稲佐町決戦!鱗の娘たち救出作戦!Part 5
1
こちらも同じ時間帯。
場所を長崎市稲佐町に戻す。
院里学会長崎市稲佐町支部。
魔改造トヨダAAの機銃をブッ放して黒鉄色のバンパーで塀を突き破って、二階の窓からガトリングを撃っていた兵隊へと銃弾を“御見舞い”して撃退したのちに、ゆっくりとバックしていって垣根を踏み壊しながら隣接する工事側に回り込んだときに動きを停めて、ルーフをスライドオープンさせてライフル型兵器のベルトを袈裟に掛けて、潮干ミドリは瞳を金緑色に光らせながらシートから立ち上がっていく。
摩周マルから通信が入る。
『屋上が増えて、四〇名くらい。降りるのは六階で良い?』
「うん。お願い」
『了解。ミドリちゃんが飛んだらルーフ閉めるよ』
「オーケー。あとは任せたわ」
こう言ってマルとの通信を切ったミドリは「手加減無しで行くよ」と呟き、膝を曲げて力を溜めた数秒後、ジャンプした。と同時に魔改造トヨダのルーフは自動的に閉まり、バックしていって背後のブロック塀を突き破っていって、隣の工場の植込みへと姿を消した。コンマ数秒間の滞空時間を味わい、身体を丸めて、背中で窓ガラスの枠ごと突き破って六階に侵入した。デスクや目隠しなどといった事務用品を、床を転がって倒していきながらある程度止まったところで片膝になって起き上がっていくと、ミドリの目の前には、銃剣やらライフルやらAK改やらを構えた新世界十字軍の兵隊たちが総勢三〇名ほど彼女に銃口を向けていた。兵隊たちが引き金に指をかけたとき、ミドリは瞳を金緑色に光らせて黄金色の髪の毛を部屋中に走らせた。次の瞬間、兵隊たちの苦痛の悲鳴とともに、六階の窓ガラス全部に血糊が飛んで荒々しく階を赤く染めた。赤色に塗られた床に散らばる兵隊だった肉片にぶら下がっていた手榴弾に目がいったミドリは、なにかが閃いた。
B棟屋上。
屋上出入口の扉越しから聞こえてくる仲間たちの悲鳴に、約四〇名の兵隊たちは銃口をその一方に向けていた。“カンカンカンカンカン”と響いてくる近づく足音に、兵隊たちは緊張感を増して息づかいが荒くなっていく。“向こう”も扉を前に緊張しているのか?と、新世界十字軍の兵隊たちが、ライフルやら銃剣にAK改などのスコープで相手の様子を伺っていくこと数秒間。この沈黙が頂点に達したとき、B棟屋上の床中央が爆発とともに吹き飛んで、十名以上の兵隊を六階の床などに叩き落とした。突然、屋上に大きく空いた穴へと向けて残った三〇数名の兵隊が集中砲火をしていく。この光景の中で、ミドリがいつの間にか屋上出入口の屋根上で片膝を突いてライフル型兵器を構えていた。屋根上ので黄金色の髪の毛を風に靡かせているミドリの姿に気づいた、菊代とファ姉妹。そしてミドリが引き金を引いた瞬間に、縦長の銃口から発射された音波が、未だに穴に向かって射撃していた兵隊たちにへと降り注いでいった。すると、兵隊たちの各種銃器は放電していき、たちまち使用不可状態となっていった。そしてそれは銃器だけではなく、当の兵隊たちにも特殊な音波と静電気が頭の中と身体中を走り、各々は力が抜けて膝を突き銃を床に落とした。ミドリは、被害を県警部隊と町の仲間たちに及ばさないために音波の攻撃範囲を屋上に絞っていた。そのためか、音波攻撃の届いていなかった二名ほどの兵隊が、銃器を構え前後左右を警戒していた。ミドリはすぐさま背中に回して屋上出入口の屋根から飛び降りると、髪の毛を飛ばして銃剣を構えた一人目の兵隊の足首に巻き付けて倒したのちにダッシュして、AK改で撃ってきた二人目の兵隊に身を沈めてタックルして腕を取って肩に乗せたあと、そのまま回っていって、周囲で身を起こしていた兵隊たちにへと銃弾を浴びせていった。ミドリは一回りしたあとに、男の腕の下で身を翻して肘を突き上げて顎を砕き、肩で叩いて腕を折り、一本背負いで放り投げて、端で頭を振っていた角刈りのイギリス青年兵隊にぶつけて屋上から突き落とした。