と縁の隙間に銃身を入れて、照準から残りの狙撃手を確かめていく。これは、福子の育ての親である義理の父親の虎縞とらしま幸兵衛さちべえが生前に愛用していた猟銃のレプリカであり、その中身は“ちゃんとした”近代兵器の『虎縞トラシマキュウマル〇式』といった猟銃型狙撃銃である。この猟銃型ライフルの飛距離は、通常の狙撃銃よりも遠くの的に届くだけではなく、貫通してしまう威力をも有していた。会社の背後の崖に待機している二人の狙撃手がこちらをスコープ越しに見ているのが分かった福子は、微笑んで手を振っていった。

 向かいの屋上を見ていた狙撃手B。

「おい、C。Fのヤツ、とんでもねえ上玉を相棒に付けやがったぞ」

『ああ。俺も見た。あんなイイ女が、この部隊にいたって知らなかったぜ! アイツばっかり羨ましいねー』

「班長の役得ってか?」

『悔しいが、仕方ねえ。ーーーお! 俺にも手を振ってくれたぜ!』

「良かったじゃねえか!」

 Cに愛想を振り撒いた福子は深呼吸を三回していく。

 三回目の深呼吸のあと息を止めて引き金を引いた。

 Bの右目を撃ったあと、Cの額を撃った。

 照準とスコープ越しから、二人の絶命を確認。

 フェンス下から抜いて片膝を突き金網に銃口を突き刺し。

 研究所屋上のDを撃ち、製造工場屋上のEを撃ち。

 そして最後は、事務所屋上のAを撃った。

 福子は呼吸を止めて、五名の隊員を撃ち殺した。

 実に素早くかつリズミカルな銃撃であった。

 金網から銃身を抜いてラケットケースに収納した彼女は、ポケットから先ほどの集音機器を取り出して、ニコライの無線機に赤外線送信をした。それから続けて、五名の隊員の無線機にへと同じように送信していった。すると、ニコライの無線機が受信していく。

『こちらヘレン。ニコライ、そっちはどう?』

「こちらF。異常なし、どーぞ」

『了解。続けてちょうだい』

「こちらF。了解」

 と、新世界十字軍の無線機が自動的にヘレンと名乗る女性隊員とやり取りをした。これは、侵略軍のがデジタル無線機であったためにできたこと。事前に相手の音声を録音したあと、赤外線送信によって人工知能が学習した無線の文言を再現していくといったもの。よって、残りのAからEの隊員の無線機も以下同じように返していくのである。


 ラケットケースを袈裟に掛けて屋上から下りてきた福子。

 上であった銃撃戦など感じさせない素振りだった。

 と、厨房から出てきた柿山店長が注文の品をレジカウンターに出して並べていたところとちょうど目が合ったので、福子は銀色の瞳で流し見して小さく頷いた。この彼女の仕草を“終わらせてきた”の合図と受け取った店長は、嬉しさを噛み締めた顔で相槌を打った。注文の品をレジカウンターに受け取りに来た茶髪のアンダーポニーテールの若い女店員が、配膳に持って行こうかとしたが二人が気になって止まると、叔父の店長が目線で福子と姪の店員を二往復させたのちに、ライフルのジェスチャーをした。これを察知した彼女は、福子へと軽く会釈をしていった。福子も彼女の気持ちを汲み取って、無言で小さく頷いた。

 隣のステーキ店側の窓際席で仲間の兵隊たちの無線を聞きながらも店内の様子を見張っていた細い口髭の中東系の美青年のそばに、いつの間にか白い腰エプロンを着けた福子がいたことに気づいて、思わず顔と目を向けた。

 福子は銀色のトレーから、水をテーブルに置いた。

「お水を、お持ちしました」

「……え?」

 細い口髭の中東系の美青年が、誰だお前?と動きを止めた隙を狙って、福子はトレーの下に忍ばせていた匕首あいくちを鞘から素早く抜いて彼の心臓に突き刺した。そして、すぐに引き抜いて上着のポケットから集音機器を取り出してデジタル無線機の置いて送信スイッチを押した。

『こちらジャクリーン。店側はどう?』

「こちらハマ。店側は異常なし」

『了解。続けて』

「了解」

 と、デジタル無線機が“彼の声”で自動的に返信した。

 周囲のテーブルの客たちから驚きが上がろうとしたところを、福子が唇に人差し指を立てて「静かに」と合図をしていく。匕首に付いたハマの血糊を、彼の上着で拭い取ったのちに福子は次の標的にへと足を進めていった。そんな彼女の行動に、他の店内客たちは呆気にとられて言葉を失っていた。

 国道側の窓際席。

「こちらキャミー。店側は異常なし」

 と、鷺山製薬側の仲間に返信していた三つ編み“おさげ”のブロンドヘアの“そばかす”美女の背後から、白い手で口を塞がれて強引に顎を上げられたとき、匕首を持った白い手が彼女の細い首へ“ゆっくりと”真横に線を引いていった。白く細い首から血を流していきながら、背後から福子に喉を裂かれたキャミーは頭を垂れて静かに息を引き取っていった。さすがにざわめき始めた店内だったが、これを気にする素振りすら見せない福子は、匕首に付いた血糊をキャミーの上着の袖で拭い取ったあと、静かに鞘に収めてベルトの後ろに差した。それから自身の席に戻ってきたときには、福子の惨劇を見ていたアニュスが嘔吐を催していた。おトイレなら“あっち”よ、とレジカウンターの横の扉を指した福子を見たあと、アニュスは口もとを手で押さえながら駆けて行った。