屋上出入口の扉を蹴り開けて現れた顎髭禿げ頭のポーランド中年男性兵隊が手榴弾のピンを親指で抜いたとき、ミドリは、先ほど髪の毛で足首を取って倒して悶えていた青年兵隊に気づいて“その”方向に彼を蹴飛ばした。身長百八〇センチと体重九〇キロを誇る男が秒速で吹き飛んできて、顎髭禿げ頭の中年男性兵隊を目掛けて衝突すると、二人して廊下に落ちて転がった。仲間のぶつかった勢いで手元から落ちて転がった手榴弾を、顎髭禿げ頭中年男性兵隊が必死に匍匐前進して掴んだその直後に、彼は青年兵隊を巻き込んで爆死した。屋上出入口と屋根を破壊して扉を吹き飛ばしながら燃え盛る爆炎を背にして、ミドリは両側の兵隊二人を殴り飛ばしたあと、目の前の拳銃を足で叩き落とし、クルッと身を翻して坊主頭のイタリア青年兵隊の下腹部を踵で蹴り飛ばした。吹き飛んで屋上出入口の壁に叩きつけられたイタリア青年兵隊をしり目にして、ミドリはナイフを片手に向かってくる四名の兵隊に身構えていた。彼女が瞳を金緑色に光らせたとき、黄金色の髪が左右に分かれて伸びて、両方の肘から手にかけて巻き付いていった。切りつけてきた二つのナイフから腕を上げて防ぎ、身を沈めて地面に足を円弧に走らせて丸顔のイタリア中年兵隊を足払いして高く跳ね上げて後ろ頭から激しく落下させたその横で、ミドリは四角い顔の韓国青年兵隊を殴って地面に頭をめり込ませたすぐに、ユダヤ青年兵隊の頭に踵を落としてその顔を地面に埋めたあと、拳を大きく振りかぶってロシア青年の横顔を殴り飛ばして頸椎を破壊した。後ろから向かってきた三名の兵隊を確認したミドリは、黄金色の髪を前方に飛ばして二つの武器コンテナを刺して引っ掛けて、後方へと振り回し、その三名へと投げつけた。ひとつは一名の顔に当たって首を折って吹き飛び、二つ目は正面から二名の顔に当たってバク転宙返りをさせて地面にへと腹から強打させた。うちひとつは金網に当たって落下し、二つ目はこれを超えて菊代たち三人の目の前に激しく落下して砕けた。側近のファ姉妹と仲良く「おわあ!!」と驚きを上げたあとに、菊代はベルトのポーチからスマホ型の長距離無線機を取り出した。
「こちら第九団隊の片倉菊代。屋上A棟の班と、三階から上のAB棟の班。お前たち全員、屋上B棟で暴れている侵入者を始末に向かえ。以上!」
『サー! イェッサー!』
「よーし」
そして、一旦通信を切った。
中間棟屋上。
A棟屋上から突進してくる新世界十字軍の第九団隊兵隊たちに向けて、潮干ミドリは音波兵器のダイヤルを最大値に回して引き金を引いた。
「食らえ! 玲子ちゃんスペシャル!」
それは、黄肌玲子が歌う螺鈿島の音頭が長丸な銃口から発射されていき、たちまち兵隊たちの銃器と身体に異常を起こしていった。最大値で音波を放っているために、その反動も当然のように凄く、ミドリは瞳を金緑色に光らせて屋上の地面に少しめり込むほどに足を踏ん張って耐えていく。
「セイレーンの歌声、出血大サービスしてあげる!」
音頭の一番の終わるころには、軍の銃火器は半壊または消失して、兵隊たちは両目両耳と鼻孔と口から出血多量をして地面に倒れたりうつ伏せになっていたりして再起不能の全滅していた。このさまを確認したミドリは引き金から指を離して、軽く垂直にジャンプして地面に力強く着地した。着地した瞬間に屋上の地面は崩壊して大きな歪な丸い穴を開けて、豪快に六階資材管理室にへと着地した。手加減無しを決意した陰洲鱒の鱗を持つ者たちの“通常”の筋力は、常人の数倍。鉄骨内蔵はさすがに“骨が折れる”が、鉄筋コンクリートなどは問題は無かった。A棟六階で待機していたまたはA棟五階から移動してきた兵隊たちを、ミドリは資材の管理棚や積み上げていた折り畳み式テーブルなどを天井で一気に押し潰した。約十名以上の仲間が減らされて、驚愕しながらも銃器を構えていく兵隊たち。ミドリが玲子ちゃんスペシャルこと音波兵器を構えたとき、銃口の横を撃たれて、とっさに手から離した。これは、銃撃の衝撃で飛ばされた肩を痛めないためである。ギッと睨み付けたその方向には、マゼンダ色の髪の毛をした美貌の女性兵隊がいた。ミドリは壊された音波兵器を、八つ当たりで後ろの男性兵隊に投げつけて気絶させたのちに、右腕から青白い炎とともに鞘に収まった日本刀を出現させて掴んだ。そのマゼンダの髪の長身美女を視界におさめつつ、銃剣やAK改を構えた兵隊たちにへと駆け込んだミドリは、より深く身を沈めて銃弾を避けると同時に抜刀した。瞳を金緑色に光らせて放たれた銀色の閃光は低空を横に走り、兵隊たちの足を通過した。第一陣を抜けて受け身を取って床を転がったミドリが、片膝を突くと同時に闘気の刀を下から大きく斜め上へと走らせて鞘に納刀したそのとき、第一陣の兵隊たちの膝から下と第二陣の兵隊たちの足から肩にかけて分解して赤色の飛沫を噴き散らしながら床に落下した。次にミドリは、身を低くしたまま兵隊たちの群れに突入していった。
数多くの銃弾が床や壁や天井、そして各種の資材と棚を撃ち抜いて破壊していくも、金緑色の瞳の光と鱗を出現させたミドリには“ひとつ”も掠りもせずに、虚しく標的を外すばかりであった。隙間を縫うように銀色の光が兵隊たちの身体を円弧を描いて駆け抜けていき、再びマゼンダ色の髪の長身美女の前に戻って残心を取った。すると、男女問わずに兵隊たちの首やら身体が上下二つに割けて、血を噴き出していきながら床に落ちたり倒れたりしていった。
稲荷一門。雪中狐走。
群れの隙間を縫うように通り抜けて斬る技。
稲荷一門。
広島県に拠点を置く、抜刀術を専門とする一門。
これの派生の不知火一派がある。
ミドリは東京のとき、次期当主の稲荷こがねから習っていた。
これらの人体破壊の“博覧会”に、マゼンダ色の髪の長身美女はギョッ!として目を見開き、素早く左右を確認して再びミドリを向いた。そして愛用していたAK改25式を横に放り投げてから、腰に帯刀していたサーベルの柄に手を掛けて半身になった。
ミドリと同じ緑色の瞳で睨み付けていく。
「銃弾も駄目なら、これしか無いでしょ」
流暢な日本語だった。
「そうね。雑魚は全滅しちゃったし」
こう言いながら、ミドリは鞘に収めて虎口を静かに閉じた。
「私は、潮干ミドリ。あなたは?」
「ハニー・コーラル・フェブラリー。第八団隊の中隊長」
ミドリの名前を聞いたとき、ハニーは姿勢を戻していく。
「あなたが潮干ミドリね」
「そうだけど」
「あなたのことは団長から私たち魔女に話が行っているわ。ーーーエキドナを真っ二つにしたんですってね?」
「ええ。あのギリシャ美女でしょ? 手強い相手だったわ」
「そうでしょう? 彼女、強いもの」
防護防弾服の襟に手を掛けてファスナーを下ろしていく。
襟を真ん中に、右胸を迂回して腹部中央。
胸元を左に開いて、今度は鎖骨から真っ直ぐ下に。
両肩の装甲ごと脱ぎ捨てて、腰回りの“垂れ”に行き。
腰部左側のホックを外して横に放り投げると。
詰襟から腰にかけて赤色の、下はロイヤルブルーのインナースーツが現れて、防護は手足の部分だけとなった。そして、ハニーは再びサーベルに手をかけて構えた。
「あなたはエキドナの仇。第八団隊の魔女が総力を上げてその首を狙いに来る。そして、私がその“ひとり”目となる」
「あらあら。私もビッグになったものね」
「そうね。団長直々の指令だもの。光栄に思うが良いわ」
こう言ったハニーは、ゆっくりと鞘から引き抜いたサーベルを顔の中央に立てた。
2
院里学会長崎市稲佐町支部の隣の駐車場。
鳳麗華とキャサリン・ルビー・ボンドの先導によって、潮干リエたち八人の陰洲鱒の美女たちが避難先へと移動していったその最後尾を見送った海淵家と黄肌家のうち、海淵真海と海淵海馬と黄肌有子と黄肌潮の女四人が突入の準備運動を軽くし始めた。