 このあとすぐに、ひとりの若い女性客が立ち上がり。

「ききっ。今日は、もうおご馳走さましようかしら?」

 こう引き吊りながら他の客たちにへと目を向けていった。

「ええ、そのほうが賢明です」

 そう福子が返した直後、残りの全員も立ち上がり、レジカウンターに向かい並んだ。



 3


 レジの客たちも半分ほどに差しか掛かったところで。

 隣の扉から赤色の点滅が漏れたと思ったら、ドアを乱暴気味に開けてトイレから現れてきたアニュスの後ろに、三人の新世界十字軍の兵隊が付いてきた。三人一組の小隊の、新世界十字軍第一団隊ストーカー部隊で、端の二人の男性兵隊は身体を左右に向けて両側を警戒していた。真ん中の女性兵隊がアニュスにAK改25式の銃口を突き付けたまま、ヘルメット右側のスイッチを押した。

「団長殿。マキシマです」ドアを蹴り開けた本人。

『ほっ? なにごとじゃ?』返信する、ジーザス。

「たった今、アニュス・アマダス・カリスを発見捕獲しました」

『ほっほっほっほっほっ……。でかしたぞよ。では、“そなた”に処分を任せたでおじゃる』

「了解!」

 第一団隊団長のジーザス・D・クライシスと通信を切った、ストーカー部隊小隊長のマキシマは、ヘルメットゴーグル越しにユダヤ娘の黒い後ろ頭を睨み付けていく。

「この裏切り者。お前は、マーキュリーともども我が部隊から抜けるつもりか?」

「“つもり”っていうか。もう私、軍隊じゃないし……」

 緊張に引き吊りつつも、アニュスはマキシマに返した。

 この返答に彼女はヘルメットの中で「フンっ」と小さく嘲笑して。

「タヌキ母娘おやこめ」

 こう吐き捨てて、引き金に指を掛けたときに。

 狭いトライアングルの下から、福子が現れてきて。

 左側の男性兵隊の延髄にナイフを突き刺し。

 右側の男性兵隊の背面中央を匕首で突き刺して、心臓を貫通。

 両側の二人が膝から崩れ落ちていく中で、福子は匕首の柄を持ち。

 その先端部を引いて、極細のワイヤーを引っ張り出した。

 そして、後ろからマキシマの素早く首に巻いてギュッと絞めた。頸椎全体を圧迫された彼女は、瞬く間に絶命して膝から崩れ落ちていった。福子が片膝を突いて、マキシマを尻から着かせて床に静かに寝かせたのちに、いまだに怯えているアニュスへと声をかけていく。

「ダイヤちゃん。終わったわよ」

「……へ? え?」

 振り向きざまに、アニュスは間抜けな声を出した。

 なにせ死を覚悟していた彼女にとって、知らぬ間に事態が変わっていたことには驚愕せざるおえなかった。じぶんを追っていた“かつての”同じ軍隊仲間が、力無く床に転がり息を切らして二度と起きることのないこのさまを見ていくうちに、アニュスの中から驚愕と感謝と安堵と恐怖が複雑怪奇に絡み溶け合っていって、それらを必死に喉の奥から絞り出していった。

「おおおおおおお、お姉さま……!」

「この店は解放されたわ」

 と、福子はこのように短く簡潔に返しただけであった。

 次に、自身とアニュスのテーブルに目をやり。

「“ひと暴れして”お腹空いたわね。いただきましょう」

 と、美しいユダヤ娘に微笑みを向けた。

 呆気にとられているアニュスだったが、頼もしさに一変した。

「はい、分かりました」ニコニコと返事した。

 そして二人が席に戻ったとき。

『マキシマ。裏切り者はどうなったでおじゃる?』

 と、彼女のヘルメットゴーグルの右側から老男性の声がした。

 第一団隊団長のジーザスから、結果報告の催促がきた。

 両手持ちのフライドチキンバーガーを今から口に入れようかとしていた福子がこの無線を聞いて、忘れていたわ、といった表情になってバーガーを皿に置いてから席を立った。マキシマの亡骸のもとまで来ると、彼女からヘルメットを外して、内部のマイクを確認する。ヘルメットを奪われたマキシマは、目を見張る美女であった。

 そして福子は、んっんっと小さく喉を鳴らしたのちに。

「こちらマキシマ。標的は始末しました」

『おお! そうかそうか。よくやったぞ。ーーーでは、皆でひと休みしてからで良い。次は目の前の製薬会社に行って、第七団隊のヘレン大隊長殿を手伝ってくりゃれ』

「了解!」

『ほっほっほっほっほっほっ』

 通信終了。

 再び席に戻った福子が、ようやくバーガーをひと口味わっていく。

 バーガーを片手に目を丸くしていたアニュス。

「福子さん……」

「なあに?」もぐもぐしながら。

「今の、なんなんですか?」

「声真似よ」と、クリームソーダをひと口入れる。

「あの……。あなたって、何者なんですか?」

「サバゲーが好きな、毒の研究家」

 ニッコリして返したあと。

 二口三口と口に入れて、もぐもぐしていく。

「腹ごしらえが終わったら、次は“本丸”を攻める。だから食べてしまいなさい」

「はい、お姉さま」ー“もぐもぐ”するお姉さま、可愛い。ーー

 腹が減っては戦ができぬ。

 というわけで、アニュスも食事を再開していった。



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