ここで、赤い瞳の美青年こと海淵龍海が乗ってきた。
「俺も叔母さんも手伝うよ」
「うふふ。せっかくみんなが一緒になったんだし、私も頑張りたいなあ」
鈴の鳴るような声で海淵流海も加わった。
準備運動を終えた真海は、兄と叔母に目をやったあと母を見た。
「母さん」鈴ような鳴る声で話しかけた。
「なあに?」
「私も、みんなで町の女の子たちを助けたいわ」
「そうね。それが一番早く終わるかもしれないわね」
「ミドリの手助けにもなるし、負担も大きく減らせるし。良いことづくめじゃない」
天使のように微笑む我が愛娘に、海馬は目じりを下げていく。
「よ、よーし! 総出で行って“ちゃっちゃと”終わらせるわよ!」
おーー!と、皆が拳を振り上げた。
出撃前に、愛しの妹に聞いていく海馬。
「流海は、どこから攻める?」
「私は一階の女の子たちを守るわ」
ちょっと“ふわふわ”した感じで答えた。
「ひとりで大丈夫?」姉は心配していく。
「私も海淵家の血を受け継いでいるのよ。大丈夫。久しぶりに大暴れして、悪い人たちを思い切り痺れさせちゃうから」
「じゃあ、決まったわね。ーーー行くよ!」
この合図とともに、陰洲鱒の六人が駆け出していった。
ブロック塀に手と足を掛けて、飛び上がる。
パトカーのルーフに着地して、再び跳躍した流海。
「ごめんなさいね」
と断り、瞳を朱色に光らせて銃弾をすり抜けた。
海馬と龍海と真海も、赤い雷を地上から発生させた。
赤い電撃の壁が兵隊の銃弾を弾いていき、五人は壁ごと窓枠を突き破って施設に侵入した。海淵家の三人は四階B棟に。黄肌家の二人は二階B棟に。そして、流海は一階のA棟を目指した。赤い稲妻を放出しながら高速で駆けていく流海の力を受けて、窓から銃撃していた兵隊たちは“ことごとく”焼かれるか吹き飛ばされるかをして兵力を減らしていった。四階B棟の壁を破壊して突入した、真海と龍海と海馬は、受け身をとって転がり片膝を突いて停止して周りを見渡していく。二階B棟に突入した潮と有子も、受け身をとって転がって片膝を突いてから“ゆっくり”と身を起こしていった。屋上六階五階は、潮干ミドリがひとりでだいたい全滅させたとは言っても、二階に八〇と三階に六〇と四階に七〇ほどの十字軍兵隊たちが移動中または待機していた。
そして、新世界十字軍には協力者もいる。それは、人魚こと深者の橦木交太郎と、彼の腹違いの双子の息子の橦木朱右衛門と橦木朱左衛門、姥湯奓隴と姥湯伍郎と姥湯陸郎、最後は姥湯鮫花。蛇轟秘密教団の四幹部のうち、野木切鱶太郎は丸山町思案橋繁華街で海原摩魚から倒されたことを知り、橦木交太郎が腹違いの双子の息子たちと元幹部の姥湯奓隴一家を引き連れて待ち構えていた。四幹部の鰐蝶之介と入江美沙はどうしているかというと、教団内部で待機していた。待機していたと言っても二人は教団では権力側なので、比較的自由に移動や出入りをしていた。蝶之助ら深三兄弟は幹部という立場もあってか、今の今まで余裕を見せていたが、次男坊の鱶太郎が小娘から一刀両断で倒されたと“情報係”から聞いたときは、さすがに驚愕して気合いを入れた。我ら自慢の、通常の皮膚と変わらぬ伸縮性と柔軟性を持ち、切断はおろか焼き斬ることなど不可能に近い鮫肌であるはずが、次期生贄で誘拐軟禁していた小娘の海原摩魚から我が三兄弟の次男坊が真っ二つにされていたとあれば、深者たちとくにフカ一族の顔に泥を塗られた行為である。そしてこれは、百二五年前にあった、当時の貿易会社の龍宮商会社長である龍宮龍子からフカ一族の四人目の兄弟の鰐恵一郎が切断殺害されて以来の出来事であった。“人”を借りた姿ではなく、本来の深者としての姿形で柔軟かつ強靭な皮膚ごと刺身にされた。以上のことから、長男坊の蝶之助をはじめに三男坊の交太郎と再従兄弟の奓隴とこれまた再従姉妹の鮫花らの主要“人物たち”は殺気立っていた。
四階B棟の海淵家。
新世界十字軍の兵隊たちが銃剣やAK改にショットガンを構えての一斉射撃が開始されたのと同時に、海淵龍海は瞳を朱色に光らせて身体の両側に赤い鱗を瞬時に出現させると、突き出した両手の平から赤色の稲妻を放電させていった。飛んでくる各種銃弾を焼いていきながら、龍海の赤い稲妻は兵隊たちに直撃して突飛ばしていき、ある者たちは焼かれて建物の外に放り出されて、またある者たちは焼かれながら壁にめり込んだり破壊して突き破ったりなどをして、あっという間にその数を減らしていった。床に転がる人の形の炭を見渡した母親の海馬が、我が息子を見て。
「やるじゃん」
「ありがとう。使い方は、夢の中で龍子さんから習ったんだ」
「あとで、夢の中でお礼を言いなさい」
「分かった」
頷く息子を、海馬は母親の微笑みで見た。
その彼の隣では、数歩前に出ていた真海がいた。
「お次は私ね」
鈴の鳴るような声で、先と天井に目をやりながら。
「五階から兵隊たちが下りてくるわ。余りは任せて」
こう言ったとき、彼女の瞳が朱色に光り、長い黒髪が浮き上がった。
カッ!と身体の前面を赤色に発光させた瞬間。
ドン!と施設建物だけではなく、敷地一帯が揺れた。
窓ガラスを赤い稲妻が次々と突き破り、四階を貫いた。
この一時的な地震と雷の発生に現場の者全員が止まった。
肉の焼け焦げる臭いと、内壁や備品が焦げて融解していた。
六階のミドリとハニーが、腰を沈めて転倒を防いだ。
出入口駐車場の菊代とファ姉妹も動きを止めて怪異を目撃。
足を止めて見ていた流海は小さく笑い、再び駆け出した。
一階A棟の娘四〇〇人と、夢子と兵隊たちも驚いていた。
二階B棟の有子と潮は、この出来事に白い歯を剥いて笑い。
「母さん、あたしたちもやろう!」
「オーケー!」
母娘同時に瞳を金色に光らせて。
身体の両側に金色の鱗を現した。
両拳を顔の前に半身で構えた、クラウチングから。
ワンツーパンチを打ったとき、黄色に輝く炎を放った。
銃弾ごと兵隊たちを包み込んで燃やしていく。
次は、稲穂色の髪の毛を前方に発射した。
その頭髪は兵隊たちの身体を焼き斬っていき。
炎を纏った蹴りが、兵隊たちの頭や身体や四肢を粉砕し。
超高熱の髪の毛が、銃器まで焼いて刻んでいった。
そうして。
海淵家と黄肌家の両家は各A棟に到着していた。
四階A棟で海淵家の三人を待ち受けていた者たちは。
姥湯奓隴、双子の息子の伍郎と陸郎。
そして、妻の姥湯鮫花。
二階A棟でも黄肌母娘を待ち受けていた者たちがいた。
橦木交太郎と、腹違いの息子の朱右衛門と朱左衛門。
それから。流海も、一階A棟に到着目前であった。
これらの様子を見ていた、第九団隊団長の片倉菊代。
決意をして、スマホ型超遠距離無線機を取り出した。
「夢子小隊長、聞こえるか?」
『はい。こちら金藤夢子』
「目の前にいる“鱗持ち”の四〇〇人を焼け」
『はい、了解!』
3
同じ時間帯。
施設の一階A棟。
通話を終えた金藤夢子が、目の前の鱗の娘たちを向いて嘲笑した。
「あーあ、残念。今しがた団長の指示で、あんたら全員を焼くことになったわ」
四〇〇人の包囲する兵隊の人員は、左右に四人と裏口にひとり。
夢子小隊長は、周囲に目配せしたあと言葉を続ける。
「塩焼きが良いかしら? それとも味噌焼き? やっぱり“素焼き”が一番でしょ!」
続いて、彼女は引き金に掛けていた指を引いた。
「鱗生やして気持ち悪いんだよ! お前ら消毒してやる!」
これが合図となり、残り九人の兵隊たちも火炎を放射した。
裏口が乱暴に開けられて、兵隊が放り出されたそのとき。
瞳を虹色に光らせた流海が一階A棟に飛び込んできた。
「しゃがんで!」と、彼女が四〇〇人に声を投げ。
両腕を広げて、鱗の娘たちの頭上を覆うような格好で宙を舞い。
身体の両側に虹色の鱗を現して、黒髪を放射状に伸ばした。
流海をはじめ、四〇〇人の娘たちを覆い隠す半球のドームになった。
以上、これらの出来事は、コンマ数秒。
一秒にも満たない瞬く間の事態であった。
流海の黒髪が、鱗の娘たちを放射されていく火炎から護衛した。
これが『護衛の陣』である。
そして、黒髪の半球を夢子たちの吹き付けた火炎が被さっていく。
これと同時に、隣の駐車場では。
ドリフトしてきた臼田幹江の赤いスカイラインが並列駐車で潮のファミリーカーの隣に着けて、車内から片倉昇子が出てきた。昇子は地面に両手の平と片膝を突いた形から、腰を浮かせていった姿勢に変えて、クラウチングスタートを構えた。そして、頭を前に上げた彼女の赤褐色の瞳が蜂蜜色に光ったとき、前面にハニーイエローに光るハートの円形魔方陣が三メートル間隔で出現して、学会施設の一階A棟まで達した。自身に心の声で「ヨーイ、ドン!」と掛けたとき、昇子は駆け出した。円形魔方陣を通り抜けることによって、昇子は数百メートルを短時間で移動することが出来ていた。
次に、院里学会からレンタルしていたダークブルーのハイエースも、ドリフトしながら赤いスカイラインの隣に並列駐車した。その運転席から出てきたのは、美貌の黒曜石の魔女こと片倉日並であった。運転を途中から蛙男こと磯辺毅と交代していたようだ。長く赤黒い髪の毛を夏風に靡かせながら、日並は、立ち位置から学会施設を目測して、自身の前面に赤色の逆さ五芒星の円形魔方陣を出現させた。そして、それは真ん中から割れて観音開きをすると、足を進める日並を飲み込んで消失した。
一階A棟に戻り。
周囲から吹き付けられてくる火炎の熱に、流海は堪えていた。
いくら虹色の光りの力を使っているとは言っても、長い時間で継続してくる炎は“さすがに”熱と痛みをおぼえるもの。瞬発的な爆発だった場合はすぐに過ぎ去るから問題は無いのだが、高熱を浴び続けるとなれば話しは別である。あと、立て続けの爆撃や止めなく流れるマグマ、そして核爆は『護衛の陣』でも一か八かの命懸けであった。そうして、陰洲鱒の螺鈿の巫女が使用する虹色の鱗の力は、長時間の持続可能な物ではなく、極めて短時間であった。しかし、虹色に対しての通常の鱗の色の光の場合であったら、護衛の陣も長時間持続ができる。だが、流海が使っているこの虹色の鱗の力だったため、消える時間が迫っていた。流海さん!と周りの娘たちからの心配する声を聞きながら、流海は顔の前で腕をクロスさせて歯を食いしばり堪えていた。
優越感に浸っていた夢子は、火炎を放射したまま叫んだ。
「お前ら。タンクが空になるまで焼き続けろよ! 数百体という化物の焼却処分の一大イベントだからな!」
「了解!!」と、隊員たちは一斉に返答した。
「ここって、スプリンクラーを前もって稼動できないようにしてんのよね。だから、お前ら化物が灰になるまで止まらないってことよ!」
もはや勝ち誇った語りをしていた夢子のすぐ横に、ハニーイエローに光るハートの円形魔方陣の出現とともに「ハッケヨーイ」と女の声が耳に入ってきた。え?と思った夢子が瞳をそこに流したとき、蜂蜜色の髪の毛をした長身美女が両手を前に構えて突進してきていた。
「ノコッタ!」
「おわ!!」
片倉昇子からのフルパワーのブチカマシを真横から“まともに”喰らった夢子は、あれよあれよと押されていき、一階A棟の出入口扉を突き破って外へと放り出されてしまった。落下した彼女は、放射していた炎に巻かれながらバウンドと転がりを繰り返していき、やがて学会施設の出入口ゲートの柱にその身を当てた瞬間、背中の燃料タンクが破けて引火爆発をした。
「おわあ!」
と、仲良く驚きを上げる、菊代とファ姉妹。
夢子は、二度目の爆発で豪快に火柱を上げていった。
驚愕しつつも、菊代は一階出入口を確認していく。
「昇子……、ちゃん?」
そして、信じられないという眼差しで姪っ子の姿を見た。
「嘘でしょ……?」
まさか、私の可愛い姪が魔法を使ったとでも言うのか?
菊代の表情は“そう”語っていた。
スーーッと部屋の中へと入り込んでいった昇子。
一階A棟内部に戻って。
残る兵隊は、建物の駐車場側に四人と背側の四人。
爆音と小隊長の姿が消えたことに気づいたツートップの男兵隊が。
「小隊長がいない!ーーー誰だ! お前!」
建物の背側のツートップの彼が、銃口を昇子に向けた。
そう声をあげた男兵隊の背後に、ハートの円形魔方陣が現れた。
それはひとつではなく、二つ同時に出現した。
そして、その先にも三メートル間隔で複数。
同時に、赤色の逆さ五芒星の円形魔方陣も兵隊たちの背後を取った。
兵隊二人の背後を取った昇子は、自身の目の前にも円形魔方陣を出して、ダッシュしてこれに入った。すると、二つの魔方陣から現れた“二人の”昇子のブチカマシを背後から受けた兵隊二人は円形魔方陣を通過して、流海の護衛の陣をもすり抜けていき、やがて駐車場側で噴射していた兵隊二人と真正面から衝突した。そしてそれは同じように、赤色の逆さ五芒星の円形魔方陣から現れた“二人の”片倉日並から、建物背側の残り二人の兵隊は背後からブチカマシを受けて、護衛の陣をすり抜け、あっという間に駐車場側の兵隊二人と正面衝突をしてしまった。これがこのまま壁に当たるかと思わせたとき、新たに出てきたハニーイエローと赤色の円形魔方陣を抜けて“彼ら”は建物の外へと突き出されてしまった。男二人ずつ絡んで炎に巻かれながら地面を転がっていき、背中の燃料タンクが瞬間的な圧力に堪えかねて破裂して、四つの爆炎を噴き上げた。この様子を窓から見ていた、昇子と日並の親子。全滅したことを確かめたのちに、母と娘は微笑み合った。それから、彼女たち二人は半球ドーム状の黒髪の元へと近寄った。それは、意外と大きな半球状の“物体”であった。ともに百八〇センチに近い身長の日並と昇子が、見上げるほどの高さをした物であった。なにせ、軟禁されていた四〇〇人の娘たちを一気に助けるために流海が伸ばして広げた髪の毛であり、巨大さは当然だった。頭髪の焼け焦げていく臭いに、日並と昇子は若干顔を“しかめた”ものの、すぐに気を取り直して“物体”の中にいる流海たちの身を心配して呼びかけていった。
「流海さん。もう心配ありません。連中は片付けたわ」
「終わりましたよ。周りは私と母さんだけです」
日並と昇子の呼びかけに答えるように、黒色の半球状の物体が床から上へ上へと引いていって、みるみるうちに中央の“持ち主”へと集束していった。
「あーーー! 終わった! 熱かったあーーー!」
んんー!と天井高く両手を上げて伸びをしていく流海の足下に、“ちりぢり”に焼け焦げた髪の毛がバサッと落ちて床に広がった。縦ロール気味な癖毛を維持しつつも、腰まであった流海の黒髪は“少し短く”セミロングになっていた。この赤い瞳の美女の仕草や表情を見ていた昇子は、思わず「可愛い……」と呟いてしまった。
よかったーー!みんな無事ね!
と、鱗の娘たちは仲良く手を取って“きゃいきゃい”喜んでいった。
解放されて感極まって泣いていたショートヘアーの女の子の頭を抱きしめて“ヨシヨシ”と撫でていた流海が、日並と昇子に笑顔を向けて。
「あなたたちが助けてくれたのね」
「ええ、まあ」少し照れ臭そうな日並。
「はい」と、自信満々な昇子。
「ありがとう」
流海は、愛らしい微笑みを日並と昇子に向けて、心からの礼を述べた。
「さあて。お次は私の番だね」
気持ちを入れ直した日並が、締めた表情をして流海に述べた。
「今の空気に浸っていたいところを悪いけれど、ここから女の子たちを出さないと終わらないよ」
「あはは。そうだったわね」
流海は鈴の鳴るような声で笑って、納得した。
日並も「うふふ」と微笑んだ。
そして、床一面に赤色の逆さ五芒星の円形魔方陣が浮かび上がった。
日並は両手を内側に扇がせて「もう少し中に」と無言で指示した。
四〇〇人の娘たちは彼女に従って、お互いに身を寄せ合う。
「キュルン☆」
と、ウィンクした日並が人差し指を軽く回した、そのとき。
大人数の娘たちが足下から魔方陣へと吸い込まれていった。
直後。
施設隣の大駐車場では。
五台の北九州観光バス商会の観光バスが停車していた横の駐車区画の空白に、大きな赤い逆さ五芒星の円形魔方陣が光り輝いて現れたと思ったら、四〇〇人以上の“鱗の娘”たちが地面から生えるように頭から足まで出現した。この予想外の光景に、気づいた稲葉輝一郎刑事と椿桂一郎警部補が振り向いて、呆気に目を見開いた。大の男が二人して口をパクパクしたのちに、今回の大救出劇を担った捜査班班長の横溝正則警部にへと呼びかけていった。そしてこのとき、臼田幹恵と潮干タヱも、目の前で起きた現象に驚いて動きを止めていた。
院里学会施設の駐車場。
施設B棟一階から大きな赤い光りの点滅してすぐに、隣の大きな駐車場の空きスペースから赤色の点滅とともに下からせり上がってきた四〇〇人以上の若い娘たちを目撃していた、第九団隊団長の片倉菊代と団長側近の花陽と花陰の姉妹は、目を丸くして呆気と驚愕をしていた。
言葉を絞り出していく菊代。
「あ、あんな数を転送することができるなんて、ヒナミンしかいない。ハッキリ言うが、私はあんな大人数はできないぞ」
「え? それは本当ですか?」驚く花陽。
「ああ。本当さ。ーーー四〇〇人以上できたなら、一千人超えも可能だろ」
「凄い。私たちは五人一組までです」
「だろ?ーーー私でさえ、せいぜい百人だ。だから彼女を尊敬できる」
そう言って、菊代は微笑んだ。
再び学会施設の隣の大駐車場。
ミドリが屋上に突撃していた間。
四〇〇人以上の美しい娘たちを前にして、警察手帳を掲げて状況を説明していく横溝正則警部。
「皆さん聞いてください。目の前のバスを見て分かる通り、移動手段を手配しました。ので、避難先に移動する際には、こちらの椿圭一郎警部補の誘導と指示に従ってください。お願いします」
「一台につき八〇人ずつ乗れます。なので、移動する際には五つの班に分かれてください」
横溝警部から紹介に預かった、圭一郎警部補が繋げた。
はーい!と黄色い声が返ってきた。
そんな中で、ショートヘアーの娘が四〇〇人の群れから駆け出した。
「タヱちゃん! タヱちゃーーん!」
「あ。泣き虫マンボウ」
先ほど、流海の腕の中で感極まって泣いていた“あの”娘が、潮干タヱの姿に気づいて嬉しさのあまり飛び出してきた。陰洲鱒町を出てもうすぐで一月を経過するほど長く市内で生活をしていた潮干タヱは、島を出る前の姿からは想像がつかないほどに成長と変化を遂げていた。が、しかし、この『泣き虫マンボウ』と呼ばれたショートヘアーの娘には、彼女が一目で我が町の同級生だと分かったのだ。白い七分袖シャツの前にフリルギャザーが三段重ねてある上着に、ピタッとした伸縮性のあるGパンに水色のスニーカーという、ちょっとフェミニンな格好をしたショートヘアー娘は、タヱの元へと一直線に駆け寄ってきて抱きついた。
「あはは。タヱちゃん、久しぶり!」
「月魚ちゃん、久しぶり!」
タヱも嬉しくなって彼女を抱きしめた。
翻車月魚。二二歳。
陰洲鱒町立陰洲鱒学校高等部卒業。小中高校一貫性の地元の学校をタヱと一緒に卒業した、長身で細身の美しい娘。月魚は身長は百六四センチとあり、八月の直前までタヱよりも背が高かったのだが、現在は彼女に抜かれてしまって腕の中で頭を抱かれていた。そして、タヱの背中に腕を回した月魚。
彼女の胸元から顔を上げて、月魚は瞳をキラキラ輝かせた。
「タヱちゃん、しばらく見ないうちに綺麗になったね。良かった!」
「ありがとう。月魚ちゃんもオトナっぽくて美人だよ。可愛い」
「エヘヘ。嬉しい」
と、褒められた月魚は級友の胸元に赤面した顔を埋めた。
「うふふ」と、タヱが目じりを下げた。
「やああ……。タヱちゃん。なーに、この女の子? 可愛い……」
二人のホワホワした空気にほだされて、臼田幹江は思わず近寄った。
「私の地元の学校の同級生です。彼女、月の魚と書いて月魚って言うんです」
「月の魚……。マンボウね」
「そうそう。月魚ちゃん、ちょっとメンタルが柔らかいせいで学生のときまで泣き癖があったので、ときどき私は『泣き虫マンボウ』って呼んでいました」
「可愛い……」
話しは“ちゃんと”聞いていた幹江だが、語彙力が低下した。
友達を可愛いと言われて、タヱは嬉しかった。
「でしょ? 可愛いでしょ」
級友の体温を堪能し終えたのか、月魚はタヱの胸元から離れると鼻を“ぐすっぐすっ”としながら目もとの涙を指で拭いて微笑んだ。
「うふふ。タヱちゃんに会えて良かった。ーーーじゃあ私、今から“みんな”と避難するから、行ってくるね」
「うん。気をつけてね!」
「じゃあね、またね!」
そうお互いに手を振って、一時の別れを惜しんで見送った。
一万文字超える長いエピソードですが、これで鱗の娘たちを救出する話は終わりです。




